「専門的支援実施加算」でSTは何ができるか?
放課後等デイサービスには障害を持つ子たちが通ってきます。そこで働く大人たちも様々な職種の人たちがいます。そのなかに「リハビリ職」と呼ばれる人たちがいます。
・理学療法士(PT)
・作業療法士(OT)
・言語聴覚士(ST)
これまで放課後等デイサービスでは、リハビリ職の立ち位置が施設によって異なっていました。中心となって療育を行っていくリーダー的な立場だったり、病院?と思うくらいリハビリテーション三昧の立ち位置だったり。施設から「ただ居てくれればいい」と言われるリハビリ職も多くいました。
今回から新たに始まった「専門的支援実施加算」の制度によって、放課後等デイサービスで働くリハビリ職の動き方が変わりそうなのです。
今回は「専門的支援実施加算」によって何が変わったのか?どんなふうに働くようになってきたのか?
わたしも言語聴覚士として放課後等デイサービスで働いています。はじまって3ヶ月が経った今だからこそ言える感想や今後の課題を紹介していきます。
「専門的支援実施加算」とは?
「専門的支援実施加算」とは、専門的な資格や知識、経験を持った人が「専門的」な支援を行えば加算をつけますよ、という国の制度です。
放課後等デイサービスでは「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定」で「専門的支援実施加算」が新設されました。厳密には新設というのではなく、これまであった「専門的支援加算」と「特別支援加算」が統合されたものです。専門的支援実施加算と専門的支援体制加算が創設されました。
開始3ヶ月たって
「専門的支援実施加算」が始まって3ヶ月がたちました。実際にSTとして専門的支援をやってみて気づいたことがいくつかありました。
・専門職の立ち位置が確保される
・1日に何件もできない
・加算を取ることが目的になりそう
ひとつずつ説明していきます。
専門職の立ち位置が確保される
これまで放課後等デイサービスでは、「専門職はいてくれればよい」と言われてきました。場合によっては 支援職との兼務ができるので「人手不足を補う」役目でいることが多くありました。そのため専門職の立ち位置が曖昧でした。
今回、国が「専門職は自分の専門性を活かしなさいよ」と言ってきました。「専門的な支援をやるなら加算(お金をあげますよ)するよ」と。
これまで、自分の希望で関わることのできない子もたくさんいました。今回の制度を使って、関わってみたい子に堂々と専門的療育を行ってみることができるようになりました。これは専門職としてのモチベーションアップとなります。
1日に何件もできない
マイナス面もあります。たとえば、施設側から「とにかくたくさん訓練(療育)をやって」と言われたとします。
しかし、この制度では一人の子どもにつき、最低 30 分以上やる必要があります。放課後等デイサービスでは、学校が終わってから 施設に来て、17時とか18時くらいに家に帰っていきます。そのため、一日で対応できるのは、実質 1 ~ 2 人くらい。
一つの施設に複数の専門職がいれば、その分、対応できる子どもの数も増えます。しかし、そんな恵まれた施設なんていくらもありません。
2 ~ 5 人程度のグループ訓練もできますが、支援職や保育職が行う活動やイベントが潰れてしまうため、毎日行うことは難しいのです。
加算を取ることが目的になりそう
一番、起こりうる、というか、実際に起こっているであろうことは「ノルマに追われる」ことなのではないでしょうか。
・加算をとらなくちゃ
↓
・時間がない!
↓
・じゃあグループ訓練をしよう
↓
・ちゃんとやる時間もない
↓
・保育職がやる活動を外から評価しよう
↓
・全員の子の記録だけ書けばいいよね?
この「妥協」というか「悪循環」が全国的に起こっているのではないでしょうか?
問題点と今後の課題
何でもない活動を「訓練」と称して加算を頂く。毎日、それをやる。それでは、子どものための支援はできません。専門職自身の「よい経験」もついてきません。楽して何となく過ごすだけの、ダメな「センモンカ」が出来上がるだけです。
「専門的支援実施加算」も少しずつ改善されていくはずです。しかし、今すぐではありません。それを待っていたら、真面目にやっている施設と大きな差ができているはずです。
それでは、いま、わたしたちは何に気をつけて、どう頑張っていけばよいのでしょうか?
どうしていけばよいのか?
現時点で、わたしが、いち専門家として考えている「今後」は次の点です。
・自分の役割を再確認する
・子どもに求められていることに目を向ける
当たり前のように見えるかもしれません。きれいごとのように聞こえるかもしれません。しかし、これが障害児支援の基本なのではないでしょうか?それを今回の制度にも活用すればよいのではないでしょうか?
自分の役割を再確認する
自分の職種は何のために障害児施設にいるのか?「発達障害」「重症心身障害」そこに所属する子どもによっても異なるはずです。自分が求められているものは何か?をもう一度考えてみるのをオススメします。
長年、同じ職種で似たような職場にいると忘れがちなのが「自分の役割」「立ち位置」です。「自分のやりたいこと」と「自分が求められていること」は異なります。
わたしも言語聴覚士の資格を取る前には「摂食嚥下(たべること)」の訓練・指導は、あまり興味がありませんでした。しかし、いざ障害児分野で働くようになって、一番求められたのが「摂食嚥下」でした。
そこから勉強しなおして、これまでは興味のなかった「日本摂食嚥下リハビリテーション学会 認定士」の資格を取りました。
今ではとってよかったと心から思っています。言語聴覚士以外の人でも、特定の資格があれば とることができるものなので、よかったらスキルアップにどうぞ。
子どもに求められていることに目を向ける
専門職として必要なのは、現在、子どもに必要なのは何なのか?を考えることです。保護者や支援者が「こうしてあげたい」と思うことを叶えるために協力することも「専門職」としての役割のひとつです。
しかし、保護者や支援者の願いや目標を見ると、「今じゃなくない?」と思うことがたくさんあるのも事実です。まずは子どもをよくみてみましょう。
・何が何でもリハビリをする必要があるのか?
・将来のことを視野に入れているか?
子どもが求めていることを考える。わたしたちが関わるのは、自分から訴えることができない子たちばかりなのですから。
まとめとして
今回は「専門的支援実施加算」と「専門職」の関わりについて、実際の現場の意見を紹介しました。
今回の加算では、専門職(やそれに準ずる支援者)が訓練を行う機会が増えてきました。わたしも言語聴覚士(ST)として専門的な「何か」をするよう求められました。「何でも良いから専門的なことを」と。
「何も知らないくせに、そんなこと言うなよ」とひねくれて終わるのか、「よし、専門職が役に立つ存在だということを証明して見せよう」と前を向いて頑張るのか。それは、あなた次第。今回の問題を乗り切れば、新たな専門職の役割や立場が見えてくるのではないか。私は現場で そんなふうに考えています。
よかったら参考にしてみてくださいね。
一人職場の専門家も多いと思います。しかし、同志は全国にたくさんいます。わたしもそのなかの一人になれるよう頑張っていきます。