言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

知らずに犯していた「優しい虐待」―障害児支援の落とし穴に注意

優しさの陰に潜む「優しい虐待」

「優しい虐待」ということばを聞いたことはありますか?

「虐待」は自分よりも弱いものに危害を加えること。逆に「優しい虐待」は本人にそのつもりがないけれど結果的に虐待となっていることです。様々な場面で見過ごされているけれど確実に存在します。

今回は福祉、特に障害児支援・保育で起きやすい「優しい虐待」について紹介します。

これを防ぐには「もしかしたら虐待になっているかも?!」という「知識」や「情報」が必要です。この記事を読んで支援の役に立ててもらえればと思います。

 

 

虐待とは

広辞苑では次のように書かれています。

 

虐待(ぎゃくたい)

むごく取り扱うこと。残忍な待遇。

岩波書店『広辞苑』(第七版)より

 

支援だけではなく子育てや教育などの場面でも起きてはならないものです。

 

優しい虐待の事例

ここからは実際にあった事例を紹介していきます。

 

◆食事

・嚥下障害や食べる機能が未発達な状態の子に、「他の子と同じものを食べさせてあげたい」と言って大人と同じものを食べさせてしまう。細かくカットしておけば大丈夫でしょ。と食事を出すが、誤嚥や窒息を繰り返してしまう。

・水分を飲むのが苦手な子。少しずつ時間をかければ飲める。けれど一度にたくさん飲んでほしい。子どもの顎を持ち上げて水分を流し込めばいいんじゃない?水分は喉の奥へと消えていく。しかし溺れていることに支援者が気づかない。むしろ満足そう。

・口から食事をとらないよう医者から言われている。しかし、面会やおやつの時間に隠れて持参したものを食べさせている。少しだからいいよね?これが習慣化してしまう。もちろん、医者や施設側は知らないので何か起きても対応が遅れてしまう。

 

◆子育て

・「あなたのためだから」と言って友だちと遊ぶことを禁止して勉強や習い事を強要し続ける。「あの子と遊ばないようにしなさい」と親が友だちを選別する。

・可愛がり過ぎて何でも許してしまう。何か欲しがっても、悪いことをしても。いうことを聞かなくてもすべて許してしまう。

・祖父母が過度に子育てに口を出す。「叱らなくっちゃいけないのよ」と言って親のやっている子育てを否定する。

 

 

優しい虐待を防ぐために

次に「優しい虐待」についてみていきましょう。

 

優しい虐待が起きる原因は?

優しい虐待とは、先ほども触れたとおり、無意識的に起きている虐待です。悪気があってやっているわけではありません。みんな「良くしてあげたい」という思いでやっているので周囲の人が指摘づらかったり、表沙汰になりにくかったりするのが特徴です。

 

・障害や疾患のない子と同じようにしてあげたい
・私はこれで大丈夫だったからこの子も大丈夫なはず
・インターネットに書いてあったから
・先輩が言ってたから

この「良かれと思って」の輪を断ち切るまで「虐待」は続いていきます。

 

子どものためを思うから

一番多いのが「子どものために何かをしてあげたい」。だからこそ「この蔵ならやってあげてもいいんじゃないか」「先生は○○って言っていたけれど、そんなことはない」と考えてしまうのです。

「この子に何かやってあげたい」これは本心だと思います。

しかし、子どもは、わたしたちと同じ年齢ではありませんし、経験も異なります。障害や疾患などが まるっきり同じということは考えにくい。

目の前にいる子を一人の人間として客観的に捉える必要があるのです。

 

知識や情報がないから

医療や福祉の分野で起こりやすいです。この分野では医療などの正しい知識がない人が「これなら大丈夫」「こっちのほうがよい」と勝手に物事を進めてしまうことが原因となるケースです。

ネットに書かれていた適当な情報に惑わされないでください。質問を答えるようなサイトでも、専門家でもない人が勝手に答えているケースもたくさんあります。怖いですよね。そういった情報に惑わされないでください。

職場の先輩が「今までこういう対応をしてきたから」という訳の分からない自信にも気をつけてください。その先輩が専門的な知識を持っている人なら参考にしてもよいかもしれません。

しかし、何となく、施設で慣習的にやってきたことを、ただやっているだけというケースもあります。「これって正しい情報なの?」疑ってみてください。

良かれて思ってやったことが本人を苦しめる結果になっているかもしれません。

 

支配してしまうから

「大人の言うとおりにすれば大丈夫」

誰もが言うセリフです。しかし、これは万能ではありません。子どもは未熟な存在ではありません。経験が少ないだけです。わたしたち大人と違って未来がある。

・子どもは親と別の人間だから

・昔と今は様々な状況が異なるから

子どもにもそれぞれの人格があります。大人が子どもだった頃とは文化も環境も違っています。

たしかに、自分の経験を伝えることは大切です。しかし、押し付けてしまうのはやりすぎです。支配してもよい結果は何も生まれません。当たり前のことを大人は忘れてしまいがちなのです。

 

気をつけるべきこと

わたしたちは、どんなことに気をつけていけばよいのでしょうか?

まずは「当たり前」を疑ってみることが大切です。

食事中に楽しい雰囲気にしたいからといって、音楽や映像を流すのは良いことなの?先輩は絶賛しているけれど、集中して食べられない子もいるんじゃないのかな?

いろいろ疑ってみてください。よくないことが まかり通っている施設は結構あります。

 

施設であれば専門家に相談してみるのが一番です。いろんな種類の専門家がいます。自分の知りたいことを答えてくれそうな専門家を探してください。下記は障害児施設で働く専門職の一部です。

・理学療法士(PT)
・作業療法士(OT)
・言語聴覚士(ST)
・医師
・看護師
・保育士

STに歩く練習方法を聞いても答えられません。それぞれの「専門分野」を調べてから相談するのがよいです。

www.hana-mode.com

 

オススメの漫画

「優しい虐待」について分かりやすく紹介している漫画があります。『おわかれホスピタル』という看護師のはなしです。著者自身も数多くの発達障害を持っている方です。

ちなみに「優しい虐待」は6巻で出てきます。

 

まとめとして

今回は「優しい虐待」を紹介しました。子どものために何かをしてあげたい。でも、障害のことはよく分からない。このような場面が障害児支援の現場ではたくさんあります。だからこそ「優しい虐待」が起こりやすいのです。

一度、自分がやっていること、やろうとしていることを疑ってみてください。面倒かもしれません。しかし、そうやって立ち止まって考えることが、子どものためにもなるのです。

良かったら参考にしてみてくださいね。