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子どもの「注意力」!発達段階と4つの種類とは?【障害児支援】

「注意力」という視点を発達支援に役立てるために

「注意力」と聞いてどのようなイメージを持っていますか?

・注意力がない

・注意しなさい

マイナスなイメージばかりあることばです。

しかし、実際にはそれ以外にももっと広い意味があるのです。

この「注意力」を子どもの発達支援に役立たせるためにはどのようなことに気をつけていけばよいのでしょうか?

今回は「注意力」の種類と活用方法について説明します。

 

 

「注意」「注意力」とは?

一般的に「注意」という単語は

・特定のものに意識を向ける

・指摘される、怒られる

という意味で使われています。

 

では「注意力」という単語ではどうかというと

・特定のものに意識を向ける力

という意味になります。

 

 

なぜ大切な考え方なのか?

なぜ「注意力」という視点が発達支援にとって大切なのでしょうか?

それは支援者が何となく「注意力」ということばを捉えていると本当の子どもの様子を理解できなくなるからです。

 

ex. 1つのものに意識を向けられない子

⇒「注意力がない子」という評価をしてしまいがち

 

子どもに注意力がないであれば「ちゃんと見て!」と言い聞かせればいいのでは?そう思われる人もいるかもしれません。

しかし、「注意力」の後ろに隠れている問題があるかもしれないのです。

問題は子どもによって様々。

たとえば次にような問題が考えられます。

 

 

記憶力の問題があるかもしれない

言われたばかりのことを忘れてしまう子がいます。

「短期記憶」の苦手さがあるのかもしれません。

もしくは、何かをしながら言われたことを覚えておく「ワーキングメモリー」の苦手さがあるのかもしれません。

 

発達的に苦手な箇所があるのかもしれない

子どもは生後半年を過ぎると、母親に話しかけられるとそちらを見たり、母親が見ている方向を子どもも目で追ったりするようになります。

この「特定のものに目を向ける」ことが注意力を支える力となります。

障害を持った子のなかには、物や人に意識を向けることが苦手な子がいます。

 

 

発達段階

一般的に障害がない子(定型発達・健常児)の「注意」の発達は次のような流れで獲得していきます。

 

「注意力」の発達(0~1歳)

 ポイント:「相手が見ているものに注意を向けられるか?」

 

6ヶ月 : 母親が見た方向に顔を向けるようになる
       まだおおまかな方向だけ

9ヶ月 : 三項関係でのやり取りを行うようになる
      (玩具を介して大人と遊ぶ)

         他者がやることに意識を向け続けるようになる

12ヶ月: 母親が見たもの(対象)が何かを理解するようになる
         自分の背後を意識することは難しい

 

補足

9ヶ月

⇒・他者が行った行為で外界(周囲)が変化を起こすことに気づくようになります。

ex. 目の前にいる人がスイッチを押したら音が鳴った
   母親が転がっていたボールを持ってきた ⇒わたしの手元にボールが来た。

 

「注意力」の発達(9ヶ月~1歳半)

 ポイント:相手の行為自体に注意を向けるようになる

 

9ヶ月~18ヶ月(1歳半)

・他者が行った行為で外界(周囲)が変化を起こすことに気づくようになる。

ex. 目の前にいる人がスイッチを押したら音が鳴った
   母親が転がっていたボールを持ってきた⇒わたしの手元にボールが来た。

・他者がやることに意識を向け続けるようになる

 

「注意力」の発達(1歳半~2歳)

ポイント:相手がやったことを理解するようになる

 

18ヶ月 : 

母親が見たもの(対象)が何かを理解する
自分の背後にある物でも探すようになる

18~24ヶ月

言語理解、産出

他者が行った行為で何らかの変化が生まれることに完全に気づいている

 

補足

18ヶ月(1歳半)

・他者が行った行為で何らかの変化が生まれることに完全に気づいています。

ex. 母親がジュースのパックを持ってきたら自分もジュースを飲むことができる

 

※参考文献

視覚的共同注意の3つの発達段階
Butterworthら(Butterworth,1995;Butterworth&Cochran,1980;Buuerworth&Jarrett,1991)

 

※研究によって獲得する年齢に違いがみられます。

特に「自分の後方への指さしを理解できる」は1歳~1歳半(12ヶ月~18ヶ月)と大きな幅があります。

 

18ヶ月⇒
Butterworthら(utterworth 1995;Butterworth&Cochran 1980;Buuerworth&Jarrett 1991)

12ヶ月⇒
Deakら(Deak,Flom,&Pick 2000)

13ヶ月⇒
別府(1996 ,1999)

ex. 「自分の後方への指さしを理解できるようになる」月齢

 

 

発達としての「注意力」と4つの種類

子どもの発達、障害児支援では「注意」「注意力」をどのように捉えればよいのでしょうか?

