小児STは楽しいはずだけど辛いのはなぜ?
小児分野の言語聴覚士(以下ST)が対象とするのは「子ども」です。
何らかの問題を抱えた子たちです。
本来、子どもたちと関わることは楽しいことのはずです。しかし、働いていて辛くなることもあります。なぜ辛くなってしまうのでしょうか?
今回は、小児のSTが辛くなってしまう要因や対応策など経験を交えて説明します。また、STが仕事を辞める原因&ST養成校の学生が学校を辞める原因もあわせて紹介?します。
小児STの仕事が辛くなる要因
辛くなる原因は
・物事の捉え方
・周囲の環境
によるものが多いです。
気持ちを重ね過ぎる
大変な状況に置かれている子もいます。
子どもに寄り添って、同じ気持ちになって考えることも大切です。しかし、子どもの気持ちになり過ぎると、逆に自分も辛くなってしまうのです。
訓練効果が見えづらい
小児分野のSTが受け持つのは
・ことば
・聞こえ
・飲み込み
+
・発達
という目には見えないものばかりです。
セオリー通りに訓練や支援を行ってもよくならないこともあります。
逆に、何もしないのに問題行動が和らいできた、というケースもあります。
なんだか分からなくなります。
結果が目に見えづらいというのは結構つらいものがあります。
理解がない
職種が違えば考え方や視点も大きく違ってきます。理学療法士(PT)・作業療法士(OT)のような近い職種なら分かり合えることも多いです。しかし、保育職とPT、OT、STの考え方が違うことは結構あります。
たとえば
「知的に重い障害があるけれど、なんだかもうすぐ歩けそうな子」
本当は認知面を育てることを優先したほうがよいのに、歩くことを最優先の目標としてしまう。
⇒危険認知や判断力などをつけてから歩くための練習を進めた方がトラブルは起こりづらいと考えられます。
たとえば
「どんなに喋らない子でも喋るようにできるのがST」だと思っている人が多いこと。
場合によっては「難しいと思いますよ」と答えざるを得ないときがあります。そのときの相手の「ああ、そうなんだ」「なーんだ」という表情。
すべての対象児を治せます!
そんなわけありません。そんなのができたら、それは魔法です。できるんだったら喋れない子なんてこの世に一人もいないはずです。
STは子どもを喋らせるようにする職種ではなく、子どもの育ちをお手伝いする職種なのです。
・音声言語に限らず何らかの手段をつかってコミュニケーションをとれるよう促す
・その段階に行くまでの地盤となる力を高める
さらに、ST全員が同じことをしているのではありません。得意分野は様々なのです。
・食べるのが苦手な人への訓練をするST
・補聴器を活用してもらうようにするST
・発達全般をみてアプローチしていくST
辛くなったときの対処法
辛くなり過ぎた場合、まずは自分がどのように仕事に取り組んでいるの考えてみるとよいです。真面目な人ほど「ちゃんとやらなくちゃ」と考えがちです。そこを少し緩く考えてみることで、辛さが減少します。例えば次の2つのように考えることもできるはずです。
ちょっとだけいい加減に考えてみる
子どもが問題行動を起こしたとき「自分のせいだ」と思ってしまう人もいるかも知れません。これはすべてがあなたのせいではありません。
・その子の特性や性格
・起ったときの前後関係や状況
などを考えて、「次にどうすればよいのか?」と支援につなげていけばよいのです。
完璧を求めない
◆日常的な勉強・情報収集
⇒ STは日ごろからの勉強も大切です。しかし、本に書いてあることすべてを覚えるのは無理です。だいたいでOK。「この本の後ろの方に書いてあったな」と思い出せるくらいがちょうどよいです。パッと出てこなかったら調べ直せばいいんです。
◆助言を求められたとき
⇒毎回、必ず貴重な情報を相手に伝えられるとも限りません。
以前、先輩セラピストが言っていたことばがあります。
「子どもと接していても何も感じなかったという日もある」
しっかり見ようとしていても、こちらのアンテナに引っかからないときもあるんです。
他人にも完璧さを求めてしまうとき
真面目な人ほど日ごろから「○○しなくちゃいけない」と考えています。自分に対して厳しく考えがちですし、他人に対しても同じようにすべきだと思ってしまいます。
完璧にやっている人なんてほぼいません。どこかで必ず息抜きをしています。また、他人の悪い点が許せないこともあるかもしれません。
・歩きスマホ
・人を否定ばかりする
など
そんなときは考え方をちょっとだけ変えてみます。
・「歩きスマホがゆるせない」⇒「歩きスマホをする人もいる」
・「人を否定ばかりする」 ⇒「人を否定する人もいる」
どんなことをしても悪い点が0人になることはありません。「○○の人もいる」くらいに余裕を持った捉え方をしておくとイライラも収まってきます。
「すべき」という考え方をしないことが大切です。
「○○でもいいか」「○○の人もいるよね」
というふうに。
◆専門職の「役割」と「職域」に関する記事はこちらです
転職してしまおう
それでもダメなら転職です。ここでいう「転職」はSTとして別の小児施設で働くという意味です。前向きな転職を考えてみましょう。
STが辞める理由 BEST3
「STの○○さんが辞めた」というはなしは毎年耳にします。私の周りにもたくさんいます。
では、彼らはなぜ辞めていったのでしょうか?
