言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

よく「分かっている」子なのに「やってくれない」ことが多い理由とは?

分かっているはずなのに理解できていないのはなぜ?

障害を持つ子と一緒にいると「この子は分かっているかも?!」と感じる瞬間があります。

声をかければ(それなりに)指示に従ってくれる。

タイミングよくうなずいてくれる。

 

しかし、分かっているはずなのにできないことも多い。

やりたがらないことも。

 

気分屋なの?

わたしの言い方が悪いの?

そんな風に感じたことはありませんか?

 

実は、子どもの「分かる(理解する)」には段階があるのです。

そのため、「できること」「できないこと」にバラつきがみられるのです。

うわべだけ理解している状態の子も少なくないのです。

 

なんとなく理解している状態だと、大人からの指示に応じられたり応じられなかったりします。

今回は、子どもが「分かる(理解する)」ことの段階について説明します。

発達の段階に加えて、どんなことをすれば発達を促せるかもお話しします。

 

 

 

「分かっている」と決めつけていませんか?

 

大人が質問をしたとき、子どもが「うん」と言ったり、うなずいたりした。

これは「理解して答えた」と評価してもよいのでしょうか?

 

・タイミングが合っただけ
・質問の内容は分からないけど「うん」と言っただけ
・たまたまそのように見えただけ

 

ということも考えられます。一度の様子で子どもを評価するのは危険です。

 

 

高く評価してしまうことのリスク

 

子どものことを高く評価したい気持ちは分かります。

しかし、その後が問題です。

次に「できなかった」ときに

・なぜできないの?
・やりたくないの?
・わがままだ

このように、子どもがズレた評価をされる危険性があるのです。

 

さらに、高い評価をした大人は、高いものを子供に求める傾向があります。

 

・こんなのもできないの?
・なんで?
・わたし(大人)が悪いの?

 

できなければ、このような評価になるはずです。

それでは子どもがかわいそうです。

 

 

「子どもの理解度」には発達段階がある

そもそも、子どもは1つ理解したからと言ってもすべてを理解できているわけではありません

当たり前のことです。

しかし、大人はこの当たり前が抜け落ちてしまうのです。

 

理解する力の発達にも段階があります。

目の前にいる子はどのくらいの発達段階なのか?を考えることが子どもの「いまの力」を把握するためのポイントなのです。


大きく分けると3つ。

・触って分かる段階(0歳~)
・見て分かる段階(2歳くらい~)
・ことばとイメージを使う段階(3歳くらい~)

 

「積み木のパズル」いわゆる「型はめ」をやってもらうことで、どの段階なのかが分かります。

 

 

① 触って分かる段階

 

物を見ただけでは「それが何なのか?」が分かりません。

実際に手で触って操作をしてはじめて「あ!これか」と気づきます。

ex. 積み木のパズル

見ただけでは積み木を同じ形の穴まで持っていけない。いろんなかたちの積み木を穴まで持っていき、かたちが合うまで繰り返すことになる。

とりあえず手あたり次第穴に入れてみる段階です。

目を上手に使えていません。

「よく見て!」と大人から言われても、目だけではかたちを判断できない。

できなくても仕方がないのです。

大人の動きや顔を見て「指示内容」を何となくやっている場合もあります。

 

 

② 見て分かる段階

 

見ただけで「それが何なのか?」が分かります。

ex. 積み木のパズル

見ただけで「積み木のかたち」と「穴のかたち」が同じだと判断できる。

「積み木のかたち」と「穴のかたち」を見比べて、同じか違うかを判断できます。

見ただけで「ここだ!」とすぐわかります。

 

言い方を変えると次の力を獲得しているともいうことができます。


・「同じ」「違う」を理解している ⇒ マッチング

・「こうすれば○○になる」     ⇒ 因果関係

目に見えないものは「存在していないのと同じ」と考えている段階でもあります。

 

 

③ ことばとイメージを使う段階

 

