経験豊かな支援者が変わらないといけない理由とは?
放課後等デイサービスや福祉施設では、ひとつの施設で長く働いている人もたくさんいます。長年、子どもと関わってきた支援者の中には、「支援とはこういうもの」と、自分の中に確固たるスタイルを持っている方が少なくありません。それは決して悪いことではありません。経験から培われた「見立て」や「感覚」は、現場での大きな力になるからです。
けれど、ふとこんな光景を見たことはありませんか?
• 「このやり方でずっとやってるから」
• 「昔はこうだった」
• 「最近のやり方はどうも信用できない」
そう言いながら、何十年も前のやり方を後輩に押しつけてしまう・・・。実はそれ、「支援のプロ」だからこそ気をつけたい落とし穴かもしれません。
今回は、障害児施設で嫌なお局様にならないためには どうすればよいのか?という話しです。
お局様とは
一般的に「お局様(おつぼねさま)」とは、同じ職場で長期間、勤め続けている人を指すことばです。障害児支援施設における「お局様」とは、長年勤めていて発言力がある一方で、現場の風通しを悪くするベテランスタッフのことを、やや揶揄的に指すときに使っています。単に「経験が長い」というだけでなく、自分のやり方や価値観を絶対視し、他の考え方や新しい方法を受け入れない姿勢が特徴です。
以下に具体例を交えて、典型的な「お局様像」をご紹介します。
なぜ、お局様が悪いのか?
福祉施設では万年、人で不足である施設が多いです。新人とベテランのスタッフばかりで、中堅スタッフが少ないのも特徴のひとつです。
長く働き続くているスタッフに決定権が集中してしまいがち。だから、年数ばかり経っても、自分で決める権利がない中堅スタッフが嫌になって辞めてしまう。お局様だけが過ごしやすい施設の出来上がり。誰のための施設なのでしょうか。
典型的な「お局様」の特徴と行動例
以下は、典型的なお局様の例です。
特徴 | 行動例 |
---|---|
■ 自分のやり方が正しいと信じて疑わない | 「この子はね、昔からこうなのよ。あなたのやり方じゃ無理よ」 |
■ 新しい支援方法や技法に否定的 | 「最近の療育って何それ?前からこれでうまくいってるじゃない」 |
■ 後輩への指導が一方的、時に高圧的 | 「そんなやり方じゃダメ。私がやるからどいて」 |
■ 陰で他のスタッフのやり方に口出し | 「あの子、新人なのに生意気なやり方するわね」 |
■ 圧力的な空気を作り、周囲が意見しづらい | 会議で意見を言おうとした若手に「それはちょっと非常識ね」と一言で片づける |
■ 施設の文化を自分色に染めてしまう | 「この施設は私が作ってきたようなもんよ」 |
あなたのそばにも、こんな人、いるのではないですか?
「お局様」の存在がもたらす影響
もちろん、お局様の存在はマイナスばかりではありません。プラスな部分もあるのです。
ポジティブな面
● 利用児への理解や記録が蓄積されている
● 現場の歴史や過去の経緯に詳しい
ネガティブな面
● 新しい支援法が導入されにくくなる
● 若手職員が意見を言いづらくなり、早期離職につながる
● チームの分断や萎縮を招く
なぜ「お局様」が生まれてしまうのか?