STの離職率はどの研究にもデータが公表されていませんが、辞める理由は限られています。私の周りの同業者(ST)たちが職場を離れていく理由で多いのは下記の3つです。
3 金銭面
⇒ 同年代のサラリーマンと比べると、リハビリ職の給料は安いです。小児分野は特に安い。以前と比べるとだいぶ金額が上がってきていますが。「やりがい」「子どもと関われること」を糧に頑張っている人はたくさんいます。しかし、自分が生活できないならはなしは別です。もっと給料の高い職場はたくさんあります。
2 人間関係
わたしは福祉の現場で長く働いていました。福祉職はどの職種も優しい人が多いです(全員ではありません)。特に男の人はどこの職場でも優しい人が多い印象です。
医療職でも、福氏ほどではないですが同じような傾向がみられます。
それでも相手は人です。合う・合わないは絶対にあります。
1 やりがい、スキルアップ
・思ったように仕事ができない
小児現場、特に放課後等デイサービスでは言語聴覚士(ST)の知名度、認知度は低いです。国は「専門職を入れなさい」と言っているのですが、「べつに必要ない」と思っている施設もあるのが現状です。人件費の関係で専門職を雇えない施設もあります(保育職よりも専門職の方が人件費が高いため)。
そのため、場所によっては「ここは障害児保育の場。療育の場ではない」という古き悪しき考え方がいまだに根付いているのです。
・スキルアップしたい
個別訓練をドンドンやって自分の経験値を増やしていきたい。そう思っていたけれど、いまの職場ではそれが叶わない。このままでいくと「個別訓練のできないST」になってしまう・・・。自分の将来像を考えて職場を変える「前向きな転職」はありです。
不安な気持ちのまま、いまの職場にぶら下がって年を重ねるよりは先を考えて計画的に自分の行き先を決めた方が有意義です。
養成校を辞める理由
ちなみにSTの養成校(専門学校)を辞める理由はどのようなものがあるのでしょうか?
私は夜間の専門学校に通ってSTの国家資格を取りました。そのときに退学の理由で多かったのは下記のようなものでした。
・金銭面
⇒ 医療職の専門学校は学費が高いです。年間100万円以上必要だったように思います。奨学金や特待生の制度もありますが、それを利用するかどうかは人によって違います。夜間部の学校であれば、働きながら通えるのでオススメです。仕事をした後の授業ですからその分、大変ではありますが。
・違った
⇒ 意外と多いのがこれ。「思ってたのと違った」です。「言語聴覚士ってこんな地味な仕事なんだ」「リハビリすれば必ず良くなるわけじゃないんだ」「小児のSTって責任が重いよね」など。入学当初はSTだかOTだかの違いもよく分かっていないはずです。仕事内容がハッキリと見えてくると思い描いていたSTとの差異に苦しむケースです。
・人間関係
⇒ 実際に働き始めると様々なスタッフとの間に利害関係が生じてきます。シフト制の職場なら休日の取り合い、意見の違いなど。学校では学生間に利害関係なんてほとんどないはずです。あるとすれば、授業中、お喋りしていて先生の話しが聞こえないとか。
・勉強についていけない
⇒ これは・・・頑張ってください、としか言えませんが・・・。私も入学当初は授業についていくのに必死でした。というか赤点ばかりでした。しかし、3~4年あれば盛り返すことができます!
最近は2年制の養成校も増えています。正直「すごいな」と思います。
辞めるタイミング
3月がベストです。
小児分野、特に学校、療育施設系は学校を基準にしているところが多いです。学校は年ではなくて年度で動いています。
・年 ⇒ 1月に始まり、12月に終わる
・年度 ⇒ 4月に始まり、3月に終わる
年度の途中で辞めてしまうと、施設側も困ってしまいます。
辞めない方がよいタイミング
・年度途中
⇒上記の理由から。どうしても辞めない場合はこれでもOK(家庭の都合、体調の問題など)
・勤務開始から数ヶ月
⇒数カ月単位で職場を転々とするST(常勤)がいます。それをやるなら非常勤STとして1年単位で転々とする方が、まだ力になります。
「理想の職場」なんてありません。自分が「どのように働くか?」が大切です。辞めるなら研修期間中の方がまだよい。
まとめとして
今回は小児分野で働くSTが感じやすい「辛さ」について説明しました。ダメなら転職。転職の理由で多いのはやはり「気持ち」なのです。自分の気持ちにウソをついてまで働くことはどうなのでしょうか?
今回の記事がそれを考えるきっかけになればうれしいです。