言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

障害児の食事は食べる直前にも加工が必要?【手元加工(再調理・二次調理)のはなし】

食べる前のちょっとした加工は必要か?

障害児が通う施設では子どもたちと一緒に食事をする機会がたくさんあります。

特に放課後等デイサービスは多いです。

お弁当、おやつ、調理活動など。

食べるものは様々です。

食事の目的は「栄養補給」と「楽しく食べる」こと。

しかし、子どもによってはうまく食べられないこともあります。

そういうときには介助をしたり食材を加工したりします。

加工?

食べやすい状態に調理されているんじゃないの?

そう思われるかもしれません。

実際は食べる直前に再加工することも多いのです。

今回は、この食材の加工について説明します。

 

 

 

加工って何?

 

食事を作るときには子どもの「食べる力」を考慮するはずです。

硬さや大きさなどを整えるのです。

しかし、「いろんなものを食べてほしい」「大人と同じものを食べて欲しい」という思いからか、子どもに無理をさせてしまうことがあります。

その子の食べる力では処理し切れないものを出してしまうのです。

硬かったり、細かく切り過ぎて逆にムセやすくなっていたり・・・。

そういうとき、子どもの口に食物が入る前に支援者が手を加えます。

それを「手元加工」と呼びます。

それ以外にも下記のような言い方をすることもあります。

手元調理

二次加工

二次調理

再加工

・再調理

 

 

加工の種類

手元で加工する目的というか種類は大きく分けて3種類あります。

 

1)カットする

大きさを整えることです。

ここで言うカットは、細かくするだけではなく「隠し包丁」のように肉の筋や野菜の繊維を切って食べやすくするための加工も含まれます。


2)ベタベタ具合を調整する

とろみ剤などを使ってベタベタ具合を調整します。

口や喉に張り付く原因をなくすのです。

ベタベタ具合をなくしたり、調整することで、食物が喉の奥へ進むスピードを緩やかに(もしくは速く)します。


3)まとまりをよくする

口の中でばらけてしまうとムセます。

バラけないようにするためにマヨネーズでまとまりをよくすることなどです。

 

食べやすくするためのポイント!

・大きさ

・ベタベタ具合

・まとまりのよさ

 

 

加工するときの注意点

子どもに合わせて加工することが大切なのは分かりました。

では実際にはどうすればよいのでしょうか?

 

小さくカットすれば食べやすくなるの?

「とにかく小さくカットすれば大丈夫」

よく言われることですが、それは正しくありません。

 

小さく切り過ぎるとかえって感知しにくくなるのです。

細かくされたものが口に入っても「食べていること」に気づかなくなる子もいるので注意が必要です。

 

さらに、細かくするということは口の中でバラバラになりやすいということです。

細かい食物がバラバラ口の中に入ってくると、子どもはどうしてよいのか分からなくなります。

私たちだって、いきなり口のなかに細かく砕いたセンベイや肉を入れられれば困るはずです。

細かくしたくなる気持ちは分かります。

でも危ないんです。

 

それよりも、ちょっと気をつけてあげるだけでずっと食べやすくなります。

野菜だったら軟らかく煮直してあげる

肉だったらフォークでほぐしてあげる

 

 

ベタベタしたものは食べにくい

「ベタベタした感じ」を表すことばには、「付着性」「粘度」などがあります。

 

「粘度」とは、どのくらいベタベタしているのか?

「付着性」とは、くっつきやすさ。

粘度が高くなれば(ベタベタ具合が強くなれば)、付着性(引っ付き具合)も強くなります。

正直言って、違いが分かりづらいです。

加工するくらいならば上記の捉え方で大丈夫です。

 

ex. お粥

ものを食べるときには、舌を上手に動かさないと喉の奥へ送ることができません。

ネバネバしていて処理しづらいと、喉の中で張り付いてしまうかもしれません。

ベタベタをなくすためにゲル化剤という酵素を使います。

これを使うとお粥がプリン状になるのです(ex.スベラカーゼ)。

 

www.hana-mode.com

 

ex. 水分

水分は、液体なので口に入ったら速い速度で喉の奥へと進んでいきます。

人は一度口の中で液体をキープしておきます。

気道に食べ物や飲み物が流れ込むのを防ぐためです。

一度ためておいて飲み込む準備をします。

口の中で保持するのが苦手な子は、水分がダラダラと喉(気道)に入ってしまいます。

それを防ぐために水分に「とろみ」をつけます。

これによって水分の進む速度がゆっくりになります

気道をふさぐ準備もしやすくなるのでムセを減らすことができます。

 
 
