障害児分野のカテゴリーを整理してみた
子どもを育てるという意味のことばがたくさんあります。
「保育」と「障害児保育」の違いは、対象となる子どもが異なるということは皆さん分かると思います。では「子育て」と「療育」、「障害児保育」の違いは分かりますか?
今回は、障害を持った子たちへの「保育」と「療育」について、用語の違いを整理していきます。
保育と療育の違い
◆ 保育とは
「保護・養護」+「教育」主に昼間に行われるもの
「保育」と「教育」に関する一考察」よりhttps://core.ac.uk/download/pdf/143642655.pdf
◆ 障害児保育
障害を持った子に対して行われる保育のこと
現在、障害を持った子への支援は「障害児保育」と呼ぶことが多いです。中高生に対してもです。実際に、長年障害児保育に携わっている人に聞いてみると、「保育」にかわる良いことばがないから、と言うことが多いです。就学前の子たちにも「保育」ということばが使われています。
また、障害児保育ということばの意味が広すぎるからか、保護者の求めること支援者がやりたいことに誤差が出やすいという特徴があります。
◆ 療育とは
障害を持った子どもの自由度を拡大しようとするもの
もともとは現代科学を活用して肢体不自由が回復したら有効に活用しよう(高木憲次氏)という考え方でした。そこから
↓
・障害を持った子どもの自由度を拡大しようとするもの
・それは優れた「子育て」でなければならない
(高松鶴吉氏)という考え方に変わってきました。そのため、療育とは「医療」と「教育」をあわせたものとは言い切れないのです。
『「療育とは・・・」再考
-環境の中で身体が脳をつくり、運動が心を創る-』より
中井昭夫
将来的に起こりうる生きづらさが少しでも軽減できるように、現時点でできるお手伝いをしていく、という目標は保育職でも専門職でも同じです。
支援者やセラピストによって、いろんな考え方があると思います。
セラピストがおちいりがちなのが「保育は主観的、療育は客観的」と考えてしまうことです。私も働き始めた頃にこのように考えていたことがあります。これは、保育職を敵に回すことになりえます。
障害児の分野には100%正解というのがありません。お互いが補完し合う関係を築いていく必要があります。保育職もセラピストも、自分の考えに固執し過ぎたり、何もせずに単なる「子預かり」になったりせずに、支援を進めていきたいものです。?
障害児保育って何だろう
例えば、放課後等デイサービスのような障害児施設には様々な職種が関わっています。
持っている資格も人によって異なります。多いのが保育職。もしくは支援員。支援員に明確な資格はありません。
保育活動では、職種による仕事の分かれ目が見えづらいこともあります。そんななかで、言語聴覚士(ST)などの専門職が働き始めると、まず躓くのが保育と療育、訓練の違いだと思います。ここをしっかりと押さえておかないと、働き辛くなります。はじめのうちは、実際に働いていてもよく分からないと思います。
保育と療育は対立すべきものではない
保育も療育も、遊びを通して、認知面や言語面、社会性などを育むものです。最近は、早期療育が当たり前になってきました。そのため、学齢期になって放課後等デイサービスに入る頃には、ある程度、落ち着いている子がほとんどです。しかし、中には「今まで療育を受けたことがない」「小さい頃は受けていたけれど、途中で止めてしまった」というケースがあります。
たまに「療育は好きではありません」という親御さんや保育スタッフもいます。
本来は保育と療育に明確な区切りなんてないのです。
保育と療育は、アプローチが違うだけで、目的は同じというものも多いのです。
逆に言うと、目的のない保育や療育は、子どもに響きません。保育スタッフも療育スタッフも、自分の支援に“目的”はありますか?
障害児保育の間違えた捉え方
生きやすくする=大人の言うことに応じてくれる子になる、というのは違います。
放課後等デイサービスは、学齢期の子どもが通っている場です。小中高と最長12年いることになります。
はじめて障害を持った子と関わる新人スタッフはどのように支援を行っていけばよいのか迷いますよね。先輩スタッフが声かけをすれば、子どもが言うことを聞いてくれる。素直に次の行動に移ってくれる。しかし、新しく入ったスタッフが、先輩スタッフと同じ働きかけをしても上手くいかない。
余計に焦ってしまう。そんなことがあるかもしれません。
経験が長いスタッフと子どもは、関係性ができ上がっています。その子の性格やパターン、特性などをスタッフも無意識的に把握しているケースも多いです。会ったばかりの大人をすんなりと受け入れてくれる子は少ないと思います。
先輩スタッフと子どもの様子を見て
「大人の指示通りに動けるようにするのが良い支援なのだ」
と新人スタッフが勘違いしてしまうことがあります。これは意外と多いです!そう考えてしまうと・・・
「〇〇をやって」
「次は□□ね」
という声かけだけの支援になりがちです。
これらの声かけがいけないわけではありません。何も考えずに声かけだけになることが問題なのです。
声かけの内容や意図を理解できない子かもしれません。
こだわりや周囲からの刺激があるために応じられないのかもしれません。
子どもの特性を配慮して、働きかけを決めていくことが大切なのです。
何事もパッと見で判断しない
一見できている、分かっている様に見えても、実際は他児が動く様子を見て真似ているだけだということもあります。
パターンとして覚えていることをやったら、たまたまそれが正解だったというケースもあります。
私たち支援者は
「なぜできたのか?」
「なぜできなかったのか?」
を考え、仮説を立て、それを支援に活かしていくことが求められるのです。
支援方法にも同じことが言えます。先輩スタッフのアプローチを見て自分も真似てみる。真似ることで自分のものにすることは、正しい学び方のひとつです。
しかし、真似て終わりにするのではなく「なぜ先輩はそうやったのか?」を考えることも必要なのではないでしょうか。
まとめとして
それぞれ線引きが難しいですが簡単に言うと・・・
育児
⇒ 子どものの世話や擁護すること(子育て)
保育
⇒ 子どもの気持ちに寄り添い一緒に活動しながら育ちを促すもの
子どもの気持ちに寄り添いながら育ちを促していく」もの
療育
⇒ 今、持っている力を使って発達的な課題を乗り越える手伝い。
丁寧な子育て
ということができます。
保育と療育の違いは何なのでしょうか?
実は、障害児分野における保育と療育には明確な区切りがありません。
子どものよりよい成長を促す。
目的は同じです。
目的へと向かう家庭や考え方が異なるだけです。
敵対する意味はないのです。
2017年10月28日 投稿
2020年 7月26日 加筆
2020年 9月 5日 再編集
参考資料
◆「療育とは・・・」再考
-環境の中で身体が脳をつくり、運動が心を創る-
中井昭夫
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/43/6/43_432/_pdf
◆「教育」と「保育」に関する一考察
小野順子
https://core.ac.uk/download/pdf/143642655.pdf