障害児支援でみる親&支援者の「義務」と「権利」
障害児の支援を行うとき一番大切なのは「子どもが主役となっているか?」と考えることです。子ども自身、何らかの障害があるため、自分の要望を相手に伝えられないケースがほとんどです。そのため、保護者や支援者が「本人の希望」を代弁して考えて支援やサービスを組み立てていきます。
本人以外の人が考えた「こうして欲しい」という希望なので「あれ?」と考えてしまうことがあります。
・本当にそうなの?
・偏っていない?
・権利ばかり求めていいの?
今回は、支援で「義務」を負うのは誰で、「権利」を得られるのは誰だ?という話しをします。
変わってきた点
昔と比べると、福祉職も給料が上がってきました。それでも、万年人手不足の施設がほとんどです。「ワーク・ライフ・バランス」と言う考え方も根付いてきていて、仕事ばかりではなく、自分の生活も大切にしようという流れになってきています。
しかし、福祉の世界では、自分を犠牲にして働く、という考えが まだまだ「美徳」として残っています。「自分たちが頑張らなければ、子どもたちの行き先がなくなってしまう」そんな思いで頑張っている支援者も少なくありません。逆に「自分の仕事しかやらない」人もいます。
保護者の方も、金を払っているのだから、しっかりサービスをやってもらわないと困る。そんなふうに言ったり思っていたりする人が増えています。
このギャップに苦しむのが末端の労働者、すなわち支援員たちです。理不尽なことが多い業界で、頑張っている支援者たち。苦しくなってくると子ども側の「権利」を求める姿しか見えなくなってしまうのです。
大前提:支援は「対人(人対人)」!
障害児支援は「対人援助」です。「人(子ども・保護者)」と「人(支援者)」で成り立っています。だからこそ、一方的な「私の権利ですから!」という意見を相手に押し付けてしまうと、様々なものが上手くいかなくなるのです。
・子どもに「もっと丁寧な支援をして欲しい」というクレーム
・施設のルール外のことを日常的に強制してくる
・職域外の仕事は「わたしの仕事ではありません」と言う
・他の人のことを考えない休日・有給申請
親の「権利」とは?
どんな人にも「権利」を持っています。障害児の親だって例外ではありません。それはワガママではありません。誰もが与えられるものです。では、支援や療育を受けるにあたって得られる「権利」はどのようなものがあるのでしょうか?
①情報を知ること
障害を持っている子は、お医者さん以外にも様々な専門家に会います。その出会いを通して子どもの状態や治療、療育に関する情報が手に入るはずです。それらの情報を知ることは親の「権利」なのです。
ただし、発達検査(テスト)や評価など、報告書といった書面で結果を知りたい場合には代金がかかることがほとんどです。
②意思決定への参加
子どもの治療や療育、教育などを決定するとき、様々な職種が話し合いを行います。そのときに親の意見も重要視されます。よっぽどのことがない限り、親の意見も尊重されるはずです。
③支援やサービスを受けること
福祉の支援やサービスなど、普通に暮らしていたら入ってこない情報はたくさんあります。それを保護者に伝えるのも支援者の仕事です(ex.相談員など)。
子どもを預かってもらえる「レスパイト」。これだって親の甘えではない!サービスを受けることで、親や家族の生活を立て直すきっかけとなるケースがたくさんあります。これは立派な「権利」です。
④意見を言うこと
障害児に限らず、福祉や支援に関することは複雑なことが多いです。専門家の提案に対して「意見」を言うことも親の「権利」です。
ときどき「何も知らない人は黙って専門家の言うことを聞いていなさい」と言う支援者がいます。そんな人の提案(ざれごと)なんて聞く必要はありません。支援者や役人にとっては「アタリマエ」なことでも、親や家族にとっては聞きなれない単語。
支援者もそれを忘れてはいけません。
親の「義務」とは?
では「義務」は どのようなものがあるのでしょうか?
