言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

補聴器を使っている難聴の子がいる障害児施設のスタッフが知っておきたいこと

意外と知られていない「難聴」と「補聴器」のこと

放課後等デイサービスに通う子の中には、難聴(聞こえにくさ)がある子がいます。補聴器を使っている子も多いです。スタッフは、初めて見る補聴器に対して、扱いに困ってしまうと思います。

今回は、放課後等デイサービスの保育スタッフに伝えたい、聞こえと補聴器についてです。ちなみに私は、元・補聴器店スタッフ、現・放課後等デイサービスの言語聴覚士です。

 

 

 

難聴の種類

聞こえにくい人には音を大きくしてあげれば理解できる

これは正しくはありません。


なぜなら、聞こえにくさには2種類あるからです。

 

① 音量の問題

音が小さすぎて聴き取れない状態です。皆さんがイメージを持っている「難聴」です。補聴器などで、音を物理的に大きくしてあげると聞こえやすくなります。(専門用語で純音聴力といいます)
音量を上げて話すことが大切です。

単位はdB(デシベル)で表されます。

数値が小さいほど「聞こえている」といえます。

 


正 常 (~30dB)
 声が小さいと聞き取れないことがある

軽 度 (30~50dB)
 声が小さいと聞き取れないことが多い

中等度(50~70dB)
 普通の会話が利きづらい。
 近くの自動車の音にやっと気づく

高 度 (70~90dB)
 大きな声でも聴きづらい

重 度 (90dB~)
 衝撃音でも聞こえないものが多い

 


② はっきり聞こえているか?

音が歪んで聞こえる状態です。いくら音を大きくしても「歪んで聞こえる」ので、補聴器で完全に補いきれないことが多いです。(専門用語で語音聴力といいます)
大きな声で話しかけるだけではなく、はっきりと話すことが大切です。 


100~80% :

聴覚のみの会話でも理解できる。雑音下では△。

80~60% :

聴覚のみの会話はだいたいわかる。すべて理解するのは難しい

60~40% :

会話の内容を正確に理解できないことが多い

40~20% :

聴覚のみでは会話を理解することは難しい

20~ 0% :

聴覚のみではほとんど分からない。補聴器はコミュニケーションの補助手段として使う

 


気をつけたいのが・・・

 知的障害をあわせもっている場合

・「難聴がある」ので聞こえていない
・「理解できていない」ので聞こえないようにみえる

の違いが分かりにくいことがあるので注意が必要です。

 

 

難聴のタイプ

聞こえにくさにはタイプがあることが分かりました。

今度は、難聴のタイプです。


障害者手帳に「感音性難聴による聴覚障害 3級」のような記載がある子がいます。

この「感音性難聴」というのが「難聴のタイプ」です。

大きく分けると3つのタイプがあります。


それが

① 伝音難聴
② 感音難聴
③ 混合性難聴

 

 伝音難聴

音を大きくすれば、ことばを明瞭に効くことができるタイプ。補聴器の効果が高い。

中耳炎や奇形を伴う難聴に多いです。


感音難聴

音を大きくしても歪んで聞こえるタイプ。

突発性難聴や先天性難聴に多いです。


混合性難聴

音が小さく聞こえ、さらに歪んで聞こえるタイプ。

治療の遅れや合併などによって起こりうるものです。

 

※厳密にいうとその他にもタイプはあります。しかし、とりあえず、この3種類を覚えておけば大丈夫です。

 

 

 


オージオグラム(聴力図)って?

