支援者が障害を持つ子どもの気持ちを理解するために
障害児施設には様々な子どもたちがいます。大人と一緒に遊んでくれる子もいれば、他人に興味を向けない子もいます。こちらが心を開いても、目も向けてくれません。
「この子、今どんな気持ちなんだろう?」
支援の現場にいると、毎日のように、そんなことを考えます。子どもも、一人として同じ子はいません。性格や様子も様々。
・表情があまり変わらない子
・発語が少ない子
・手がかりが少なく、こちらの声かけにも反応が薄い子
うまくコミュニケーションをとることが出来ないこともあります。
「この子が何を思っているのか知りたい」「どうすればもっとわかりあえるのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。
今回は、「障害のある子の気持ちをどう理解すればいいのか?」について、一緒に考えてみたいと思います。
検査をすれば「気持ち」が分かるって本当?
支援者の中には、「知能検査や発達検査をすれば、その子の気持ちもわかるんじゃないか?」と考える方もいるかもしれません。
答えはNOです。
確かに、検査をすると結果が数値として表れます。「認知の水準」や「理解の得意・不得意」が見えてきます。
しかし、それはあくまで、その子の「傾向」をつかむための材料に過ぎません。
たとえば、検査で「数やパズルが得意」と出ても、それが「うれしい」「悲しい」などの気持ちを表しているわけではありません。
私自身、言語聴覚士としてこれまで何人ものお子さんに検査を行ってきました。
検査がどんなにスムーズに進んだとしても「あ、この子の気持ちがわかったぞ」と感じたことは、ほとんどありませんでした。
むしろ、「今日は機嫌が悪そうだな」「すごく頑張ってくれたな」というその日の様子から、子どもの「心のヒント」を受け取っているような気がします。
役に立つ心理学の知識
「もっと勉強しないとダメだ」「心理学を学び直したい」
そんなふうに考える人がいるかもしれません。
もちろん、学び直す姿勢はすばらしいことです。心理学の知識は、支援の中で必ず役に立ちます。
しかし、「心理学」を学ぶことで、その子の気持ちが分かるようになるのでしょうか?
心理学の教科書に、子どもの気持ちが書いてあるわけではありません。先生が教えてくれるわけでもありません。
むしろ、知識だけでは理解できない「目の前の子のリアル」があるということを、改めて感じるようになるかもしれません。
発達という側面を知る
心理学では「発達」を学びます。
「発達」とは、どうやって成長していくのか?身体だけでなく、中身の成長です。
障害を持っている子の場合、発達の過程の、どこかしらでストップしていたり、育ち方がゆっくりだったりします。そのため、同年代の子たちと比べると、どこか違和感があるのです。
いま、どのような発達段階にいるのか?ということを知ることは、その子の現状を知ることにつながります。
そういった点では「心理学」を学ぶことは有効だといえます。
行動の理由を知る
「なぜ、この子は叩くのか?」
「なぜ、教室から逃げるのか?」
一見“困った行動”も、背景を理解できるようになります。
行動の「きっかけ」「目的」「結果」を見立て、問題の解決につなげることができます。
「なぜ、こういうことをしたのか?」が少しでも分かれば、子どもに対して「叱る」ではなく「適切な行動を教える」支援に切り替えられる可能性があります。
認知の歪みや特性を知る
知的障害、自閉症スペクトラム、ADHDなどの子どもたちは、世界の見え方や考え方が少し違うことがあります。
「なぜ そんなふうに思うの?」ではなく、「そう思っても無理ないよね」と理解できるようになります。支援者側の声かけや環境調整の工夫や余裕が生まれるかのせいもあるはず。
知識だけでは理解できないこと
では、逆に、心理学の知識だけでは理解できないことは、どのようなことがあるのでしょうか?