①子どもの最善の利益を守る
親は子どもの健康や教育、福祉を最優先に考えること。これが「義務」です。障害があろうとなかろうと同じですよね。親は子どもの最善の利益を守る義務があります。
②必要な医療やケアを提供する
必要な医療やケアを提供し、適切な治療を受けさせる責任があります。何となく「必要ない」と勝手な判断で治療や療育を受けない、ということでは義務を果たしているとはいえません。
③適切な教育の確保
「適切な」というのは、子どもの発達段階や能力、特性に合った教育・療育を指します。どこなら受けられるのか?分からない場合には、お住いの役所にある「障害者支援課」で相談をしてみるとよいです。
いきなり「障害者」という課に足を運ぶことに抵抗があるかもしれません。しかし、障害や疾患を持つ子の窓口は、だいたい「障害者支援課」のような名前がついているのです・・・。
支援者の「権利」とは?
次は、支援者側の「権利」を見ていきましょう。障害児支援を行う支援者の権利と義務は、主に「障害者総合支援法」と「児童福祉法」に基づいています。
①必要な研修や教育を受ける権利
支援者のスキルアップは必須ではありませんが、知識や技術をつけたり、子どもの症状を知るための勉強をすることで、より深みのある支援ができるようになります。
施設側が「こんな研修があるよ」と情報を提供することも、結果として施設全体の底上げとなるはずです。
②労働環境の整備
福祉職は「稼げない」労働者が多い業界です。実際に、支援者をコマのように扱う経営者は存在します。しかし、支援者も安全で健康的な労働環境を求める権利があります。
・適切な休憩時間
・適切な労働条件
サービス残業は「悪」です。必要悪ではなく「悪」です。
支援者の「義務」とは?
では「義務」は どのようなものがあるのでしょうか?
①ニーズに合った支援の提供
障害を持つ子は、同じ障害名・診断名であったとしても、症状が全く同じ子はいません。そのため、支援者は一人ひとりのニーズに合った、個別化された支援を提供する義務があります。これには、生活の質を向上させるための具体的な支援計画の策定が含まれます。
②秘密保持
支援を行うとき、子どもに限らずその家族の情報を目にする機会が多くあります。支援者はプライバシーを守る義務があります。個人情報の取り扱いには細心の注意を払う必要があります。
③最新の情報や知識、技術を学び続ける
支援者は、常に最新の知識や技術を学び続ける義務があります。なぜなら、古い情報では誤りが多く含まれていることがあるので、新しい情報を収集することが欠かせないのです。新しい知識や技術を手に入れることは、支援の質を維持し、向上させることにつながっていきます。
支援者同士・親同士の問題
権利ばかり主張すると
支援者や親、それぞれに「権利」と「義務」があります。どちらかが「権利」ばかり主張すると関係性は成り立たなくなります。
「支援者なんだから やって当たり前だろ」
「親なんだから もっと子どものことを考えろ」
障害児分野で働いていると、これらのセリフを耳にする機会は意外と多いのです。気持ちは分かります。でも、相手も人間です。できないことだってある。自分の都合ばかり押し付けてはいけません。
まとめとして
今回は、親と支援者にも「義務」と「権利」があるよ、という話しをしました。仕事やサービスの利用が上手くいかないとき、もしかしたらこの2つのバランスがおかしくなっているのかもしれません。
親も支援者も「独りよがり」「ワガママの度が過ぎる」と失敗します。取り返しがつかなくなる前に、自分の「義務」と「権利」を再確認することが大切です。どちらかに考えが偏ってしまうと、相手は離れていきます。
「自分が相手の立場だったらどうするか?」
「自分は平気でも相手は嫌かもしれない」
自分以外の人も 同じ「人間」だということを忘れないようにしましょう。結局は人対人です。同じ場を共有するのですから、お互いに気持ちよく、感じよくやっていきたいものです。