言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

障害児を支援するための“視点”とは?【初心者必見】

支援においていちばん大切なのは「子どもをみる力」

「なんであの子はあの活動だけ嫌がるんだろう?」
「どうして昨日はできたことが、今日はできないの?」

放課後等デイサービスで働いていると、そんな疑問に出会うことがあります。
わたしは言語聴覚士として10年以上、障害のある子どもたちの支援に関わってきました。その中で強く感じるのは「何となく子どもをみてはいけない」ということです。

何となく子どもを見ていても、その子の本質や発達というような「いま」の様子を知ることができません。目に見える部分に囚われてしまい、偏った評価になってしまうのです。

――支援においていちばん大切なのは、“子どもをみる力”だということです。

今回は、障害を持つ子を支援するとき、どのような視点が必要なのか?というポイントを紹介していきます。

 

 

支援の視点とは子どもの見え方

「視点」とは、簡単にいえば、物事をどの立場・角度から見るかという“心のカメラの位置”のことです。たとえば──

 

・医師の視点から見れば、「身体の状態」
・教員の視点から見れば、「学び方」
・保護者の視点から見れば、「生活のしやすさ」
・支援員の視点から見れば、「関わりやすさ」

が気になる対象になります。つまり、“子どもを見る位置”が違えば、“見えてくること”も違うのです。

 

 

支援で大切な「視点」の種類

 

視点とは、様々な角度から対象となるものを「みる」ことです。支援現場で特に意識すべき視点には、次のようなものがあります。

 

① 【発達の視点】
② 【生活の視点】
③ 【身体・感覚の視点】
④ 【心理・情緒の視点】
⑤ 【社会・人間関係の視点】

 

 

① 【発達の視点】

 

その子が「いま、どの段階にいるのか」を見る視点です。ただ「できる・できない」で判断したりしません。

どの発達段階の途中?
どんな支えがあれば次に進める?

を考えることが大切です。

 

ex.
・スプーンが持てない → 「握る動きは出てきた」
・言葉が出ない → 「声や表情で伝えようとしている

発達の“芽”を見つける目ともいえます。

 

 

② 【生活の視点】

 

家庭・学校・地域など、日常生活の中でどう過ごしているかを見る視点です。支援中にできても、生活の中で続かなければ意味がありません。「家庭でもできる形」「本人が続けられる形」を意識することが重要です。

 

ex.

・施設では食べられるけど、家では食べられない
・学校では話せるけど、放デイでは黙ってしまう

→ 環境や人によって変わる“生活の現実”を見ることが大切。

 

 

③ 【身体・感覚の視点】

 

肢体不自由児や重症心身障害児では特に大切。姿勢・筋緊張・呼吸・視線・触覚などの身体的基盤を見る目を持つこと。

 

ex.

・「注意が続かない」→ 実は座位保持がつらい
・「反応がない」→ 視覚や聴覚の入力が届いていない

行動の背景には、身体的な要因が隠れていることが多いのです。

 

 

④ 【心理・情緒の視点】

 

「安心しているか」「信頼関係があるか」など、心の状態を見取る視点です。行動の多くは“感情の表現”でもあります。叩く・叫ぶ・泣くなども、「困っている」「伝えたい」のサインかもしれません。

 

ex.

・急に泣いた → 驚いた、音が怖かった
・活動を嫌がる → 経験が少なくて不安

「行動=意思表示」として受け取る力が求められます。

 

 

⑤ 【社会・人間関係の視点】

 

友だち、家族、支援者との“つながり方”を見る視点。「一人で何ができるか」よりも、

“人とどう関わると力を発揮できるか”
を見ることが大切です。

 

ex.

・支援者が手を添えると集中できる
・友だちのまねをして笑顔になる

障害児支援は「社会性を育てる」ことでもあります。

 

 

⑥ 【本人の視点】(最も大切)

 

「この子は、どう感じているだろう?」という当事者の目線です。

 

・嫌なのか、怖いのか
・楽しいのか、安心しているのか
・どうしてほしいのか

 

この視点を持てるかどうかで、支援の質は大きく変わります。

 

 

 

複数の視点を持とう!

複数の視点をもつと、次のようなことが起こります。

 

狭い視点 広い視点
「落ち着きがない子」 「環境や姿勢が合っていないのかも」
「話せない子」 「話そうとする意欲がある、方法を変えれば伝わるかも」
「親が過保護」 「家庭で安心できるよう支えているのかも」

 

つまり、視点を増やすこと=理解を深めることなのです。

 

 

“答え”よりも大切なのは「視点」

 

障害児支援の現場では、言語聴覚士も、支援員も、保育士も、それぞれが“専門職”です。職種の違いはあっても、みんなが自分なりの専門性を持っていなければ、子どもを支援するチームとして機能しません。

もし「障害のある子ども」について学ぶ機会が少なかったのなら、研修や書籍、先輩の支援の観察などを通して、少しずつ自分の“支援の軸”を育てていくことが必要です。

なぜなら、専門性がないということは、すなわち「子どもをみる視点がない」ということだからです。

 

 

「楽しそうでした」で終わらせない観察を

 

視点を持たないまま子どもを見てしまうと、「楽しそうでした」「笑っていました」――そんな感想で終わってしまうことがあります。

もちろん、楽しむことは大事です。
けれど、支援者として大切なのは「なぜ楽しかったのか」「どんな場面で笑ったのか」を考えること。

 

ex.

