肢体不自由児がYes/Noの表出を促すまでの支援の流れ
肢体不自由児で知的に遅れがある子の場合、質問されてもうまく答えられないことがあります。
話しかければ笑ってくれる。
でも返事はない。
そんな子もたくさんいます。
せめて「Yes(はい)」と答えるようになれば・・・。
そんな願いを持っている親御さんや支援者は多いはずです。
今回は、相手の質問に「Yes」と答えられるまでの発達的な流れを説明します。
繰り返し質問に答えることよりも、土台となる力を積み重ねたほうが成長できるという話しです。
意思を表出できない障害児
肢体不自由のために思いどうりに自分の気持ちを出せない子がいます。
シャイな子だから、という性格的な問題ではありません。
発達的に初期段階にいてどうやって「自分の気持ちを相手に返すか?」が分かっていないのです。
「こうやっていうんだよ。ほら、言ってごらん」
そんな支援をやっている方も見かけます。
しかし、それでは何も変わりません。
なぜなら「やり方」だけではなく「やる意味」も分かっていない場合が多いからです。
順を追って、土台となる力をつけていく必要があるのです。
一番の土台となるのが期待するという力です。
まずは「期待して待てる」ようにしよう
期待する力というのは簡単に言ってしまうと次のようなことです。
相手が言ったりやったりする様子をみて「期待して(ワクワクして)」待つことができる力。
ちょっと難しいかもしれません。
子どもが好きな「一本橋」の手遊びを思い出してください。
「いっぽんばーし、コーチョコチョ・・・」
というあれです。
「この曲のときは最後にくすぐられるんだ!」と予想できる。「歌」と「くすぐられる」ということがつながることで楽しめる遊び。
相手の動き(くすぐり)を予測できて「まだかな、まだかな」と楽しみながら待つ遊びです。
誰でも待てるでしょ?
そう思われるかもしれません。
しかし、これが意外と難しい。
出来ていない子はたくさんいます。
Yes/Noを出せるようになるまでの流れ
「Yes/Noが出せること」と「期待反応」って関係あるの?
実はあるのです。
Yes/Noが出せている子は、どの子も大人の働きかけに「期待」できているのです!
それでは「Yes/No」が出せるようになるまでの流れをみていきましょう。
(1)周囲の音に意識を向けられる
赤ちゃんは音のする方に顔を向けるようになります。
これを「定位反応(ていいはんのう)」と呼びます。
まずは音のする方に顔を向けられるようにする必要があります。
周囲に意識が向かなければ相手とコミュニケーションをとることができないからです。
音に対して過剰に驚く子がいます。
人の声に対しても同じです。
声かけに毎回ビックリしていてはコミュニケーションがとれません。
驚かせないためにリラックスできる環境を用意することが大切です。
★支援のポイント② 子どもの注意を向けてから
呼ばれても一瞬は視線を向けるけれど、すぐに意識が逸れてしまう子がいます。
その場合には子どもの身体に触れながら言ってみることも有効です。
ただし、言うのはよいのですが同じ言い方で何度も繰り返してしまうと、言われた子どもの耳も慣れてしまうので余計に聞こえなくなってしまうことがあります。
注意が必要です。
(2)期待して待てる
期待しながら待てることを「期待反応」といいます。
相手がしようとしていることを見て「次はこうするはずだ」とワクワクしながら待てることです。
「期待」するようになる=期待反応が成立した
★支援のポイント① 期待反応の捉え方
特定の人と特定の場面で「期待」するような動きが出てきたら?
期待反応を「Yes」として受け取ります。
逆に反応がない場合は「No」と判断します。
「期待している」という様子が「相手に伝わっている」と気づくための練習となります。
★支援のポイント② 共感は忘れずに
一緒に遊んだり活動したりしたときに「楽しい」という気持ちを共有していきます。
その際、「楽しいね」等の声かけを忘れずに。
さらに子どもの注意を向けたいものがあるときには都度、指さしや声かけを行うようにしましょう。
相手の働きかけ(外からの刺激)に意識を向ける練習になります。
(3)相手と同じものを見られる
相手と同じものに意識を向けることを「共同注意」といいます。
コミュニケーションの基本は相手と同じものを見たり感じたりすることです。
期待反応が定着してきた子どもは「あれ?大人ってコントロールできるんじゃないか?」と気づくようになります。
・笑ってみる
・ものを見つめてみる
・手を伸ばしてみる
大人の注意が自分に向くように気を引く行為が増えてきます。
大人の注意を引くために、大人が関心を向けているものに着目するようになります。
・大人は何を持っているのか?
・何を指さしているのか?
・何を見ているのか?
最初は瞬間的に気にする程度です。
しかし、段々と大人に注意を向け続けるようになってきます。
この行為が大人と同じものに注意を向けるという「共同注意」につながっていくのです。
共同注意ができるようになると、子どもは自分が欲しいものに大人の注意を向けさせることが可能になってきます。
(4)Yes/Noのサインができ始める
大人からの働きかけに「期待」できるようになると、子どもは自分の視線や身体の動きを使って「自分のやって欲しいこと」を大人に伝えるようになります。
まだ「伝える」というよりは「アピール」かもしれません。
しかし、自分の気持ちを相手に向けることが上手になってきます。
相手に伝える手段は子どもが無理なくできる動きを活用していきます。
・チャイムやスイッチで伝える
・舌を出す
・声を出す
・手を伸ばす
まとめとして
今回は、肢体不自由児が「Yes/Noの表出を促すまでの流れ」について説明しました。
「どう思っているのか?」
「何を考えているのか?」
分かりにくい子はたくさんあります。
そんな子たちも「相手に伝わった!」という経験を重ねることが「もっと他者と関わりたい」という気持ちの変化につながります。
「期待」が生まれる遊びや支援、ぜひ考えてみてください。
支援をする人は「ほら言ってみて」というやり方ではなく、発達段階を意識すると新しい支援が見えてきます。
よかったら参考にしてみてくださいね。
◆参考資料
難しいけれどためになる本です!