障害児分野のカテゴリーを整理してみた
「子どもを育てる」という意味のことばが たくさんあります。
教育、保育、育児、療育、などなど・・・。
それぞれの違いがわかりますか?
では、障害を持つ子を「育てる」場合はどの単語を使うのがよいのでしょうか?
・教育
・療育
・養育
・援助
・支援
・配慮
正直、どのことばも似たような感じで分かりにくいです。
ここでは、それぞれのことばを整理していきましょう。
障害の有無でも単語が異なる
基本的に障害の有無で使う用語が異なります。
保育、教育、育児、子育て・・・
頭に「障害」が付くと障害児を育てるときに使うことばになります。
障害児保育、障害児教育、障害児の育児、障害児の子育て・・・
また、就学前の子どもには「保育」、障害がある場合には「療育」を使うことが多いです。
用語の整理
障害児を「育てる」「助ける」
それでは「子どもを育てる」という意味のことばを紹介していきます。
保育(ほいく)
⇒ 乳幼児を保護し育てること
教育(きょういく)
⇒ 教え育てること。望ましい知識・技術・技能・規範などの学習を促進する意図的な働きかけの諸活動。
育児(いくじ)
⇒ 乳幼児を育てること。
子育て(こそだて)
⇒ 子を育てること。育児。
療育(りょういく)
⇒ 障害のある子どものために行う医療と保育・養育
支援(しえん)
⇒ 支え助けること。援助すること。
援助(えんじょ)
⇒ 助けること。助勢(肉体的・精神的な援助)
養育(よういく)
⇒ 養い(やしない)育てること。育む(はぐくむ)こと。
配慮(はいりょ)
⇒ 心を配ること。心づかい。
※ 上記の単語はすべて『岩波書店 広辞苑(第七版)』で調べたものです。
「支援」と「援助」の違い
「支援」は 支えること。一部を助けること。
「援助」は 対象者の代わりにやること。すべて助けること。
保育と療育の違い
◆ 障害児保育
障害を持った子に対して行われる保育のこと
障害を持った子への支援を「障害児保育」と呼ぶことがあります。
中高生に対しても同じです。
実際に、長年障害児保育に携わっている人に聞いてみると「保育」にかわる良いことばがないから使っている と言っていました。
就学前の子たちにも「保育」ということばが使われています。
◆ 療育とは
障害を持った子どもの自由度を拡大しようとするもの
もともとは現代科学を活用して肢体不自由が回復したら有効に活用しよう(高木憲次氏)という考え方でした。
そこから
↓
・障害を持った子どもの自由度を拡大しようとするもの
・それは優れた「子育て」でなければならない
(高松鶴吉氏)という考え方に変わってきました。そのため、療育とは「医療」と「教育」をあわせたものとは言い切れないのです。
『「療育とは・・・」再考
-環境の中で身体が脳をつくり、運動が心を創る-』(中井昭夫)より
用語から障害児保育・支援を考えてみる
なんだか意味があいまいな「障害児保育」ということば。
大きなくくりとしては、支援者の誰もが同じ意味合いで使っています。
・将来的に起こりうる「生きづらさ」が少しでも軽減できるよう
・現時点でできる「お手伝い」をしていく
という目標は保育職でも専門職でも同じです。
支援者やセラピストによって、いろんな考え方があると思います。
PT・OT・STのような リハビリ職のセラピストがおちいりやすいのが次のような考え方です。
「保育は主観的、療育は客観的」
・・・怒られますよね。
私も言語聴覚士として働き始めた頃にこのように考えていたことがあります。
これでは 保育職・支援職を敵に回すことになります。
障害児の分野には100%正解というのがありません。
お互いが補完し合う関係を築いていく必要があります。
保育職もセラピストも、自分の考えに固執し過ぎたり、何もせずに単なる「子預かり」になったりせずに、支援を進めていきたいものです。
障害児保育の間違えた捉え方
障害児保育での支援で次のような考え方をしている人がいます。
生きやすくなる=大人の言うことに従える子にする
大人の指示に従えるからといって「生きやすくなる」とは言い切れません。
自分で考え、理解し、動けるようになるための手助けが「障害児保育」だからです。
放デイで陥りやすい考え方
放課後等デイサービスは、学齢期の子どもが通っている場です。
小中高と最長12年いることになります。
はじめて障害を持った子と関わる新人スタッフはどのように支援を行っていけばよいのか迷いますよね。
先輩スタッフが子どもに声をかければ すんなり言うことを聞いてくれる。
素直に次の行動に移ってくれる。
しかし、新しく入ったスタッフが、先輩スタッフと同じ働きかけをしても上手くいかない。
余計に焦ってしまう。
そんなことがあるかもしれません。
経験が長いスタッフと子どもは、関係性ができ上がっています。
その子の性格やパターン、特性などをスタッフも無意識的に把握しているケースも多いです。
会ったばかりの大人をすんなりと受け入れてくれる子は少ないと思います。
先輩スタッフと子どもの様子を見て
「大人の指示通りに動けるようにするのが良い支援なのだ」
と新人スタッフが勘違いしてしまうことがあります。
これは意外と多いです!
