放課後等デイサービスの仕事って誰が評価してくれるの?
障害児支援の仕事は、いまだに「評価されにzくい仕事」と言われることがあります。特に放課後等デイサービスの現場では、日々の積み重ねや見えにくい工夫が多く、その努力が「結果」として表に出にくいこともしばしばです。
言語聴覚士として、放課後等デイサービスで働いてきた私自身も、そうした葛藤に何度もぶつかってきました。
介護職、福祉職は「誰でもできる仕事」「軽く見下される仕事」と思われている節があります。わたしも長い間、この業界にいて、感じていることです。しかし、介護職、福祉職を下に見る人に限って、この仕事は「できない」「やれない」。自分の仕事だけが社会の役に立っていると信じて止まない。
介護職、福祉職は誰かの役に立っています。誰かが笑顔になってくれる仕事です。しかし、実際にはあまりにも周囲からの評価が少ない。
今回は、「誰が評価してくれるのか?」という「見えにくい努力」をテーマのもと、言語聴覚士(ST)として評価されることと、支援職・保育職として評価されることに分けてお話ししたいと思います。
- 放課後等デイサービスの仕事って誰が評価してくれるの?
- STとして評価されること—専門性と「見える支援」
- 支援職・保育職として評価されること—積み重ねと「見えにくい支援」
- 新しく入ったスタッフができること
- まとめとして
評価と離職率
医療・福祉業界の離職率が他の業界に比べて著しく高いわけではありません。サービス業の離職率が26~28%なのに対して、医療・福祉業界は 14.6%となっています。
産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率(令和5年・厚生労働省(2023))
それでも、どの施設でも人手不足だと感じているのではないでしょうか?人がいないと満足な支援を行うのも難しくなります。自分で「今日は思い通りの支援ができたな」と感じる機会も減ってしまうのではないでしょうか?
STとして評価されること—専門性と「見える支援」
言語聴覚士(ST)は、「食べること」「話すこと」「聞くこと」に関する専門職です。医療の現場だけでなく、発達の支援現場でもそのニーズは年々高まっています。
1. 「加算が取れるかどうか」で評価される
STが評価される最もわかりやすいポイントは、施設での「専門的支援実施加算」が取れるかどうかです。個別の摂食訓練や発語訓練を行えば、施設としては収入が増える。これは、事業所にとって非常に大きなメリットです。
ただし、この「評価」は本来の専門性とはズレることもあります。
訓練しやすい子ばかりに支援が偏る
加算上限を超えた子には訓練を避けるような空気になる
など、本来の「必要な支援」に立ち返る必要がある場面もあります。
2. 保護者からの信頼
「ことばが増えてきました」「食べるのが楽になってきました」といった保護者の言葉は、STとして大きな励みになります。特に、家庭での困りごとに直結しているようなテーマ(食べない、発語が少ない、発音が不明瞭など)にアプローチできると、信頼関係が一気に深まります。
この「家庭に変化があった」という体験こそが、STとしての支援が評価される最も本質的な瞬間だと思います。
3. チームからのフィードバック
STが放デイに入ることで、「今まで気づかなかった支援の視点が増えた」と言われることもあります。たとえば「この子、実は嚥下に課題があるのでは?」「この言葉の遅れ、聴力が関係してるかも?」など、支援の解像度が高まる場面です。
こうした視点をチームと共有し、他職種が「気づきの種」として受け取ってくれるとき、STとしての役割がチームにとっても価値あるものとして評価されたのだと感じます。
支援職・保育職として評価されること—積み重ねと「見えにくい支援」
一方で、STという肩書きとは関係なく、日常の支援に関わる立場としての評価軸もあります。
放課後等デイサービスは、いわば「毎日の積み重ねの仕事」。そこには、STも保育士も指導員も、職種を超えて共通する「支援者」としての姿勢があります。
1. 子どもと接する時間の多さ=信頼の積み重ね
「この子、最初は泣いてばかりだったのに、今は笑って過ごせるようになった」「できなかったことが、少しずつできるようになった」
こうした変化は、一見すると「誰が支援した成果なのか」見えにくいものです。けれど、毎日子どもと向き合い、環境を整えてくれた支援者全員の努力の結果です。
このような成長は、スタッフ間や保護者との会話の中で、ふと「○○さんのおかげかもね」と評価されることがあります。
2. 保護者の口コミ
送迎のタイミングで保護者から「最近、この子、落ち着いて過ごせるようになりました」といった言葉をいただくこともあります。
特に印象的なのは、自分が直接担当していない子の保護者から「他の親御さんから、いい話を聞きました」と言われたときです。
支援職としての行動が、じわじわと波紋のように評価されていく——それが、放デイでのやりがいのひとつです。
