言語聴覚士は食事場面のどこを見ているのか?
放課後等デイサービスでの「食事作り」で求められるもの②
放課後等デイサービスの活動として「食事作り」を行っているところも多くあります。
昼食や夕食、おやつなどを自分たちで作って、実際に食べる。分かりやすい活動なので、子どもにも大人にも人気があります。
そんな活動に「言語聴覚士(ST)として参加してほしい」と言われることがあります。
新人言語聴覚士が緊張する瞬間です。ベテラン言語聴覚士のように、スタッフのみんなが納得できるような助言はできない。しかし、何か言わないといけない。
困る。
そんなときに、何を考えて、何を見ていけばよいのか?という話しです、。
放課後等デイサービスでの食事作り
前回は、食事づくりで、どのようにスタッフに助言を行っていくか?ということを考えていきました。
「あの子は食べるのが上手」「ちゃんと噛んでいる」だから問題はない
保育のスタッフからこのような引継ぎを受けることがあります。
確かに口は動いている。食物が口に残ることもない。
はたして、それは「食べられている」という指標になるのでしょうか?
言語聴覚士は食事場面のどこを見ているのか?
私が食事の場面でみているのは、「姿勢」「環境」「食事(食べ方・食形態)」です。
「姿勢」を一番に書いたのは、まずは姿勢をつくらないと食事を始められないからです。そのくらい大切。
①安定した姿勢が取れているか?
言語聴覚士が姿勢をみるの?
と言われそうです。確かに、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の先生のように細かくみることはできません。
しかし、言語聴覚士でも、食事するためには好ましくないという姿勢をみつけることはできます。そこで大切になってくるのが、
肢体不自由の子は、食事のときの姿勢は、
・車椅子
・座位保持椅子
・床で抱っこ介助
が多いと思います。
上記のどの姿勢でも緊張の強弱が姿勢に影響を与えていないかチェックを欠かさないことが大切です。
過度に筋緊張が低いと椅子に座っても自分の身体を支えることはできません。
逆に、筋緊張が強過ぎると、全身をのけぞる姿勢になっているか、身体をギュッと内側に硬く丸くなってしまいます。
これらの“正しくない”姿勢は注意が必要です。姿勢が食べる機能に悪い影響を与えている可能性があるのです。
緊張が過度に低い場合は、顔が下を向いているので、食物を口に入れても下に落ちてしまいます。
のけ反っている場合、頭を車椅子のヘッドレストに押し付ける姿勢になりがちです。その際、首にも力が入り、うまく飲み込めないことがあります。
身体を固く丸めている場合は、そもそも口が開かなかったり、口に食物が入ったとしても喉の奥へ送れないということも考えられます。
近くに、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の先生に相談するのが確実です。
その場に自分しかいないのであれば様子をみつつ、
・首に力が入らないように
・身体(体幹)がまっすぐになるように
・両足がフットレストや床に着くように
というような安定した姿勢をつくることが、安定した食事にもつながります。
もちろん、すべての子どもが上記のような姿勢がつくれるとはいえません。主治医から姿勢の指示が出ていないのであれば、学校での食事の姿勢をベースにします。そういった情報もないのであればまっすぐと余計な力が入らない姿勢をつくるのが良いと思います。
②外からの刺激が影響していないか?
外からの刺激というのは、
・周囲から聞こえてくる音
・触れられると振り返る等の感覚的なもの
・介助者からの声かけ
・介助の仕方(触り方、動かし方)
などのことを指します。
食事中、雑音が全くないということはありません。人の声や物音、足音などが聞こえてきます。介助者は、介助に夢中になっていて意外と音が耳に入っていないことが多いです。子どもは、周囲から聞こえてくる声や音に注意が向き、食物をのどに詰まらせることもあります。特に、音楽などの“楽しい音”には興味を向けやすい。
そのため、食事中に音楽をかけたり、TVをつけたりするのはNGです。「楽しい雰囲気で食べてもらいたい」と思っているのならば、会話で楽しく食事を進めていきましょう。
「この野菜、美味しいね」
「次は何を食べようか?」
食事中に話す機会は多いはずです。そのときに気をつけたいのが声をかけるタイミングです。飲み込もうとした瞬間に話しかけたり、身体を動かしたり。子どもは驚いて、ムセたり喉に詰まらせたりすることがあります。いま目の前にいる子は何をしているのか?子どもの様子はしっかりとみていきます。
③食形態はどうすればいいか?