実はさらに細かく分けることができます。

それが下記の4つです。

 

① 意識を向け続ける力

ひとつのものに意識を向け続けられるか?という力です。

じっと見続けること、見なくても注意を向け続けられることです。

ex. 目の前に出された玩具に意識を向け続けることができる

これが育たないと、他者と玩具などで遊ぶこともできないです。

注意の「持続性」とも呼ばれます。

 

② 選び取る力

他の選択肢に惑わされずに「自分の好きなもの」や「指示されたもの」を選ぶことができるかどうか?です。

目的のものを見つけられるのか?

選び取れるのか?

ex. 複数のものの中から言われたものを見つけられる
ex. 複数のお菓子の中から食べたいものを選び取る

周囲のものに気を取られてしまっては目的のものを選び取ることはできません。

注意の「選択性」とも呼ばれます。

 

③ 変える力

ひとつのものに集中しているときに他のものに意識を向けられる力。

周囲のものに目が向けられる力です。

ex. 作業中、別の作業にすぐに移ることができる
ex. 作業が中断しても、すぐに再開して再び集中して取り組める

この力が育たないと、次のものに気持ちを切り替えにくい、周囲の状況の変化に気づきにくいことがあります。

注意の「転導性」とも呼ばれます。

 

④ 同時に行う力

2つ以上のものに同時に注意を向けること。 

他の注意機能のなかでもより高度な能力だといえます。

ex. 3人以上の人と会話ができる
ex. 電話をしながらメモが取れる

この力が育たないと、ボールを使ったスポーツがうまくできない、複数の人との会話が苦手、ということがあります。

注意の「分配性」とも呼ばれます。

 

 

「注意」に苦手さがある子にできること

では注意の力を育てるためにはどのような方法があるのでしょうか?

考えられることは2つ。

子どもが持っている力を伸ばして課題や問題などの壁を乗り越えやすくすること。

そして、環境を調整して壁を低くしてあげること。

 

① 力を伸ばす

力を伸ばすというと「注意力」をつけることだと考えがちです。

何らかの障害のために「注意力」が不足していたとしたら?

注意力をつけるために何度も集中させる練習をする?

もしも、障がいや疾患の特徴として注意の苦手さがあったらどうしますか?

永遠に練習をすることになります。

弱点を強化するのではなくて乗り越えやすくしてあげることがポイントとなります。

 

自分の興味があること、関心のあることをみつけてあげる

気が逸れやすい子にとって何かに没頭することは貴重な経験となります。

 

 

② 環境調整

子どもの周囲にある物や状況を調整してあげることで子どもが理解しやすくなります。

理解できれば注意も向けやすくなります。


何かしているときには他の刺激が入ってこないようにする

⇒ 不用意に声をかけない
(意外と大人はできていない!)

 

ひとつずつやっていってもらう

⇒ 複数のことを同時にさせない
(ひとつ終わったら次に移る)

⇒ 似た課題を続けて与えない
(やり方がまったく違うものが次に来たほうが理解しやすい)

 

・リストアップしてみる

⇒ 目で見て確認できれば次にやるべきことにもきづきやすくなります。忘れ物も減らせます。

 

 

自分に注意力の弱さがあったら

支援者自身、親御さん自身に「注意力」の弱さ、苦手さがあったらどうすればよいでしょうか?

落ち込まなくて大丈夫です。

ポイントは自分はどの「注意力」が苦手か?をしっかりと理解しておくことが大切です。

自分の苦手さを知っておけば予め対応策を取ることができます。

 

 

注意力の種類と対応

注意力の種類をおさらいしつつ対応策を考えてみましょう。

 

ポイント!
注意力(ちゅういりょく):
特定のものに意識を向ける、向け続けること。
【注意の特性】は4つの種類がある。
 
「持続性」
⇒ 行為や行動を持続すること
対応)休憩を取りながら無理なく続ける
 
「選択性」
⇒ 余計な刺激に惑わされずに、目的となるものに、選択的に意識を向けられること
対応)BGMを消す等、周囲の邪魔な音や動きをなくしておく
 
「転導性」
⇒ 対象となる物に注意を向けつつ、他のものにも注意を向けること
対応)集中する必要があるときには電話を切っておく等
 
「分配性」
⇒ 2つ以上のものに、同時に注意を向けること 
対応)ひとつずつやるようにする。事前にやる順番を決めておくのもよい

 

大人も子どもも対応策は同じなのです。
自分にも「こんな苦手さがあったら?」と考えながら障害を持つ子への支援を行うことが意外と大切なのです。
 
「わたし(大人)がこう思うから子どもも同じに思うだろう」ではありません。
「もし、わたし(大人)が子どもと同じ状況だったら」と考えるのです。
子どもありき
これがポイントです!
 
 

まとめとして

今回は「注意」と「注意力」について説明しました。
この「注意」のはなしは、一般的に大人やADHDの子に対して使われる概念です。
しかし、それ以外の障害を持つ子どもにも使える考え方(視点)となっています。
子どものことを深く理解するために「注意力」という視点も加えてみてください。
よかったら参考にしてみてくださいね。