でも、これは誤った考え方なのです。
このように考えてしまうと・・・
「〇〇をやって」
「次は□□ね」
「それは違うよ」
という声かけだけの支援になりがちです。
これらの声かけがいけないわけではありません。何も考えずに声かけだけになることが問題なのです。
声かけの内容や意図を理解できない子かもしれません。
こだわりや周囲からの刺激があるために応じられないのかもしれません。
子どもの特性を配慮して、子ども自身の「理解」を促していくことが大切なのです。
何事もパッと見で判断しない
一見できている、分かっている様に見えても、実際は他児が動く様子を見て真似ているだけだということもあります。
パターンとして覚えていることをやったら、たまたまそれが正解だったというケースもあります。
私たち支援者は、子どもの様子を見て仮説を立て、それを支援に活かしていくことが求められるのです。
「なぜできたのか?」「なぜできなかったのか?」と考えてみましょう。
支援方法にも同じことが言えます。
先輩スタッフのアプローチを見て自分も真似てみる。
真似ることで自分のものにすることは、正しい学び方のひとつです。
しかし、真似て終わりにするのではなく「なぜ先輩はそうやったのか?」を考えることも必要なのではないでしょうか。
保育と療育は対立すべきものではない
保育も療育も、遊びを通して、子どもの育ちを促すものです。
最近は、早期療育が当たり前になってきました。
そのため、学齢期になって放課後等デイサービスに入る頃には、ある程度、落ち着いている子がほとんどです。
しかし、中には「今まで療育を受けたことがない」「小さい頃は受けていたけれど、途中で止めてしまった」というケースがあります。
たまに「療育は好きではありません」という親御さんや保育・支援スタッフもいます。
本来、保育や療育に明確な区切りなんてないのです。
保育と療育は、アプローチが違うだけで、目的は同じというものも多いのです。
逆に言うと、目的のない保育や療育は、子どもに響きません。
保育・支援スタッフも療育スタッフも、自分の支援に“目的”はありますか?
まとめとして
今回は、障害児を育てる・助けるという意味で使われている用語を説明してみました。
そこから、障害児支援で役に立つ考え方を付け加えてみました。
それぞれ線引きが難しいですが簡単に言うと上記のような意味で使われます。
保育と療育の違いは何なのでしょうか?
実は、障害児分野における保育と療育には明確な区切りがありません。
子どものよりよい成長を促すこと。
目的は同じです。
目的へと向かう過程や考え方が異なるだけです。
職種間、スタッフ間で敵対する意味なんてないはずなのです。
よかったら参考にしてみてくださいね。
2017年10月28日 投稿
2020年 7月26日 加筆
2020年 9月 5日 再編集
2023年 7月 1日 再編集
参考資料
◆「療育とは・・・」再考
-環境の中で身体が脳をつくり、運動が心を創る-
中井昭夫
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/43/6/43_432/_pdf
◆「教育」と「保育」に関する一考察
小野順子
https://core.ac.uk/download/pdf/143642655.pdf