言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

「ことばが遅いかも」と感じたら【トイトーク】を使ってみよう

トイトークを使ってみよう

「まだ ちゃんと話さないのは、うちの子だけ?」
「2歳すぎても単語が少ないのは、大丈夫なの?」
「子育て支援センターでは“たくさん話しかけてね”って言われたけど、どう話しかけたらいいのかわからない…」

――そんなふうに、毎日のお世話や育児の中で、不安を抱えているお母さんへ。

わたしは言語聴覚士(ST)として、ことばや発達がゆっくりさんな子どもたちと、日々関わってきました。現在は、放課後等デイサービスという場所で、いろんな個性を持つ子どもたちが少しずつ「ことば」「コミュニケーションが育てていくのを、お手伝いしています。

この記事では、「ことばが出るのを待つだけじゃ不安」「でも、無理やりしゃべらせるのは違う気がする…」という方にこそ知っていただきたい、やさしいことばの支援方法『トイトーク(Toy Talk)』について、できるだけ分かりやすくご紹介します。

 

 

 

個人差が大きい言語発達

「子どもがしゃべり出すのは1歳くらいから」とよく言われますが、実際には、本当に個人差が大きいです。私が見てきたお子さんの中にも、

・10ヶ月ですでに単語が出ていた子
・2歳でオウム返しのようにマネっこする子
・3歳を過ぎてから、ようやくひとこと話し始めた子…

本当にひとりひとり違いました。

それなのに、1歳半健診や、周りのママとの会話の中で、

「えっ、まだおしゃべりしないの?」
「うちはもう“パパ”“ママ”って話すよ〜」

なんて言われたら、不安になって当然です。

しかし、ことばの発達は、“育ちのスピード”であって、“優劣”ではありません。急がせたり、比べたりするものではないのです。

・・・そんなこと言われなくても分かってる。でも心配になってしまう。

そう考えるのは親御さんとして当然だと思います。何かできることはないか?みんな考えています。

 

「ことばのシャワー」だけじゃ足りない?

――大切なのは、“話したくなる気持ち”を育てること

少し前までは、「とにかくたくさん、手当たり次第に語りかけて、言葉を聞かせましょう」というアドバイスが主流でした。いわゆる「ことばのシャワー」です。

もちろん、子どもがたくさんの言葉にふれることは大切です。しかし、それだけでは「ことば」になりにくいことが、最近の研究でわかってきました。

現在の支援では、子どもの興味や気持ちに合わせて「ことばを話したくなる関係」や「安心できるやりとり」を大切にするといった視点が大切にされています。

その中でも注目されている方法が、「トイトーク(Toy Talk)」です。

 

 

「トイトーク」って何?

そもそも「トイトーク」とは、どんな支援なのでしょうか?

「トイトーク(toy talk)」は、イギリスの研究者たちが提案した言語支援の方法です。

簡単に言うと、子どもが遊んでいる玩具や興味のあるものに、大人がそっとことばを添える方法です。

「おもちゃ(toy)」を使った遊びの中で、「ことば(talk)」のモデルを示していく。
だから“トイトーク”という名前がついているのです。たとえば――

 

ex.

子どもが車で遊んでいたら ⇒「くるま、ブーン」
積み木を積んでいたら ⇒「つんつん、たかいね」
ごはんのおもちゃを持っていたら ⇒「ごはん、たべよう」

大切なのは、子どもが「見ているもの」「していること」に合わせて話しかけること。子どもが今、何に注目しているのかをよく観察して、短くて分かりやすい言葉で声をかけます。

こんなふうに、「これを言ってごらん」と言うのではなく、
子どもが夢中になっている遊びに、大人が“ことばのお手本”として、さりげなく声を添えていく。それがトイトークです。


★トイトークって何だろう?

www.hana-mode.com

 

 

なぜトイトークが効果的なの?

ことばが出にくい子は、「話すこと自体に苦手意識がある」「大人とのやりとりが緊張する」と感じやすい傾向があります。

トイトークでは、子どもが安心して遊んでいる時間に、大人が「ことばのモデル」を静かに示すだけ。

「はい、言ってみて」とは言いません。
「話してみたくなる気持ち」を大事にする。

だから、子どもは安心して、「まねしてみようかな?」と自然にチャレンジできるんです。

 

トイトークの基本

トイトークにはいくつかの基本があります。どれも簡単な約束です。

 

① 子どもの“注目”に合わせる

無理に目線を引きつけたり、新しい遊びに誘導したりしません。
子どもが今、何に夢中になっているかを観察し、その遊びに寄り添ってことばを添えます。

 

② 短く・わかりやすいことばで

長い文章は不要です。「単語+動詞」くらいの短い言葉で十分。

 

ex.

「ごはん、たべよう」
「ボール、ころころ」

 

③ あきらめない

言えるかどうかは気にせず、「貯金」のつもりで、耳に入れてあげます。いつかそのことばが、フッと口から出る日がくるかもしれません。

どんなアプローチにも言えるのですが、支援を始めてすぐに成果が出ることは少ないです。

覚えさせるのではなく、経験を重ねる。習慣にする。

 

 

 

とある

2歳のAちゃんは、あまりことばを話しません。でも、車のおもちゃが大好きです。

ある日、Aちゃんがひとりでブーブーと車を動かしていたとき、近くにいたスタッフがそっと声をかけました。

「くるま、ブーンだね」
「お、カーブしたよ、グイーン!」

Aちゃんは何も言いません。でも、そのあと、車をまたブーンと走らせながら、小さな声で「ブー・・・」とつぶやいたのです。この「ブー」が、Aちゃんの“はじめての発語”でした。

 

 

言語聴覚士(ST)は、どんなふうに関わるの?

放課後等デイサービスなどの療育の場では、言語聴覚士が子どもと遊ぶ中で「ことばを育てる関わり方」を見つけていきます。たとえば・・・

 

ex.

・保護者へのアドバイス
 ⇒どんな声かけが合うか?

・スタッフへの支援
 ⇒遊びの中でことばを引き出す工夫

・子どものペースを尊重した「ことば」の環境づくり

 

トイトークのような、親御さんが負担になりにくい方法も、保護者と一緒に実践できるようにお伝えしていきます。

トイトークは「子どもの興味に合わせて、短くやさしい言葉を添える」関わり方です。教えるよりも、“ことばのお手本”を見せることが大切。子どもが自分から話してみたくなるような環境をつくることが、発語の第一歩。

ことばの出にくさで悩む子どもや保護者にとって、トイトークは小さな一歩が、大きな変化につながる可能性のあるアプローチです。

「難しく考えず、今日から少しだけ、やさしい言葉を添えてみる」を親御さんに伝えてみましょう。

 

 

まとめとして

ことばの発達に不安があると、「なんでうちの子だけ…」「もっとちゃんと育てなきゃ」と、自分を責めてしまうことがあるかもしれません。

でも、ことばは「しつけ」や「努力」でコントロールできるものではありません。安心できる環境の中で、「話してみようかな」と感じたときに、初めて芽が出るものなんです。

さらに、「話したい」という気持ちと共に、単語や物事を「理解」していくことが欠かせません。

トイトークは、「ちゃんと話させなきゃ」というプレッシャーを手放して、「今のこの子にぴったりの、やさしい関わり方」を教えてくれる支援法です。

毎日すべてできなくても大丈夫。今日から、ちょっとだけ。お子さんが遊んでいるときに、そっとやさしい言葉を添えてみてください。それが、ことばのはじまりになるかもしれません。

よかったら参考にしてみてくださいね。