曖昧な「軟らかい」食形態の違いを知ろう
「やわらかいものを食べさせてあげたいんだけど、ムースって何?」
「ペーストと何が違うの?」
「この子にはどんな形状の食べ物が合ってるんだろう?」
放課後等デイサービスで子どもたちの食事支援に関わる中で、そんな疑問に出会うことがあります。
やわらかくて食べやすい食品――とひとくくりにされがちですが、「ムース」「ペースト」「マッシュ」は、実はそれぞれ食感や機能性に違いがあります。
今回は、発達と摂食嚥下を専門とする言語聴覚士(ST)が長年の経験をもとに、食形態の違いについて説明していきます。
食形態の表現
障害児分野では、食べものの状態(食形態)をあらわす名称が曖昧です。
・普通食
・後期食
・中期食
・初期食
・刻み食
・ペースト食
・嚥下食
・やわらか食
・ミキサー食
まだまだあります。施設によって使っている名称が異なるので、本当にややこしい。そのため、ご家族も混乱していることが多いです。
代表的な分類は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の食分類です。↓
発達期 摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018(PDF) | 一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
ムース、ペースト、マッシュの違いは?
なかでも曖昧になりやすいのが、軟らかいのは分かる。でも違いは分からない。という「ムース」「ペースト」「マッシュ」。今回は、この3つを言語聴覚士(ST)の視点から、やわらか食の違いとその使い分けについて説明していきます。
「やわらかくて食べやすいもの」――そう聞くと、なんとなく似たようなイメージを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも実は、「ムース」「ペースト」「マッシュ」「ジュレ」「ゼリー」など、やわらか食にもたくさんの種類があり、それぞれに“意味”と“役割”があります。
注意したいのが、「軟らかい食形態のものは軟らかくて誤嚥しない」と思われがちです。しかし、軟らかいものは嚥下反射が起こる前に喉の奥へ行ってしまったり、喉の奥や天井に張り付いてしまうことがあります。
ムース
空気をふくませたふわっとした食感。
ゼラチンなどで固めることが多く、舌や上あごでつぶせるやわらかさが特徴です。
例:卵ムース、にんじんムースなど
食べると口の中でスッと溶けるように崩れるので、「噛む力」「飲み込む力」が弱い方でも、比較的安全に食べられます。
ペースト
どろっとしたなめらかなペースト状。
原形はないけれど、口の中にまとまりやすく、誤嚥のリスクも比較的低め。
例:さつまいもペースト、かぼちゃのポタージュなど
ムースよりも水分量が多い場合もあり、飲み込みにくさがある人にはとろみをつける工夫が必要になることも。
マッシュ
ゆでたり蒸したりした素材を、つぶしてやわらかくしたもの。
食材の“かたち”や“繊維”が多少残るため、噛む練習にも向いています。
例:マッシュポテト、つぶしたバナナなど
マッシュは「見た目の分かりやすさ」「素材感」があるため、「食べている実感」を持ちやすいという声も。
ジュレとゼリーは違うの?
さらに分かりづらいのが「ジュレ」と「ゼリー」です。一般的な料理の世界では言語の違いによるニュアンスの差があるだけです。
・「ジュレ」はフランス語
・「ゼリー」は英語
どちらも「ぷるん」としたゼラチン系の食感ですが、実は少しだけ違います。
ゼリー
透明感があり、しっかり固まっている。型に入れて冷やしてから出すことが多い。
ジュレ
やわらかめで、スプーンでくずしやすく、料理のソースやとろみづけにも使われる。
食べる人の「飲み込む力」に合わせて、ゼリーをくずして水分やとろみを加えることで、ジュレのようなやわらかい状態に近づけることができます。また、ジュレも冷やして少し固めることで、ゼリーに近い質感に調整することも可能です。
ただし、ジュレとゼリーは製法や性質が異なるため、一方がもう一方に変化するわけではなく、用途に応じた作り分けが大切です。
ジュレにトロミ剤を加えてもゼリーにはならないということです。トロミ剤が万能だと思っている方は意外と多い!でも、そうではないのです。
放課後等デイサービスでの食支援として
言語聴覚士は「ことばの専門家」と思われがちですが、「食べること」「飲み込むこと(摂食・嚥下)」の支援も大切な仕事のひとつです。
放課後等デイサービスでは、障害のある子どもたちが、おやつや軽食を安全に食べられるように、STがアドバイスすることもあります。
「この子にはムース状が安全かも」
「ペーストにとろみをつけたらもっと食べやすくなるかも」
「ゼリーよりジュレの方が誤嚥のリスクが減るかな?」
そんなふうに、“食べる”という日常のひとコマに、STが関わることもできるのです。
「やわらかい=安全」とは限らない
子どもの嚥下の状態によっては、かえって“やわらかすぎるもの”が苦手な子もいます。
・ムースだと口の中で広がってうまく飲み込めない
・ゼリーがつるっと喉に入りすぎてむせる
そんなケースも、実際にたくさんあります。だからこそ、「その子に合った食形態」を見極めることが大切。その判断をする上で、言語聴覚士の知見は役立ちます。
おすすめの書籍紹介
やわらか食や摂食支援についてもっと知りたい方には、以下の書籍が参考になります。
◆嚥下調整食学会分類に基づく嚥下調整食レシピ123
摂食嚥下の基礎から調理のポイントまで、写真つきでとてもわかりやすいです。
◆病院・施設でつくるかんたん嚥下調整食レシピ100
医療・福祉施設の現場目線で、限られた時間や人員でも手軽に作れる100のレシピを紹介。施設スタッフに人気です。
その他の本はこちらをご覧ください。
まとめとして
今回は、食べることが苦手な子(人)が食べる「嚥下食」、なかでも、軟らかいものの「名称」を紹介しました。どの食形態で食べているか?は、対象の子(人)がどのくらい食べる機能が発達しているか?(もしくは残っているか?)を知ることができます。
相手の力を知ることができれば、食事中に起る事故のリスクを減らすことができます。知ることは、安全につながります。
よかったら参考にしてみてくださいね。








