障害児施設で働く人が知っておきたい「手帳」のはなし
障害を持った子で、診断を受けていれば、たいてい手帳を持っていると思います。「障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者手帳」。手帳にも種類があります。今回は、子どもの手帳のはなしです。そのため、「障害者手帳」「療育手帳」をメインに話をしていきたいと思います。
手帳は自治体によって多少異なる点があります。すべての都道府県の違いをあげるときりがありません。そのため、ここでは東京都を例に挙げています。
愛の手帳(療育手帳)のはなし
愛の手帳(療育手帳)について
1)療育手帳とは
知的障害がある子の手帳です。これを持つことで、様々なサービスを受けることができます。
「身体障害者手帳」や「精神障害者保健福祉手帳」には法的な裏付けがあるのですが、何故か「療育手帳」にはそれがありません。厚生省(当時)が出した「療育手帳制度について」のみが基準となっています。
この通知には、知的障害がある人には「療育手帳」を配りますよ、としか書かれていません。そのため、障害の程度区分は地域(自治体)によって異なるのです。
2)メリット
手帳を持っていることで得られるサービスの例は下記の通りです。
・医療費が1割負担
→障害を持っている子は、通院の頻度が高かったり、薬の量が多かったりします。その負担をおさえられます。
・交通費の減額
→ご存知の通り、電車やバス、タクシーの割引があります。
・通信料の減額
→電話やNHKなどの減額があります(世帯主が手帳所有者の場合のみ)
・手当
→障害児福祉手当などで手帳の投球によっては手当がもらえます
3)呼び方
地域によって呼び名が異なります
・愛の手帳・・・・・東京都、横浜市
・みどりの手帳・・・さいたま市
・愛護手帳・・・・・青森県、名古屋市
・療育手帳・・・・・その他地域
4)障害の程度区分
療育手帳は「度」で段階分けされています。(「身障手帳」は「級」)
区分が自治体によってバラバラです。そのため、ややこしく感じてしまいます。
東京都は・・・1~4の4段階(1が重く、4が軽い)。
障害の程度は、8つの判定項目
・知能測定値・・・IQなど検査から出された数値
・学習能力・・・・読み書き計算など
・作業能力・・・・絵画、制作、その他の作業の能力
・社会性・・・・・対人関係の理解、集団行動
・意思疎通・・・・ことばでの意思疎通
・身体的健康・・・身体の発達、その健康状態又は合併症等に関する健康上の配慮
・日常行動・・・・日常行動の状況
・基本的生活・・・食事、排泄、着脱衣、入浴、睡眠等
などを、年齢に応じて総合的に判定し、4つに区分されます。
◆1度(最重度)
・IQが19以下
ことばによる意思疎通ややり取り、周囲のことの理解も難しいです。そのため、生活全般にわたって、常に援助や介助が必要な状態です。
◆2度(重度)
・IQが20~34
ことばによる意思疎通がやや可能ですが、集団行動はほぼできません。簡単な作業(手伝い)であればできることもあります。生活は部分的に自分でできることもありますが、常に注意と配慮が必要です。
◆3度(中度)
・IQが35~49
具体的なことの理解や会話であればできます。簡単な読み、書き、計算も部分的にできますが、それらをやり取りに使うことはできません。日常生活や作業も、声かけや指示などの援助があれば可能です。
◆4度(軽度)
・IQが50~75
日常会話や意思疎通ができます。その際、簡単な文字を使うこともできます。集団行動もおおむね可能です。単純な作業もできます。日常行動に支障はなく、ほとんど配慮を必要としません。
※判定基準はありますが、最終的には総合判定により障害の程度が決められます。
※未就学児(0~6歳)と学齢期(6~17歳)の判定基準は異なります。上記は学齢期の基準です。
5)再判定
3歳、6歳、12歳、18歳の時に再判定を受ける必要があります。また障害の程度が変化したと思われた際にも、再判定を受けることができます。その際、発達検査を使うことがあります。
放課後等デイサービスでも、発達検査を受けられる事業所があります。検査の結果をもとに役所で判定してもらうこともあります。
6)手帳に書いてある「合併障害の有・無」って何?
合併障害とは、知的障害の他に合併している精神障害や身体障害のことです。
たとえば、「身体障害者手帳」を所持している子は、合併障害の欄に「有」と記載されています。
7)手帳に書いてある「第1種、第2種」って何?
交通機関(JR・民営鉄道・旅客船など)の運賃割引制度の種別を表しています。
第1種:「愛の手帳」が1度・2度の場合
第2種:「愛の手帳」が3度・4度の場合
※ただし「愛の手帳」が3度でも「身体障害者手帳」の1級~3級を重複して所持している場合には第1種となります。
障害者手帳のはなし
障害者手帳について
障害者手帳に記載されている障害名。同じ障害や程度でも子どもによって障害名が異なるのはなぜなのでしょうか?
1)身体障害者手帳のはなし
なぜ障害者手帳の障害名は、同じ障害でも子どもによって記載が違うの?