「心理学」以外の視点が必要になる
子どもの「身体的な感覚」や「不快さ」は、心理学だけでは分かりません。
◆「イスにじっと座っていられない」のは、じっとしているとお尻が痛い・姿勢が保てないなどの身体要因かもしれません。
◆「触られるのを嫌がる」子どもは、感覚過敏(触覚・温度)や、過去の医療的処置のトラウマがあるかもしれない
障害を持つ子を理解留守ためには、心理学だけではなく、医学的知識・作業療法・感覚統合の視点が必要になることも多いです。
なんでも「心理学」分かるはずがない
もちろん、子どもの「生活背景」や「家族関係」は、教科書には載っていません。
◆家で夜中まで寝られず、昼間ボーッとしている子
◆虐待や育児放棄、貧困、親の障害やメンタル不調など、環境要因が重くのしかかっているケース
その子が「いま」見せている行動の背景には、心理的だけでなく「生活」や「家庭の現実」があります。心理学では割り切れない「現実の重さ」が根底に潜んでいることも、現場ではよくあります。
理解のカギは「発達段階」にあり?
子どもの気持ちを理解するうえで、とても大切な視点があります。
それは「理解の度合い」や「発達段階」をふまえるということです。
同じように見える行動でも、子どもによって背景は全く違うことがあります。
◆急に泣き出したのは、痛みではなく音への過敏だった
◆ふざけているように見える行動が、実は注目してほしいサインだった
「なぜ、いま、この子はこの行動をしているのか?」という理由が、発達段階を手がかりにすると見えてくることがあるのです。
ただ目に見える言動だけで判断するのではなく、その背景にある「理解のレベル」や「育ちの過程」に目を向けると、見えてくる世界がまるで変わってきます。
笑ったから「楽しい」気持ち、だと言い切れますか?困っていても笑っている子もいます。
やらないから「興味がない」と言い切れますか?何か考える前に手で払い落しただけ、という子もいます。
気持ちを理解するには、“観察”と“想像”がカギ
では、どうすれば「障害のある子の気持ち」を理解できるのでしょうか?
それは、特別な勉強や資格よりも、「観察」「想像」がとても大切だということ。
この子は、どんなときに目がキラッとする?
急に泣いたのは、音?光?人の動き?
あの場面で玩具を握っていた理由は何だったんだろう?
こうした「小さな気づき」を積み重ねていくことで、「この子、もしかして、こう思っているのかな?」という仮説が立てられるようになります。
もちろん、それが「正解」かどうかはわかりません。でも、「この子のことをもっと知りたい」と思いながら関わることが、支援の第一歩になるのです。
心理学は「答えを出す学問」ではなく、「問い続けるための道具」
心理学は、「どうやって考えればよいのか?」という理解の枠組み(モデル)を提供してくれます。しかし、「正解」を教えてくれるわけではありません。
子どもは理論どおりに動かないし、日によっても違います。ここは重要!
現場では、「なぜこの子はこうするのか?」を日々問い続ける姿勢が大切で、心理学はその“問いを深める「道具」にしか過ぎません。
まとめとして
今回は、障害を持つ子の気持ちを理解するためには何が有効?心理学を学べば何でも分かるの?という話しをしました。
やはり、一番は「気持ちをわかってあげたい」という気持ち。それが何よりの支援なのではないでしょうか?
障害のある子どもたちの気持ちは、簡単に ことば には なりません。
だからこそ、支援者にできるのは、「わかろうとし続けること」なのだと思います。
・検査だけではわからない
・心理学だけでは届かない
・でも、目の前の子どもの“今”に目を向けることで、少しずつ見えてくる
そこに、発達段階や理解のレベルをふまえた視点を重ねてみる。
すると、子どもの言動が「わけのわからないもの」から、「ちゃんと意味のあるもの」へと見えてくるようになります。
目の前にいる子どもの気持ちを知りたい、という姿勢は、きっと届きます。
毎日の支援の中で、少しずつ「見えない気持ち」に近づいていきましょう。
よかったら、参考にしてみてくださいね。