ことばや指示などは相手の出したもの(相手の基準)です。

この基準に自分を合わせられるようになってくる時期です。

 

概念的な理解も深まり始め、こどばだけの指示にも応じられるようになってくるのです。

 

ex. 積み木のパズル
色が違っていても形が同じなら穴に入る。
積み木を「色分けして」「形で分けて」という指示に従えるようになってくる。

概念的とはルールのことです。

「色が違っていても形が同じなら穴に入る」というルール(決まり事)が分かります。

 

※この段階は個人差が大きいです。この段階に入ったばかりの子と、そうでない子では理解の深さが異なります。

 

◆質問の仕方で答えられなくなってしまう

✕ 「今日はどんな給食だった?」⇒答えられない

〇 「今日の給食には何が入ってた?」⇒答えられる

 

◆イメージする力

単語等のことばの理解やイメージの力の獲得によっても差が生まれます。まだ見た目に引っ張られてしまうのです。

 

イメージ(思考)の発達はこちらの記事をご覧ください。

www.hana-mode.com

 

 

大人ができること

子どもは発達段階によって理解の仕方が異なる、ということが分かりました。

それでは、発達をより促すために大人がしてあげられることはどのようなことでしょうか?

 

① 触って分かる段階(0歳~)

 

目の前にあることがすべて。なんでも瞬間的に終わってしまう時期。

 


◆感覚を受け入れる経験


受け入れられる「感覚刺激」を身体で感じる経験を重ねていきます。自分が動く中で大きさや距離などにも気づくこともできます。

感覚と身体を使って
・物に手を伸ばしたら好きな玩具が取れた
・スイッチを押したら音が鳴った


自分の行為と結果の関係などを学んでいくのです。

ボールを缶に入れる等の簡単な遊びでOKです。

 

 

② 見て分かる段階(2歳くらい~)

 

目で見て理解できるようになり始める。自分の行動が何となくまとまってくる時期。

視覚を手がかりに、ことばでも分かるようになってきます。

 


◆「終わり」を意識する

私たちの世界は「始まり」と「終わり」の繰り返しです。

目の前にあることは瞬間的でも永続的でもなく「終わり」があります。

「終わり」があるということを分かっていないと何も待てないし、不安定にもなってしまいます。

まずは「終わり」を意識できるよう支援を行います。

「終わり」は時間を理解するための第一歩なのです。

 

 

③ ことばとイメージを使う段階(3歳くらい~)

 

ことばで出された指示を理解できるようになってきます。

 


◆視覚的な手がかりも加える

はじめのうちは、目で見て分かるように指示を出さないと不安定になってしまうケースも多くあります。

徐々に自分の頭の中で手順等を組み立てて行動に移ることができるようになります。

まずは「手順書」や「スケジュール」などの視覚的な手助けを行って心の安定につなげていきましょう。

 

 

まとめとして

 

障害を持つ子と一緒にいるときに「この子は分かっているかも?!」と感じることがあります。

たしかに発達が進んで理解できることが増えたことが要因となっているかもしれません。

それはそれで喜ばしいことですよね。

しかし、部分的にしか分かっていないかもしれない。

支援を行う際には、それを忘れてはいけません。

 

わたし(支援者)が分かるのだから、子どもも分かっているはず。

そんなふうに考えてはいけません。

 

理解には発達的な順序があります。

・触って分かる段階(0歳~)
・見て分かる段階(2歳くらい~)
・ことばとイメージを使う段階(3歳くらい~)

これは、ざっくりとした目安です。

もちろん個人差があります。

大切なことは子どもの姿をしっかりと見ること。

そこから分かることもたくさんあります。

 

「この子はよく分かっている」

ではなく

「○○は分かるけれど△△はまだ難しいよね」

そんな目で見ていきたいですよね。

子どもの本質が見えてくるはずです。

よかったら参考にしてみてくださいね。

 

 

◆参考資料

発達支援と教材教具 II 子どもに学ぶ行動の理由 / 立松英子 【本】