入職したてのころには素直でやる気に満ち溢れていた あの人。気がついたらお局様になっていた。なぜ、みんな、お局様になってしまうのでしょうか?(全員ではないですが・・・)
• 長年の経験に裏打ちされた自信が、やがて柔軟性の欠如につながるから
• 若手スタッフに対して「自分の方が分かっている」というマウンティング
• 「昔はこうだった」が通じにくくなっている社会の変化に、戸惑いや不安があるから
対策のポイント
お局様になってしまったのなら仕方がありません。仕事だったら、どんな人とも一緒にやっていかなくてはいけません。それが大人です。
しかし、できれば、こちらにダメージが少ない方法で関わっていきたいものです。対策を考えていきましょう。
対策・向き合い方(若手向け)
1. まずは傾聴する姿勢:「その時代にはその良さがあった」ことも認める
2. 新しい提案は“巻き込み型”で:「一緒にやってみませんか?」と誘う
3. 一人で抱えない:中堅や上司と連携し、チーム全体で改善の道を探る
対策・向き合い方(ベテラン向け)
• 「私はこうしてきた」は、「これからもそうあるべき」とは違う
• 後輩の提案をまず否定せずに聴く姿勢が、信頼されるベテランの第一歩
• 「支援の主役は自分ではなく子ども」という原点に立ち返る
「お局様にならない」ために必要なこと
私たちは、“支援する”立場でありながら、知らず知らずのうちに「変わること」を避けてしまうことがあります。それはなぜでしょうか?
• 自分の支援スタイルに自信があるから?
• 若いスタッフのやり方が頼りなく見えるから?
• 変えるのが面倒で、今さら勉強し直すのはしんどいから?
どれも、正直な気持ちです。でも――
「支援」は変わる。「子ども」も変わっていく。
いま、放課後等デイサービスで出会う子どもたちは、10年前の子たちと全く同じではありません。重症心身障害の子、医療的ケアが必要な子、グレーゾーンの子・・・。支援を受ける子どもの姿が多様化している今、10年前の「正しい支援」が、今もそのまま正しいとは限らないのです。
「昔習った正解」は、今の「最新」ではない
支援職の世界では、現場経験が長い人ほど「正しいこと」をたくさん知っている――そう思われがちです。
でも、こう考えてみてください。
私たちが養成校で学んだ知識は、何年前のものでしょうか?
そのとき教えられたことは、最新のエビデンスに基づいていたでしょうか?
たとえば、「発語をうながすには、とにかく語りかけるのがよい」と言われていた時代があります。今では、それよりも「子どもの興味や注目に合わせて関わること」が大切だとする支援法が主流になっています。
つまり、「昔教えられた“正しさ”」が、「今では古くてズレた支援」になっている可能性があるのです。
新人スタッフの「違和感」は、変化のサインかもしれない
新人スタッフの中には、先輩のやり方に「ちょっと違和感がある」と感じている人もいるでしょう。
「でも、自分は新人だし…」
「今までこのやり方でやってきたみたいだし…」
そうやって、感じた違和感を飲み込んでしまう。
けれど、その「ちょっとおかしいな」という気づきこそが、支援の進化につながる大事なヒントだったりします。
経験が浅いからこそ見えること。
最新の情報を持っているからこそ気づけること。
若いスタッフの声を拾えるかどうか。
それが、チームの成長にとって大切な鍵になるのです。
年齢を重ねるほど「学び直す力」が求められる
年齢を重ねると、どうしても「今さら変えたくない」という気持ちが出てきます。新しいやり方、新しい言葉、新しい制度・・・。
しかし、支援のプロとして一番大事なのは、「変わる勇気」と「学び直す柔軟さ」ではないでしょうか。
若いスタッフに「新しい視点」を教えてもらうこと。
自分の「昔の当たり前」を疑ってみること。
それは、決して「負けること」ではありません。
むしろ、「支援者として成熟すること」なのです。
まとめとして
経験豊かな支援者ほど、「変わらないといけない理由」があります。なぜなら、私たちの支援の先にいる子どもたちは、日々変化し続けているから。
そして、私たち自身もまた、学び続けてこそ「支援者」でいられるのだと思います。
後輩から学ぶことを恥じる必要はありません。
「前はこうだった」と言いたくなる気持ちに気づいたときが、変わるチャンスです。
お局様にならないために。
そして何より、子どもの今と未来に寄り添い続ける支援者でいるために。
どうか今日も、誰かの声に耳を傾けてみてください。きっと、支援のヒントがそこにあります。
よかったら参考にしてみてくださいね。