「あの遊びの中で特定の工程だけを繰り返していた」
「初めての刺激を嫌がったけれど、パターン化すると受け入れられた」


――そんな小さな気づきが、子どもの理解につながります。それが“視点を持ってみる”ということなのです。

 

 

わたしが大切にしている3つの視点

 

では、支援の初心者がまず持っておきたい視点とは何か?わたしが現場で意識しているのは、次の3つです。

 

 

① 感覚をベースに考える

 

子どもは、見たり触れたり、聞いたりする「感覚」を使って世界を理解しています。そのため、「どんな感覚が好きか」「どんな刺激が苦手か」を知ることが第一歩です。

 

・刺激の“種類”(音、光、触感など)
・刺激の“量”(強さや時間)
・刺激の“タイミング”(いつ入るか)

 

これらを丁寧に観察していくと、行動の理由が少しずつ見えてきます。

 

 

② 子どもの“原則(ルール)”を知る

 

子どもたちは、それぞれ自分の中に“原則”を持っています。
ここでいうルールとは「こうすれば安心」「この順番じゃないと落ち着かない」といった、その子の“生理的な安全を守る仕組み”のようなもの。たとえば――

 

ex.

・目より耳の刺激を好む
・リズムがあると落ち着く
・「やらされている」と感じると拒否する

 



支援者がその子の“ルール”を知れば、関わり方はずっとスムーズになります。

 

 

③ ノリで支援を行なっていませんか?

 

「イエーイ!」と盛り上がる活動も楽しいものです。
しかし、勢いだけで進めてしまうと、子どもが“何をしているか理解できないまま終わる”ことがあります。

以前、わたしが子どもの反応を見ながら、ゆっくりと関わっていたときのこと。
施設の責任者から「盛り上がっていないね」と皮肉を言われたことがありました。

その人は“ノリで支援するタイプ”で、子どもが興奮しすぎて混乱しても笑って済ませていました。

一見楽しそうでも、それは支援ではありません。大切なのは、「子どもが理解できるテンポで関わること」。支援は“盛り上げる”ことより、“伝わること”を目指すべきなのです。

 

 

「専門性」とは“子どもを見る力”

 

わたしが思う専門性とは、「子どものことを多面的に見る力」です。
それは職種ごとに少しずつ違っていて、言語聴覚士なら“ことばや感覚”、支援員なら“生活や関係性”、保育士なら“遊びや情緒”――それぞれの視点があります。

大事なのは、その視点を“自覚する”こと

支援員だから、専門職ではない――そんなことはありません。自分なりの“専門性”を育てる努力を続けることが、子どもたちの幸せにつながります。

 

 

現場で求められるのは、「支援をつくる力」

 

障害児支援の現場には、「正解」はありません。
だからこそ、支援者が自分の頭で考え、子どもの反応を見ながら“支援をつくる力”が求められます。

「この子はなぜ、この遊びだけ集中できるんだろう?」
「この音が鳴ると顔をしかめるのは、音の高さ?タイミング?」

そうした小さな気づきを積み重ねることが、最も実践的な学びです。
机上の理論よりも、目の前の子どもが教えてくれることのほうが、ずっと多いのです。

 

 

「専門性を活かしてください」と言われた日から

 

どこの放課後等デイサービスでも、言語聴覚士などのリハビリ職が現場に入ると、よく言われます。
「あなたの専門性を活かして活動をしてほしいんです」

その言葉の裏には、「どうすればいいのかわからない」という支援員さんの戸惑いがあることが多いです。

支援員の方々は、子どもに対してどう関わればいいのか悩みながら日々頑張っています。だからこそ、「専門職なら答えを持っているはず」と期待される。

しかし、多くの人が求めるのは「即効性のあるHOW TO」――つまり、“すぐに効く方法”です。
たとえば「この子にはこの遊びがいい」「この順番でやれば集中する」といった、すぐ使えるテクニック。

けれど、実際には、即効性のある支援方法など存在しないのではないでしょうか。

 

 

 

まとめとして

あなたは、どんな“視点”で子どもを見ていますか?

障害児支援の現場では、“元気さ”や“明るさ”が求められることが多いです。
しかし、わたしは思います。支援の本質は「どれだけ盛り上がったか」ではなく、「どれだけ伝わったか」。

 

その子がどんな感覚を大切にしているか。
どんな関わり方で安心できるか。
どんな刺激を避けたいのか。

 

それを観察し、理解し、寄り添う力こそが“専門性”です。

支援はテンションではなく、観察から生まれます。派手さはなくても、子どもの小さなサインを見逃さない支援者こそ、本当の意味で「プロフェッショナル」なのだと思います。

「盛り上げる支援」より「伝わる支援」を。

 

よかったら参考にしてみてくださいね。