発達検査&知能検査は「困った子」を見つけるためではない
「発達検査」や「知能検査」と聞くと、なんとなく身構えてしまいませんか?
「うちの子に障害があるってこと?」
「先生に『検査を受けてみてください』と言われたけど、なんだかショックだった…」
「困ってないし、検査なんて必要ないと思う」
そんな声を、放課後等デイサービスや子育て支援の現場でよく耳にします。
しかし、本当に、検査は「障害があるかを見つけるためのもの」なのでしょうか?
実は、発達検査や知能検査は、障害があるかどうかを見るだけでなく、その子のことを深く知るための「道しるべ(指標)」なのです。
ここでは、発達検査を賢く活用しようという話しです。なぜ、検査が「子どもを理解する大事なツールなのか?」を説明していきます。
発達検査の印象
こんな時、あなたはどう感じますか?
・話しかけても返事がない。こっちを見てくれない
・何度言っても、約束の時間を守れない
・支度にとても時間がかかる
・友達と遊んでいても、急に怒ったり泣いたりしてしまう
「なんで分かってくれないの?」
「わざとやってるんじゃないの?」
そんな風に感じたことがある保護者の方も多いかもしれません。しかし、もしかしたらそれは、いま何をすればよいのか分からないから「できない」のだったら?
たとえば――
・指示の言葉の意味がうまく理解できていない
・どの順番で行動したらいいのか、頭の中で整理できていない
・まわりの音や光が気になりすぎて集中できない
そんな“目に見えにくい苦手さ”が、子どもの行動の背景にあることがあります。
発達検査・知能検査とは?
ここまで検査の話しをしてきました。意外とゴチャゴチャになるのですが「発達検査」と「知能検査」の違いを紹介します。
発達検査とは?
発達検査は、言葉、運動、社会性、自立など、いくつかの分野に分けて「発達のバランス」をみていくものです。たとえば、3歳の子が、ことばの力は4歳並みに伸びているのに、手先の動きは2歳程度で苦手な傾向がある、というように、「どこが得意で、どこにサポートがいるか」が分かります。
知能検査とは?
知能検査は、思考力、言語理解、記憶力、作業スピードなどを測る検査で、「IQ(知能指数)」も分かります。IQというと「高い・低い」が話題になりがちですが、大事なのは「どの力が得意で、どこに困りごとがあるか」という“内訳”です。
検査が役に立った例
では、検査が役に立った例を紹介します。わたしの受け持ったケースではありません。よくあるパターンを例にしてみました。
ケース①
「どうして、話を聞いてくれないの?」
小3の男の子・Aくんは、授業中に立ち歩くことが多く、先生からも「集中力がない」と指摘されていました。お母さんも「何度言っても聞いてくれない」と困っていました。
発達検査と知能検査を受けた結果、Aくんは「聴覚的な指示を理解する力」が平均よりも低いことが分かりました。一方で、「視覚的に情報を取り入れる力」は高く、絵や図を見て学ぶ方が得意だということが分かったのです。
その後、先生やお母さんが「口頭での指示」だけでなく「カードや絵」で伝えるようにしたところ、Aくんの行動は少しずつ落ち着いていきました。
⇒検査によって、“やる気がない”のではなく、“理解の仕方が違った”ことが分かったのです。
ケース②
「ゲームばかりで勉強しない。やる気がないの?」
小4の女の子・Bちゃんは、家で宿題をなかなかやらず、ゲームばかりしていて、お母さんもイライラ。注意すると泣いたり怒ったりしてしまうこともありました。
WISC検査を受けた結果、Bちゃんには「作業を計画的に進める力」が弱く、「始めるきっかけがつかめない」ことが分かりました。また、「処理速度(情報を頭の中で処理する速さ)」が遅めだったため、課題に時間がかかっていたことも判明。
この結果を受けて、宿題を「少しずつ分けてやる」「時間割表を見えるところに貼る」といった工夫をしたところ、Bちゃんは少しずつ自分から机に向かうようになりました。
⇒“やる気がない”のではなく、“始め方がわからなかった”という背景に気づくことができたのです。
「検査=診断」ではない
よく誤解されがちですが、「検査を受ける=障害の診断をされる」ではありません。
診断とは、医師が医学的に「自閉スペクトラム症」「ADHD」などの名前をつけること。
一方で、検査は、その子の特性や考え方を「見える化」することなのです。
子どもを“決めつける”のではなく、“理解するための手がかり”なのです。
放課後等デイサービスでも検査は活かせる!
放課後等デイサービスの中には、言語聴覚士や心理士などの専門職が在籍しているところもあります。こうした施設では、検査結果をもとに、
・宿題の取り組み方の工夫
・集団活動のサポート方法
・遊びや活動、運動の注意点
・コミュニケーションの注意点
などを一人ひとりに合わせて考えることができます。「なぜ うまく いかないのか」が分かることで、支援の質もぐっと上がります。
もし検査を勧められたら
学校や園の先生、支援スタッフから「一度、発達検査や知能検査を受けてみませんか?」と言われたら、怒るのではなく、嘆くのではなく、まずは深呼吸をしてみてください。
それは、「何か問題があるから」ではなく、「この子をもっとよく知るために」という提案かもしれません。少しでも気になることがあれば、以下のような場所で相談・実施が可能です。
・発達外来のある小児科
・子ども発達支援センター
・児童精神科
・放課後等デイサービス(専門職がいる場合)
・市区町村の福祉課や教育相談センター
※予約や紹介が必要なこともあります。事前に確認しましょう。
※放課後等デイサービスで発達検査ができるのは、ごくわずかな施設だけです。その際、お金はかからないところが多いはず。以前、わたしも放課後等デイサービスで発達検査(新版K式)を取っていました。
まとめとして
発達検査や知能検査は、子どもにレッテルを貼るためのものではありません。
むしろ、その子の力を信じて、「どうすればもっと伸びるか?」を考えるための大事なヒントなのです。「困っている子」ではなく「困っている“状況”」を見つけるのが目的となります。
困っているのは、子ども自身かもしれません。困らせられているのも、親や先生かもしれません。
「なぜできないのか?」を叱るより、「どうしたらうまくいくか?」を一緒に探す。そのために、検査はとても心強い味方になってくれるのです。
子どもの特徴を知る新たな視点として「検査」を活用してみてはいかがでしょうか?
よかったら参考にしてみてくださいね。
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