子どもによって「障害名」の欄に書かているないようが違います。同じ脳性麻痺であっても「体幹機能障害」というケースと「両下肢肢機能障害」「体幹機能障害」というように複数が書かれているケースがあります。
この違いは何でしょうか?
手帳に記載された障害名は、お医者さんの見立てです。
「こうやって書いておけばいいだろう」
しかし、生活をしていくうえで、稀に不自由が生じる場面が出てきます。
それが、手帳に記載された障害名によって受けられるサービスが決まる、という問題です。
2)手帳の障害名の書き方
これまでは、障害名(診断名)は簡潔かつ明瞭に書かれていました。しかし、近年、プライバシーの観点などから、障害分類だけの記入するようになっています。
手帳の交付対象となる障害
1 視力障害
2 視野障害
3 聴覚機能障害
4 平衡機能障害
5 音声・言語・そしゃく機能障害
6 上肢不自由
7 下肢不自由
8 体幹機能障害
9 上肢機能障害
10 移動機能障害
11 心臓機能障害
12 じん臓機能障害
13 呼吸器機能障害
14 ぼうこう又は直腸機能障害
15 小腸機能障害
16 免疫機能障害
17 肝臓機能障害
東京都福祉保健局
東京都心身障害者福祉センターhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shinsho/shinshou_techou/techonituite.html
私たちが知っている「障害者手帳」を持っているのは肢体不自由の子がほとんどです。
なお、
・診断名が明確でない場合
→症候名でOK
・具体的な障害の内容が手帳に記載されていた方がよいと判断された場合
→本人の意向を踏まえたうえで、従来のように傷病名及び障害程度を記載してもOK
そのため、記載された障害名が子どもによって異なっているのです。
■手帳の障害名を改訂するケース
では、手帳に記載された障害名によって受けられるサービスが決まる、とはどのようなことなのでしょうか?
下記は、サービスを利用するために、手帳の障害名を改定したケースの例です。
例えば、よく見かける「体幹機能障害」
⇒頭の動きだけでパソコンの操作が出来る入力補助装置を補助で買うときには「上肢機能障害」の記載がないと補助の対象とはならないケースがあります。体幹機能障害=上肢機能障害とはならないのです。上肢、下肢の機能障害は体幹とはまったく別なのです。
上記は商品購入の補助ですが、ヘルパーなども種類によっては対象となる障害が厳密に決まっていることがあります(地域によっても助成や給付の対象は異なります)。
対象となる子の条件は、しっかりと決まっていますが、どうしても「抜け落ち」が出てきます。この「抜け落ち」には、役所が対応できないことがあります。そのため、手帳に記載された障害名を変えるという手段をとることがあるのです。
本来であれば、手帳の障害名は、その人が置かれている立場や状況を示すものであるはずなのです。
※この内容(「手帳の障害名を改訂するケース」)は下記を引用しています。
『知ってます? あなたの手帳の障害名~身障手帳に書かれた障害名と利用できるサービス~』 頸損だより 2005秋(No.95) 2005年9月25日
http://okeison.com/kd/095/003.html
3)その他の手帳のはなし
手帳の色
手帳には、「身体障害者手帳(茶色)」「愛の手帳(黄色)」「精神障害者保健福祉手帳(緑)」があります。東京都では茶、黄、緑の3色です。
この色。地域によってバラバラなのです。なので、店や駐車場で減免を受ける際には、表紙を提示するのではなく、中身を提示した方が親切です。
近年、3種類の手帳の色を統一しようとする流れがあります。例えば、埼玉も市町村によっては一色に統一していることろが増えています。
手帳の表紙
「精神障害者保健福祉手帳」の表紙は「障害者手帳」としか書かれていません。「身体障害者手帳」「愛の手帳」にはしっかりと手帳名が書かれています。これは、プライバシーに配慮したもので、他の障害者よりも深刻な偏見が生じないようにしたものだと言われています。
まとめとして
療育手帳(愛の手帳)
⇒ 知的障害を持った子(人)の手帳
身体障害者手帳
⇒ 身体の内外に何らかの障害や疾患がある子(人)の手帳
◆ 地域によって手帳の名称、色などが異なる
◆「療育手帳」と「身体障害者手帳」を同時に持つこともできる
◆ 手帳に書かれた障害名は、診断された障害・疾患名ではなく「状態」をさすもの
◆ 手帳を持つことで、各種割引などをうけることができる
※実際に手帳の取得をお考えの際には、各都道府県および市区町村のホームページをご確認ください。
あわせて読みたい
参考資料
◆身体障害者手帳について
東京都福祉保健局 東京都心身障害者福祉センターhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shinsho/shinshou_techou/techonituite.html
◆愛の手帳について
東京都福祉保健局 東京都心身障害者福祉センター
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shinsho/a_techou/ainotechounituite.html
◆等級判定のガイドライン等について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000090521.pdf
◆頸損だより 2005秋(No.95) 2005年9月25日
『知ってます? あなたの手帳の障害名~身障手帳に書かれた障害名と利用できるサービス~』
http://okeison.com/kd/095/003.html