もっとしっかりと知りたい方のために言うと・・・

粘度とは

流体、たとえば水、油、空気などは、文字通り流れる物質です。形状変化の速さや回転が止まるまでの時間の違いを引き起こす性質を粘性と呼び、この大きさを表わす値を粘度といいます。したがって粘度とは「流れやすさを表わす値」と言うことができます。

TACMINA
https://www.tacmina.co.jp/library/coretech/288/

  

付着性とは

粉体を構成している個々の粒子間には、相互に及ぼし合う力が働いています。この性質を付着性と言います。この付着性が高いと、装置の壁に粉体がくっついてしまいます。

アルファ株式会社
https://alpha-kabu.com/solution/hunntaikouza/hutyakusei

 

 

子どもによって違うんでしょ?

そうです。それが難しいところだと思います。

放課後等デイサービスでは、摂食指導や学校給食などの情報が入って来ているはずです。

 

例えば、

〇cm × 〇cmの大きさにカットしてという指示が出されている子がいます。

基本的には、これを守れば大丈夫です。注意すべき点は下記の通りです。

 

・歯の上に乗せる(もしくは前歯で噛みちぎらせる)

・スティック状のものは介助者が持ち続ける(急に手を離さない)

 

 

何だかんだで難しいのが果物

果物=軟らかくて食べやすい、というイメージがあると思います。

しかし、実際には逆。果物の方が難しいものが多いです。

・リンゴや梨は噛みやすいけれど、その後、バラバラとなり、まとまりづらい

・ミカンは、袋の中に液体がたくさんあるので、噛むとブシュッとなってムセやすい

 

 

カットの大きさってどのくらい?

施設によって異なっているのが現状です。

下記は目安です。

 

① 一口大

 固形:1~2cm角
 麺 :3cm


② 粗きざみ

 固形:1cm角
 麺 :3cm


③ きざみ

 固形:0.5cm角
 麺 :1.5cm


④ 極きざみ(みじん)

 固形:0.5cm角
 麺 :0.2cm

カットでも食べるのが難しい子には「まとまり食」「ペースト食」「ミキサー食」というようなフルーチェやヨーグルトのような食形態を提供します。

 

 

安全に楽しく食べて欲しい

そんなことばっかり言ってたら食べられるものがないじゃない

そう思うかもしれません。

私もそう思います。

だから子どもの食事支援は難しいのです。

しかし、食べることは楽しみのひとつです。

たのしく安全に食べるお手伝いをしてあげたいです。

子どもに合った食形態を提供して、少しでも多くの種類のものを楽しんでほしいと思っています。

 

 

まとめとして

今回は障害児の食事支援について説明しました。

調理で出されたものでも、食べる直前に介助者が「加工」しなければならない場合があるのです。

食べやすく、安全に。

よかったら参考にしてみてくださいね。

 

手元加工・再加工のポイント!

1)硬さ・大きさの調節

⇒ 隠し包丁など、食材をカットする。ただ細かくするのはNG!


2)ベタベタ具合を調整する(付着性)

⇒ 食物が喉の奥へ進むスピードは、どのくらいにしたらよいのか?
  とろみ剤などを使ってベタベタ具合を調整。


3)まとまりをよくする(凝集性)

⇒ 私たちは、食物は一塊にして飲み込む。塊にしづらいものはムセやすくなる。
  バラけないようにするために、マヨネーズでまとまりをよくする。

 

 

 

 

 参考資料


発達期障害に対する発達期嚥下調整食分類の統一にむけて
―特別支援学校,入所施設,通所施設の実態調査からの課題―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/20/2/20_70/_pdf


都立北療育医療センター

再加工食の形態と作り方
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kitaryou/zaitakusien/ninkimenu/saikakou.html