「食べづらさ」がある子には、食べる力に応じて食物を加工する必要があります。
一般的に学校給食では、
・「初期食」
⇒ ヨーグルトのようなペースト状のもの
・「中期食」
⇒ 絹ごし豆腐くらいの硬さのもの
・「後期食」
⇒ バナナくらいの硬さのもの
・「普通食」
⇒ 私たちが食べているのと同じもの
と、食材の硬さや質を変えて提供しています。
放課後等デイサービスで食事を提供するときにも食形態には注意します。
特に、肢体不自由や進行性疾患の子がいる場合、適当に対応してはいけません。
初期食であればミキサーやフードプロセッサーで食材を潰すなどの対応が取れます。
中期食と後期食や普通食を同時に調理することは難しいと思います。火を通す時間を変えて対応していきます。
一番のポイントが「硬さ」です。
食材も、何でもかんでも細かく切ってしまうのではなく、まずは大きく切っておく。大きくつくっておけば、子どもに合わせて食べる直前に切ることができます。
食事づくりで、どのくらいの硬さのものを提供すればよいのか迷うと思います。学校では、どの食形態のものを食べているのか?学校給食をベースに考えていくと分かりやすいです。
食形態を下げる代わりに
学校給食の食形態をみると、自分たちが思っている以上に軟らかいものを食べていることが分かります。
「この子はもっと硬いものを食べられるはず!」
と考えるスタッフは意外と多いです。だからといって、その場の思いつきで硬いものにチャレンジするのは危険です。リスクしかありません。
「軟らかいものばかりで、なんだかかわいそう」と思う人もいるかもしれません。でしたら、硬さ以外のところでやってあげられることはあります。
①彩りを良くする
食材の見栄えもそうですが、食器類にも気を配りたいです。食事を全介助で食べる子が、皿を意識することはあまりないのかもしれません。
しかし、白い皿にお粥では味気ない。実験ではないのだから、見た目で楽しめるようにすることも大切なのだと思います。料亭のように皿を何種類も使えとは言いません。丁寧な盛りつけを。
白い皿に白い食材。
②温度
「できたてを食べさせてあげたい」
当然の気持ちだと思います。しかし、熱いまま提供すれば食べにくいですし、熱さに驚くこともあるかもしれません。
逆に、冷た過ぎても驚いて、拒否を示す子がいます。ほぼ常温だと食材に気づきにくくなる子がいるかもしれません。
食材の適切な温度は、子どもによって異なります。どんな温度が適切か?様子をみつつ考えていきたいです。
③味
スタッフ間で「この子は○○が好き・嫌い」という話題が出ることがあると思います。子どもから「○○は嫌い!」と言ってくれる子はある程度の判断ができます。
しかし、自分で喋れない子の場合、自分の嗜好を相手に伝えることができません。支援者は、子どもの様子をみて判断していかなければいけません。
子ども:食べたときに、たまたま渋い顔をした。別に味は嫌いではない。
大人 :「この子は、○○が嫌いなんだ!」
というケースがけっこうあります。大人の思い込みが強く出るところです。
逆に、特定のものを好むというケースもあります。
「この子はカボチャをよく食べる。きっと好きなんだわ。」
これは判断に迷うと思います。本当に好きなのかもしれないし、食べやすいからよく食べている、ということも考えられるからです。障害のある子にも私たちと同じように味の嗜好があります。味の好みは、一度の反応だけで判断しないでください。
まとめ
言語聴覚士が食事場面でみているのは
・「姿勢」・・・安定した姿勢が取れているか?
・「環境」・・・外からの刺激が影響していないか?
・「食事(食べ方・食形態)」・・・食形態はどうすればいいか?
放課後等デイサービスには、食べる機能をみるための検査(VF/嚥下造影検査、VE/嚥下内視鏡検査)はありません。
みる人の力量や経験によって多少、評価が変わることもあります。
何度か同じ食材を食べる様子をみて、できれば複数の人の目で判断するのが理想です。
新人の言語聴覚士が、放課後等デイサービスの食事づくりに参加するときには、まずは上記の3つのポイントをおさえておくとよいと思います。
経験を重ねていくことで知識はついてきます。
もちろん、自分で勉強をすることも大切です。
しかし、それ以上に、子どものことをしっかりとみていくことで気づくこともたくさんあるはずです。
楽しい雰囲気で食事を進めていくためにも、放課後等デイサービスの食事づくりでは、保育スタッフや看護師と協力しながら支援を行うことも忘れてはいけません。