3. 子どもの反応が最大の評価
実は、最も純粋な評価者は「子ども自身」かもしれません。
帰りたくない!と笑って言う
支援者を見て安心して笑う
困ったときに自然と頼ってくれる
こうした子どもの反応は、支援が確実に届いている証です。もちろん、すべての子どもが感情を分かりやすく表現できるわけではありませんが、「目を合わせてくれるようになった」などのささやかな変化が、支援者にとっては何よりのご褒美です。
新しく入ったスタッフができること
新人スタッフや未経験から入った人が「何ができるか分からない」「専門的なことは任せられない」と感じるのは自然なことです。でも、新人だからこそできることもたくさんあります。
「子どもの変化に気づく」新しい目
長くその子を見ているスタッフほど、「この子はこういう子」という印象が固定されてしまうことがあります。
でも、新しく入ったスタッフは、先入観がない分、小さな変化や行動に気づきやすいのです。
「あれ?この子、今日は違う場所に座ってました」
「〇〇ちゃん、さっき自分から絵本を取りに行ってましたよ」
こうした“ちょっとした気づき”をチームに共有することで、子どもへの理解が深まり、支援のヒントになることがあります。
「寄り添う姿勢」そのものが評価される
はじめは専門的な支援ができなくても、「その子のそばにいて、見守る」「困っていたら手を差し伸べる」という基本的な姿勢こそが支援の土台です。
・転びそうな子のそばに しゃがんで一緒に歩く
・声にならない訴えに、表情で共感してみる
・泣いてしまった子に、黙ってティッシュを差し出す
そんな、一見何でもないような、一つひとつの行動が、周囲から「この人、子どもをちゃんと見てるな」「信頼できるな」と受け取られ、評価につながっていきます。
「学ぼうとする姿勢」が何よりの信頼
まだ慣れていない頃こそ、「どうしたらいいですか?」「こういう時、どう対応したらいいですか?」と積極的に学ぼうとする姿勢が、先輩スタッフにとっても安心材料になります。
完璧な支援ができることよりも、「この人なら、これから一緒にやっていけそう」と感じてもらえることが、新人期の一番の“評価されるポイント”です。
評価されるポイントはこんなところ
次の表には、「ST」「支援職&保育職」「新人」それぞれの「評価される点」がまとめてあります。
立場 | 評価されること |
---|---|
言語聴覚士(ST) | ・専門的支援による加算取得・保護者との信頼関係・チーム支援の解像度を高める視点 |
支援職・保育職(共通) | ・日々の積み重ねによる信頼・子ども自身の変化や反応・保護者やスタッフ同士での口コミ |
新しく入ったスタッフ | ・子どもの変化に気づく新しい視点・基本的な「寄り添い」の姿勢・学ぼうとする素直さ |
評価されることは、必ずしも“何かができる”という結果だけではありません。
「見ようとしている」「分かろうとしている」「そばにいようとしている」——そんな人の姿勢こそが、子どもたちにとってもチームにとっても、かけがえのない支援になるのだと、私は信じています。
評価されにくい世界だからこそ
放課後等デイサービスでは、「誰がどんな風に支援したのか」が数字で表されることはあまりありません。加算の数や記録上の目標達成とは別に、支援には目に見えない価値がたくさんあります。
褒められることは、仕事の成果だけでなく「努力していること」への共感や承認でもあると思います。
・上司からの言葉で自己肯定感が高まる
・同僚からのフィードバックで安心できる
・保護者からの感謝でやる気が湧いてくる
評価される仕組みが少ないからこそ、意識的に「評価し合う文化」を育てることが大切ではないでしょうか。
まとめとして
支援の現場は、正解が見えにくく、成功と失敗の境目も曖昧です。
だからこそ、支援職もSTも、「どんなに小さな変化でも、それに気づき、ことばにして伝え合う」という姿勢が評価につながっていくのだと思います。
たとえば、職場で一人のスタッフを「褒める時間」をつくってみる。そんなシンプルな仕組みからでも、「自分の仕事が誰かに届いている」という感覚を育むことができるのではないでしょうか。
「評価」は支援の質を守る。誰にも認めてもらえなかったらモチベーションも下がってしまいます。質も低下していくはず。
放課後等デイサービスは、子どもたちのための場であると同時に、支援者も育ち、認め合える場所であってほしい。そう心から願っています。
今回の記事が、少しでも あなたのモチベーションになったら、と思います。よかったら参考にしてみてくださいね。
参考文献
◆職場において「ほめ」はどのような効果を持つのか(第2報)
浦上昌則、榊原由奈
人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要), 14, 169-182.
◆社会人の会社場面における「ほめ」経験と自尊感情,自己受容,対人特性の検討
目白大学 心理学研究 第11号 2015年 73−81
澤口右京、渋谷昌三