感覚過敏が原因になっていることもある
私たちにとっては些細なことでも、感覚過敏がある子にとっては耐えきれない感覚があります。他人のくしゃみの音だったり、セーターの触り心地など、他の子たちは平気な顔をしているけれど。
感覚の特性は、私たちが実際に体験できないものがほとんどです。目で見ることもできせん。そのため、周囲からの理解が得られにくい問題です。 今回は「過敏」についてです。
感覚過敏への対応で一番大切なことは
子どもの状態をどれだけ理解してあげられるか?ということです。
自分のことを知ってくれて、寄り添ってくれる大人がいる。
これは、とてつもなく安心できることなのではないでしょうか?
それでは、感覚過敏についてみていきたいと思います。
感覚過敏・鈍麻とは
感覚の問題には2つの種類があります。
・外からの感覚刺激を過剰に感じ取ってしまう(感覚過敏)
・外からの感覚刺激が感じにくい(感覚鈍麻)
どちらも、他の人が平気でも本人は耐えられない苦痛があります。例えば
・小さな音ななのに大き過ぎると感じる
・少し触れただけなのにガマンできないくらい不快
・身体をぶつけても痛さを感じにくい
・触った感じが分からない
など、視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚・・・どの感覚でも起こりうるものです。
過敏がある子は、すべての感覚が過敏というわけではありません。
聴覚は過敏なのに、痛みは感じにくい。というような「過敏」なのに「鈍麻」という子もいます。タイプも様々です。
この分かりづらさも、過敏の問題が理解を得られない理由のひとつなのです。
過敏が起これば当然、拒否を示します。しかし、そのすべてが「過敏」が原因とは限りません。その見極めは大切です。
過敏なのか?そうではないのか?
過敏に似た反応を示すものがあります。
① 感覚過敏
自閉症などにみられる“いわゆる”過敏です。
いつ、どこで、誰から刺激を与えても拒みます。
② 心理的な過敏
好きではないから拒むことです。
場面によっては拒む場合と受け入れる場合があり、都度変わってきます。
③ 未経験からくる過敏
これまで経験すべきことをしてこなかった。
そのために現在問題が起きている状態です。
動きに制限のある肢体不自由の子に起こりやすい問題です。
④ 病的な反射
本来であれば消失すべき「反射」と呼ばれるものが残ってしまっている状態です。
脳性麻痺の子に多くみられます。
ex.手のひらに触っただけなのに手が閉じてしまう(把握反射)
顎の筋肉が収縮してしまう(手掌頤反射)
⑤気質による過敏さ
近年、HSPという概念が出てきました。
音や光が気になる、他者に言動に気を使い過ぎる、といった、感覚がとても鋭い人をさします。
どの感覚かは人それぞれ。生きづらさを感じることもあります。障害児というよりはそれ以外の人をさします。
ひとつの場面で、子どもが拒んだからといって「感覚過敏だ!」という評価はしません。複数の場所、場面などから総合的に判断します。
検査はあるの?
感覚過敏を調べる検査はあるのでしょうか?
SP感覚プロファイル Sensory Profile
感覚刺激への反応傾向を評価するSensory Profileの日本版です。 感覚の過敏さや過鈍さといった問題について、複数の感覚領域にわたり包括的に把握することができます。発達障害、特に自閉症スペクトラム障害のある方などに有用な検査です。
日本版感覚プロファイル短縮版 SSP
「SP感覚プロファイル」は125項目で構成されています。短縮版は38項目で構成され、短縮版独自のセクションで感覚を測ります。スクリーニングや研究目的での使用に適しています。
日本感覚統合インベントリー JSI-R
子どもに感覚刺激の受け取り方に偏り(感覚調整障害)がある場合、その傾向が様々な行動に表れてくることがあります。JSI-Rは、このような行動の出現頻度を調べることで、子どもたちの感覚刺激の受け取り方の傾向を把握しようとするものです。
HSP診断テスト
この診断であなたのHSP(Highly Sensitive Person)の度合いを知ることができます。HSPは病気ではありません。繊細な自分を知ることで、自分や世界の見方を変えることができます。
HSP診断テスト
https://hsptest.jp/
重症心身障害児の子にも過敏はあるの?
脳性麻痺、特に動ける重症心身障害児(重心)の子のなかには、歯磨きを拒む等の「口腔内の過敏さ」がみられるケースが多いと言われています。
これは、先ほど出てきた未経験からくる拒否・過敏です。
経験が少ないことが原因です。
肢体不自由以外の障害の子、もしくは障害のない子であれば、自由に手を口に入れることができたはずです。
口に手を入れる、という行為は「口の中に異物を入れる練習」です。
この経験がないと、口の中は育たないままです。
そのため、急に口に物を入れると情報の処理がうまくできずに、拒否を示すことがあるのです。
これが重心の子に多くみられる「口の中の過敏さ」です。
対等として
⇒ 段階的に圧を入れるアプローチ(口唇周辺、歯肉、ブラッシング)などで、口の中や周囲に異物が触れる経験を重ねていきます。
過敏への対応
過敏は「ガマンしなさい」と言われてもガマンできるものではありません。
そのため「苦手な感覚に慣れる」ということを保育目標にはできません。
もしも、あなたが「あと3ヶ月でガラスをひっかく音に慣れてください。たくさん聞かせてあげますから」と言われたらどうですか?
それと同じことです。
大切なのは、子どもの現状を理解することです。
例えば、目の前にいる子が「触られるのが嫌」だと分かっていれば、わざわざ触りません。
誰かが(悪気はないけれど)触ろうとしたら、それを止めることは出来ます。
わざわざ聴覚過敏の子をザワザワした場所へ連れていく必要はありません。うるさくなりそうな活動の場合は、やりかたを考えます。
まわりに自分のことを理解してくれる大人がいるというのは心強いのです。
参考
①過敏の除去(脱感作)の図の変更について
日本摂食嚥下リハビリテーション協会
jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89-explanation.pdf
②いわゆる動く重症心身障害児(者)に見られる歯磨き場面での問題行動について口腔過敏を示した症例に対する歯磨き指導を通して
太田, 篤志; 橋本, 亜希子; 土田, 玲子
長崎大学医療技術短期大学部紀要1995, 8, p.39-44
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/18234/1/iryou08_00_07_t.pdf