放課後等デイサービスで働く人が知っておくとよいこと
中耳炎について
今回は中耳炎についてです。中耳炎は小さな子がかかることが多い耳の疾患です。
放課後等デイサービスに通う子も、ときどき中耳炎になっていることがあります。
ここでは、中耳炎についての知識や補聴器・人工内耳装用時の対応をまとめてみました。
中耳炎の原因
中耳炎とは、耳の中に細菌が入ることによりおこる病気のことです。
症状は、耳の痛み、聞こえづらさ、耳の詰まった感じ、発熱など。
中耳炎には様々なタイプがあります。一般的には急性中耳炎をさすことが多いです。
中耳(鼓膜からカタツムリ状の蝸牛までの間の部屋)で炎症が起こることによって出た症状です。
耳は鼻や口とつながっています。
中耳炎は、鼻から菌が入ってくることによって起こることが多いのです。
「プールで耳に水が入りました。中耳炎になりますか?」と聞かれることがあります。
基本的には、水が入っただけでは中耳炎にはなりません。
よほど汚い水だったらなるかもしれませんが(中耳炎以外の病気になりそうですが…)。
中耳炎の聞こえづらさ
さきほど、中耳炎は「中耳の炎症」と言いました。
この中耳には耳小骨とよばれる、人体で最小の骨があります。
ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨です。
この3つの骨がテコの原理で音を大きくしてくれるのです。
炎症によってこの骨が動かなくなると、音を増幅できなくなります。
それが中耳炎の「聞こえにくさ」の原因です。
音自体が小さく聞こえるのですが、それ以上に「ことばの聞き分けがしづらくなる」ことが問題となります。
中耳炎の種類
中耳炎にはいくつか種類があります。
違いは、原因となる菌の種類や、鼓膜に穴が開くかどうかなどがあります。
聴力図にも違いが現れます。
※下記の「追記」にある「ティンパノグラム」とは鼓膜の動きを調べる検査です。その疾患特有の型が書いてあります。忘備録なので覚えなくてOKです。
①急性中耳炎
一般的に中耳炎といわれたらこれです。
原因は、肺炎球菌、インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別物)です。
耳が痛む(耳痛)、耳が詰まる(耳閉塞感)、聞こえづらさ(難聴)があります。
熱が出ることもあります。
子どもが夜中に急に泣き出すことで症状に気づくケースが多いです。
鼓膜に穴はあきません。
急性中耳炎を繰り返すことで、鼓膜が薄くなる(萎縮)、石灰化、慢性中耳炎への移行などの可能性があります。
追記
ティンパノグラム:Ad型
②慢性中耳炎
急性中耳炎の繰り返し、外傷や爆風などによって発症します。
鼓膜に穴が開いています。穴から耳だれ(耳漏)がみられます。
追記
その他のタイプの中耳炎に移行することがります。
・鼓膜穿孔、耳漏
・慢性化膿性中耳炎
・真珠腫性中耳炎
・癒着性中耳炎
③真珠腫性中耳炎
薄い組織(角化扁平上皮)が中耳に入ってしまうために起こるものです。
それが真珠のようにみえます。放置すると周辺の組織を溶かします。
鼓膜には穴が開いています(鼓膜弛緩部・内陥)
耳が痛む(耳痛←急性炎症時)、聞こえづらさ(難聴)、耳だれ(耳漏)があります。
④滲出性中耳炎
中耳に液(浸出液)がたまることによって聞こえが悪くなる中耳炎。
空気の入れ替えのために耳管という空気穴(管)があります。その管周辺にあるアデノイドが耳管を圧迫したり、耳管そのものの機能が不全になっていたり、上気道感染などの理由から起こります。
鼓膜に穴は開いておらず、耳痛や発熱もありません。そのため気づきにくいです。
耳の詰まった感じ(耳閉感)、聞こえづらさ(難聴)があります。
追記
・難聴(軽~中度)、気骨導差(A-B gap)大、高音域が低下
(口蓋裂、ダウン症の子に多い)
・ティンパノグラム
漿液性(サラサラ)→C型
粘性 (ネバネバ)→B型
学校や放課後等デイサービスへ行く
発熱していなければ基本的にOKです。
ただし、くしゃみによって中耳炎の原因となる菌やウイルスが拡散されることは考えられます。
中耳炎とプール
以前は、プールに入らないよう言われることが多かったと思います。
しかし、お医者さんによって「いいよ」と言われるケースもあります。
子どもの(様々な)状態にもよるからです。
プールで悪化ということもないようです。
かかりつけ医の指示に従ってください。
医者ではない保育スタッフが「大丈夫じゃない?」と勝手に決めるのは・・・。
中耳炎と補聴器
基本的に、耳だれ(耳漏)がみられるときには補聴器は使いません。
耳垂れの液で補聴器が詰まったり壊れたりすることがあるからです。
補聴器を新規で作るときに、耳だれがあるかどうか確認されます。
耳鼻科でも、補聴器販売店でも、です。
販売店では補聴器を作る際に下記の項目をチェックしています。
禁忌8項目
● 耳の手術を受けたことがある
● 最近 3 ヶ月以内に耳漏があった
● 最近 2 ヶ月以内に聴力が低下した
● 最近 1 ヶ月以内に急に耳鳴りが大きくなった
● 外耳道に痛みまたは、かゆみがある
● 耳あかが多くたまっている
● 聴力測定の結果、平均聴力の左右差が 25dB 以上ある
● 聴力測定の結果、500、1,000、2,000Hz の聴力に 20dB 以上の気骨導差がある
一般社団法人 日本補聴器販売店協会
http://www.jhida.org/pdf/kensyo/kinki8_h29.pdf
例え、ウソを答えたとしても、実際に鼓膜を見たり、聴力を図ったりすればだいたい分かってしまいます。なにより、ダメージを追うのは本人です。
中耳炎と人工内耳
基本的に、現在中耳炎のある子は人工内耳をつける手術を行うことはできません。
中耳炎が落ち着くか治療のための手術を行うことが優先です。
人工内耳にも適応基準があります。
その中でも、禁忌(手術はしません)となるものがあります。
禁忌
中耳炎などの感染症の活動期
慎重な適応判断が必要なもの
A)画像診断で蝸牛に人工内耳が挿入できる部位が確認できない場合。
B)反復性の急性中耳炎が存在する場合。
C)制御困難な髄液の噴出が見込まれる場合など、高度な内耳奇形を伴う場合。
D)重複障害および中枢性聴覚障害では慎重な判断が求められ、人工内耳による聴覚補償が有効であるとする予測がなければならない。
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会http://www.jibika.or.jp/members/iinkaikara/artificial_inner_ear.html
すでに人工内耳を使っている子が中耳炎になってしまった場合。
考えられるのは、前回調整した数値と今の状態が合わなくなっているということ。
これは人工内耳の調整(マッピング)を行う医療の先生たちがどうにかしてくれる問題です。
耳だれに気づいたら保護者の方へ伝えるとよいです。
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参考文献
言語聴覚士のための基礎知識
小児科学・発達障害学 医学書院
言語聴覚士のための耳鼻咽喉科学
医歯薬出版
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
http://www.jibika.or.jp/
一般社団法人 日本補聴器販売店協会
http://www.jhida.org/
MDSマニュアル プロフェッショナル版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB