聞こえているけれど理解できていない子がいるのはなぜ?
「聞こえているけれど、理解できない」
こんな子がたくさんいます。聞こえているのか、いないのか?判断に迷います。
「音が聞こえる」と「音の意味が分かる」は違うのです。子どもの理解面を評価する際には欠かせない視点です。
今回は、聞く力(聴覚)の発達段階をおさえつつ、発達障害や発達が初期段階の子の「聞こえづらさ」をみていきたいと思います。
「聞こえる」と「聞く」
音が「聞こえる」と音を「聞く」ことの違いは何でしょうか?
「聞こえる」( hear )
⇒ 音として耳に届いている状態。
音の意味が理解できるかどうかは不問
「聞く」( listen )
⇒ 自分から音に耳を傾ける。
音の意味を理解している
音の意味を理解しようとしている
1)聞くとは
私たちは、特に意識をすることなく声や音を聞いて、その意味を理解しています。
何かを見るには、自分で物に目を向けることが必要です。しかし、音は本人が意識しなくても耳に入ってきます。
障害を持っている子は、聴力に問題がなくても、様々な原因から「聞こえにくさ」「聞き取りづらさ」を感じていることがあります。
●注意の問題
・注意が逸れてしまうから指示を最後まで聞くことができない
・指示や質問の一部分しか聞き取れていない
●記憶の問題
・聞いても覚えていられないので行動にうつせない
●情緒の問題
・物や状況を見て理解できないから気持ちが崩れる
●感覚の問題
・嫌な音が多いので、何も聞きたくない
この子は聞いているけれど、本当に「分かって」聞いてる?
それを知るためには、様々な視点から考えていく必要がありそうです。
2)耳の発達
「聞こえ」の発達
胎生21週
蝸牛の中にある音を感知する器官のひとつである、コルチ器が完成する
胎生28週
聴覚に関係する反射の機能が出てくる
出生前後
脳(聴皮質)での音の処理が始まる
生後0~3ヶ月
⇒1~3m先にいる人が大声を出せば聞こえる
聴力:60~70db
・生後2~3ヶ月頃から、心地よい音や声に対して泣き止む、笑う、手足を動かす、声で応えるなどの情緒的反応がみられるようになる
生後3~7ヶ月
⇒3m先にいる人が普通の声で喋ればって聞こえる
聴力:50~60db
・音の方を向く、探す、目を動かす。左右の音源(音のする方)へ顔を向ける
生後7~9ヶ月
⇒3~10m先にいる人が普通の声で喋って聞こえる
聴力:40~50db
・左右、下方から聞こえる音に反応する。左右であれば、すばやく探すようになる
生後9~1歳4ヶ月
⇒10m先にいる人が普通の声で喋って聞こえる
聴力:30~40db
・左右、上下から聞こえる音に反応する。左右、下であれば、すばやく探すようになる。
・生後10ヶ月頃までは、どんな国のことばも聞き分けられていた。それが日本語(母国語)に限られるようになる
1~2歳
⇒5m先にいる人のささやき声が聞こえる
聴力:20~30db
・左右、上下あらゆる方向の音を、すばやく探すようになる
1~2歳でようやく大人と同じくらい聞こえるようになります。
障害を持った子でも、脳(聞こえを司る部分)に障害がなく、耳から脳への通路に奇形がなければ、健常児と同じくらい聞こえます。
ただし、知的な遅れがあると、「音が聞こえる」状態であっても「その音の意味」に気づいていないことが多いのです。
ex.「遠くから低いブーンという音が聞こえた」「目の前の人が何か言っている」
→聞こえるけど、意味が分からない
これが「音が聞こえる」と「聞こえたことが分かる」の違いです。
障害を持つの子の聞こえ方
次は、障害を持つ子が感じる「聞こえづらさ」について考えていきます。
1)発達障害の子の聞こえの症状
発達障害の子に多いのが下記のような問題です。
聴覚情報処理障害に見られる聴覚症状
・聞き返しが多い・聞き誤りが多い
・雑音があるところでは聞き取りが難しい
・早口や小さな声では聞き取りしにくい
・目に比べて耳から学ぶことが難しい
・長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
音声言語医学 vol.56 2015
聴覚情報処理障害の評価と支援
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/56/4/56_301/_pdf
知的障害の程度によっては「理解できているのか?」という根本的な問題があります。
しかし、上記の問題点は、知的に遅れがなくても出やすいものです。
音量が一定に聞こえる
発達障害の子のなかには、聞こえてくる音、すべてが同じ大きさに聞こえているケースがあります。
隣にいる人の声だけでなく、周囲にいる人の声も風の音、周囲の鳥の鳴き声も、すべてがです。
するとどうなるのか?