耳鼻科や難聴児施設などで聴力検査をした際に、結果の紙をもらうことがあります。

それがオージオグラムと呼ばれるものです。


線の上が聞こえる範囲、線の下は聞こえない範囲です。

下記は、日本語をオージオグラム上に表したものです。

これはスピーチバナナを呼ばれています。

このバナナの形が線の上(聞こえる範囲)に入っていれば「聞こえている」と判断することができます。ざっくりした図ですが日本語は、だいたいこのくらいの音です。


オージオグラム(聴力図)の説明はこちらをどうぞ

www.hana-mode.com

 

 


補聴器について

種類

大きく分けると3つのタイプがあります。



メリット
・操作が簡単
・(他のタイプと比べて)安価
・イヤフォンの性能が良い

デメリット

・生活動作に邪魔
・大きくて目立つ
・音の入りが不自然

 


耳掛け

メリット
・扱いやすい
・箱型よりも目立たない


デメリット

・汗に弱い
・眼鏡、マスクの邪魔


耳穴

メリット

・目立たない
・運動に適している
・斜めからの音を良く拾う(両耳装用時)

デメリット

・耳型採取の危険リスク
・外耳道の圧迫感、痛み、炎症のリスク

 


上記のメリット・デメリットは、一般的にいわれているものです。

現在、どの補聴器も性能が良くなり、デメリットが目立たなくなってきています。

 

 

補聴器をつけている子と関わる

1)補聴器に対して


① ハウリングが気になる

補聴器が大きくした音を自分で拾ったことによって出てしまう音。

甲高い「ピーピー」という音。耳穴にしっかりはまっていないと音が鳴ることもあります。

ハウリング音が聞こえると、保育スタッフが「どうしよう!」と慌てていることがあります。

ハウリング自体、子どもにダメージを与えるものではありません。

なので、慌てず、補聴器をしっかりと耳穴に入れ直してあげてください。

ポイントとしては、補聴器を顔前方に向けてねじりながら入れると、しっかりはまります。

(耳穴は顔と垂直に伸びているのではなく、斜め前に向かって伸びているので)

 


② 補聴器がぬれてしまった


慌てないでください。


少しぬれただけなら、しっかりと拭いて乾燥させてください。

水没したなら、電池を抜いて乾燥させてください。、


基本的に、補聴器は寝るときに外します。その際、「乾燥ボックス」にいれているはずです。

放課後等デイサービスにそれを持ってきていないと思いますが、持っているなら、そこに入れて乾燥させるとよいです。

現在、補聴器の性能が向上していて、防水機能がついているものも増えてきました。

しかし、プールや入浴のときは外すのが基本です。

 


2)子どもに対して

・正面から話す
 →補聴器をしていても、音がどこから聞こえてきたのか分かりづらいことがあります。子どもによっては、話者の口の動きを見ている場合もあります。子どもの正面から話しかけましょう。


・ゆっくり、はっきり話す

→いくら補聴器で音を大きくしても、早口だったりボソボソ話してしまったりしたら聞き取りづらいです。ゆっくり、はっきりが基本です。「こ、う、え、ん、い、く、よ」のように、一文字ずつ区切って話す人がいますが、かえって聞き取りにくいことがあるので、普通に話してOKです。ゆっくり話しても理解できないようであれば、質問の仕方や表現の仕方を変えてください。大人は無意識的に、難しい語句や長い文で話していることが意外と多いのです。


・必要以上に大声で話さない

→補聴器が音を大きくしてくれます。過度に大声を出すと、補聴器が「衝撃音」だと判断して、聴覚保護のために音量を下げる場合があります。


・管理に気をつける

→アナログ補聴器で10万円弱、デジタル補聴器で20~30万円します。片耳の値段です。

補助が出ている場合もありますが、高価なものには変わりありません。扱いには気をつけたいです。特に、他児がそれで遊ぶのは絶対にやめさせるべきです。

 


まとめとして

聞こえづらい子には、丁寧な対応が必要です。

ポイントは

・大声で話しただけでは理解できない子もいる

・ゆっくり、はっきり話す


対応のポイントがわかれば、あとはコミュニケーションを楽しむだけです。

耳の聞こえづらい子のなかには、人とのやり取りをあきらめている子もいます。

ぜひ、放課後等デイサービスの活動を通して、コミュニケーションの楽しさを伝えてください。

 

 

 

参考文献