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「ムセ」と「誤嚥」の違いとは?いまさら聞けない食事支援の基礎知識

「ムセ」と「誤嚥」の違いについて

食事介助をしているとき、相手が咳き込んでしまったという経験はありませんか?

介助者はドキッとしてしまいます。

これがいわゆる「ムセ」です。

 

似たものに「誤嚥」や「窒息」というものがあります。

これらは同じ意味なのでしょうか?

 

いいえ、違います。

同じだと捉えてしまうと危険です。

喉に詰まっている度合いが違うからです。

 

今回は「ムセ」に関するはなしです。

「ムセ」や「誤嚥」、「窒息」の違いを説明します。

これらをおさえて、安全に食事介助を進めていきましょう。

 

 

 

 

ムセるって何?

食べている最中に急に咳き込んでしまった経験はありませんか?

この咳込みが「ムセた」という状態です。

 

ムセは喉に詰まりかけた食物を自力で出す防御反応です。

これ自体が悪いというわけではありません。

 

逆に、ムセない子の方が心配です。

ムセない子というのは、咳の反射が弱かったり、出なかったりしている状態です。

食物だけでなく自分の唾液もダラダラと気管に入っていき、そのまま誤嚥していると考えられます。

 

 

誤嚥が原因で肺炎になる可能性もあります

時々、力で無理やり飲み込んでしまう子もいます。

しかし、それが習慣になってしまい悪癖となるケースがあります。

若い今は大丈夫かもしれません。

将来、歳をとってから筋力が落ちたら・・・と考えると恐ろしいです。

 

 

「ムセ」と「誤嚥」の違い

良く混合されるのですが、「ムセ」と「誤嚥」は異なります。

ざっくり言ってしまうと、この違いは「食物が声帯より先に進むか否か」ということ。

 

 

「ムセ」

「声帯」より先には食物入っていない状態

 

 

「誤嚥」

「声帯」を越えて気管に食物が入ってしまった状態

 

気管に食物が入ってしまったときに、咳き込むことが出来るものが顕性誤嚥(けんせいごえん)、咳込みがみられないものが不顕性誤嚥(ふけんせいごえん/サイレントアスピレーション)と呼ばれています。

 

誤嚥したものが気管に詰まった状態を「窒息」と呼びます。 

 

咳をするとは?

「咳をする」というのは、気管や肺に入りそうな食物を咳の力で押し出して、スッキリときれいにするということです。

詰まりそうになったとき、咳をして身体から出すのが咳の役割です。

そのため、「咳をする」というのは大切な力なのです。

 

 

「ムセ」は“声帯”より先には食物入っていない状態

「誤嚥」は“声帯”を越えて気管に食物が入ってしまった状態

 

 

 

ムセた時はどうする?

子どもがムセてしまった時に、慌ててその子の背中を叩く人がいますが、叩いた勢いで気管に入ってしまうことがあります。

では、どうすればよいのか?子ども自身が一番驚いていると思いますので優しく声をかけながら背中をさすってあげてください。

↑ あくまで「ムセ」たときです。

その後、呼吸が整ってから、食事を再開します。

もしも、呼吸や顔色がおかしくなってきたら、救命救急の講習等で習うような、背中を叩いたり、腹部を突き上げたり対処をしていきます。


 

ムセる原因とは?

食事介助をしていて支援者が怖いな、と感じるのは「ムセ」だと思います。ムセの原因も子どもによって様々です。

 

「口を閉じないで食べる子」

口をしっかり閉じてゴックンしないと口の中にある食物がしっかりと喉の奥に送れずに気管に入ってしまいます。介助でスプーンを口から抜く際に、お子さんの前歯で食物をそぎ落とす介助をしている支援者もいるかと思います。それでは、食べる力が育ちません。できれば、子どもの上唇を下してスプーンの上の食物を取ってもらうようにします。上唇が下がれば下唇とぶつかって口が閉じると思います。その状態でスプーンを抜く。その際、スプーンは斜め上に引き抜くのではなく、まっすぐに引き抜きます。また、スプーンは下唇の上に軽く乗せておきます。

 

「食形態の問題」

パサパサした食べ物が苦手な子は多いです。口の中でまとまりづらいために、おかしなタイミングで食物が少しずつ喉の奥に送られてしまい、気管に入ってしまうからムセてします。野菜や肉などを小さく切ってから提供するケースもあります。しかし、細かく刻み過ぎてしまうと、口の中でまとまりづらくなって、よけいにムセてしまいます。極刻み=食べやすいとは言い切れません。大きさを考慮することも大切ですが、それよりも「硬さ」を気にしてみるとよいです。

 

「一口量が多すぎる」

例えば、口の中の容量が小さい子にカレースプーン山盛りのご飯を食べさせれば、口の中で処理ができなくなってしまいます。大人と子どもでは口の中の容量も違います。子どもの口の容量などにもよりますが、口の中が小さい子はティースプーン前方1/3位に乗せます。乗せる量が余りに少なすぎると今度は口の中で食物を認知できなくなる子もいるということは覚えておくとよいです。

 

「姿勢の問題」

よく「食べるのが苦手な子には車椅子の角度を下げる(90度よりも大きい角度にする)とよい」というのを見聞きしたことがあるかと思います。気管と食道は前後に平行で走っているために、車椅子を少し倒してあげると食物が誤って気管に入る可能性が減るからです。ここで気を付けたいのは、首と頭だけは起こす(立てる)ということです。首と頭を起こせば顎が下がります。この「顎を下げる」というのはポイントです。どんな姿勢であっても、顎を上げながら食べたり飲んだりするのは至難の業です。しかし、実際の食事介助でよくみられる光景です。試しに一度、自分自身の顎を上げならがら食事をしてみてください。つらいと思います。

 

補足

③と④は、上記の通り、介助者が無意識に行っている部分が大きいです。

なかには、緊張のコントロールが難しい子もいます。

筋緊張が低い子には、車椅子や坐位保持椅子に座るときに、しっかりと椅子の奥に座って、身体をまっすぐにする(正中を保つ・意識する)ことが大切です。

可能ならば、両足はフットレスト(フットサポート)に着いた状態にします。基本的に、両足が「着いた」状態で食べることが、食事の時の噛む・飲み込む等の踏ん張りに影響を与えます。

筋の緊張というのは、頭から足の先まで一気に緊張していることが多いです。そのため、筋緊張が強い子には、膝や足の指の関節等を曲げてあげることで緊張が緩むケースがあります。ぜひ試してみてください。その際には脱臼や骨折には注意してください。  

 

 

まとめとして

今回は「ムセ」に関するはなしをしました。

「ムセ」「誤嚥」「窒息」の違いは、食物がどこにあるのか?ということです。

「ムセ」は“声帯”より先には食物入っていない状態

「誤嚥」は“声帯”を越えて気管に食物が入ってしまった状態

「窒息」は気管に食物等が詰まってしまった状態

 

食事介助を何となく行うと危険です。

疑問がありましたら言語聴覚士や栄養士、歯科医師などの専門家に相談するとよいと思います。

 

本来、食事は楽しい時間です。

子どもが危険にさらされないためにも、支援者が力を合わせて安全に楽しい食事を提供できたらと思います。

よかったら参考にしてみてくださいね。

 

 

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