音が他の音と干渉して、打ち消すので、聞きたい音を聞き取れなくなります。
なので、周囲の環境は注意する必要があるのです。
注意が続かない
気が逸れやすい子は、指示を最後まで聞けていないことがあります。
「玩具箱に入っている白いウサギの人形を持ってきて」
とお願いしたとします。しかし、持って来たのは玩具箱を丸ごと持ってきた。
その場合は、文の頭の「玩具箱」しか聞いていなかったと判断することができます。
復唱してもらうと、理解度が見えやすくなります。
記憶の問題
理解できていそうだし、復唱もできている。それでも、途中で分からなくなっている。
記憶の問題が考えられます。
・一つのことしか覚えておけない
・覚え続けるのが難しい
音はすぐに消えてしまいます。なので、絵カードなどの「すぐには消えないもの」を併用します。
過敏の問題
聴覚的な過敏があるために「聞くこと」が難しいケースがあります。
2)発達が初期段階の子の聞こえ方
発達がゆっくりの子は「聞こえ」に関してどのような特徴があるのでしょうか?
ここでは、特に「発達が初期段階の子」について説明していきます。
感覚器をひとつずつしか使えない
発達が初期段階の子(障害が重い子)が音に気づいて立ち止まっていることを見たことがありますか?
歩いているとき、風の音が聞こえた。立ち止まって音に集中しているように見えます。
このとき、大人は「○○ちゃん、この音が好きなのね」という評価をしてしまいがちです。
実際には自分の感覚器を1つずつしか使えないので、動きを止めて耳を傾けるしか方法がない、という状態なのです。
使える感覚器は、耳なら耳だけ。動くときは見られないし聞こえていないのです。
そのため、子どもが動きを止めているときに声をかけると気づきやすいです。
音や声の意味が分からない
音は聞こえている。
しかし、その音や声がどんな意味を持っているのか分からないという場合があります。
・車にクラクションを鳴らされても意味が分からず進み続ける
・友達から名前を呼ばれたが、そもそも自分の名前を理解していない
・歌が聞こえてきたがどうやって楽しめばよいのか分からない
音の意味や楽しみ方を理解していないと聞こえていても「どう捉えればよいのか?」が分からないのです。
指示を理解できているのか?を判断するときのポイント
「ことば(音声)」だけで指示を出すようにします。
私たちは、身振りや指差し、目線を使いながら、ことばで指示を出しています。
これは、無意識的に身振りなどのヒントを出している状態です。
子どもはこれを読み取って判断しているケースがあります。結構、多いです。
大人は、それに気づかず「よく分かったね!すごいね!」と、大絶賛。そして高評価をつける。
いま、自分はどのような支援を行おうとしているのか?
・普段はヒントを多く使って、子どもが理解しやすくする
・評価するときは、意図的にヒントを少なくする
自分がどうやって声をかけているのか?それを振り返ってみると、色々見えてきます。
まとめとして
今回は、聞こえているけれど理解できていない子がいるのはなぜなのか?というはなしをしました。
音として耳に入っているけれど、意味が全く分かっていない子もいる。
大人はそれを分かってあげたい。
それが子ども理解なのではないでしょうか?
よかったら参考にしてみてくださいね。
あわせて読みたい
参考資料
深谷市HP
http://www.city.fukaya.saitama.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/31/souon_ookisa.pdf
音声言語医学 vol.56 2015『聴覚情報処理障害の評価と支援』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/56/4/56_301/_pdf