言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

どうやって小児施設で摂食指導を行うのか?実例とポイントを紹介します

放課後等デイサービスで摂食指導はできるのか?

摂食指導とは、歯科医師や言語聴覚士(ST)などから食事の指導を受けることです。

安全に食べられるものや方法について助言をもらいます。病院では行っているところも多いです。

今回は、放課後等デイサービスで行われている歯科の医師による摂食指導を例に、説明していきます。

 

 

 

 

 

 

1)歯科医師による摂食指導

 現在、放課後等デイサービスで歯科医師が摂食指導に入っている事業所は少ないと思います。そのかわりに、言語聴覚士(ST)や作業療法(OT)などが指導にあたっているケースはあるかもしれません。

歯科医師は、歯の治療だけではなく障害児分野の「食べること」に関する問題にも関わっています。

 

 

1 摂食指導とは

摂食指導とは、実際に子どもの食べる様子をみて食事に関する指導や助言を行うことです。「訓練やお勉強」だととらえがちですが、子どもに対する指導だけではなく、支援者に対する指導でもあります(指導というか助言ですが)。目的としては、

 

食べる力を伸ばす

子どもの「食べる機能」の発達を促すことです。促しまで行かなくても、誤った介助のやり方による、機能の低下や誤学習、悪癖、悪習慣を防ぐことはできると思います。特に悪習癖は、やり方によっては、防ぐことができるかもしれないものです。

 

しっかりと栄養が取れるようにする

食べ過ぎによる肥満の話はよく耳にすると思います。しかし、意外と抜け落ちがちな、栄養が取れないという問題があります。うまく食べられないから、偏食が激しいから、食べ物や介助が受け入れられないために起こります。安全にしっかりと食べられるような食事や介助のの提供を伝えることができます。

 

事故が起こるリスクを下げる

近年、放課後等デイサービスの事業所数が増えてきました。事業所数が増えると質の差が大きくなってきます。それを行政が調べていくと、今まで隠れていた「食事に関する事故」も明るみに出てきます。事故を防ぐためには、それぞれの放課後等デイサービスが対策を練る必要があります。それが、安全に食べるための姿勢づくり、食事介助方法を学ぶということなのです。さらに付け足すと、地域の歯科医師の先生に、子どもの顔を知ってもらうことも大きなメリットとなります。

 

 

2 どんなことをみてもらえるのか?

歯科の先生たちが、実際に子どもが食べている様子をみて、いま現在の問題点を洗い出してくれます。

・食べる機能の発達段階はどのあたりか?

・正常(と呼ばれる)な食べ方との差異

・介助方法

・食形態(提供する食べ物の硬さや大きさ)

 

 

3 対象は誰?

・食事介助で支援者が不安を感じている子

・過去に食事の事故などを起こしている子

・不思議な食べ方をしている子

※肢体不自由だけでなく、自閉症やダウン症など、どんな障害・疾患の子も対象となります。

 

4 どんな流れ?

最近の様子

予め、子どもの普段の様子を歯科医師に伝えておきます。食事に関することはもちろんですが、それ以外の体調や情緒面などの情報を提供しておくことで、食事に関する問題の原因が「機能の低下」なのか、それとも「それ以外」のものからくるのかが判断しやすくなります。

また、支援者が「どんなところに不安を抱えているのか?」を伝えることも大切なことです。

 

当日(グループ分け)

子どもの人数が多いときには、2~3グループに分けてみてもらうことがあります。基本的には、子どもが食事に集中できるようなグループ分けにしますが、あえて相性の悪い子どもを同じグループにして、その様子も歯科医師にみてもらうこともあります。また、一番見て欲しい子と食事に問題がない(なさそう)な子を組み合わせて、先生にじっくりとその子をみてもらえるように組むこともあります。

 

当日(時間配分)

摂食指導の時間が90分なのであれば、45分・45分と半分にすることが多いです。もしくは、一番みて欲しい子のグループを60分にして、それほど問題がない(なさそうな)子のグループを30分にすることもあります。

 

当日(指導中)

普段通り、食べている様子(介助を行っている様子)を先生にみてもらいます。食形態(食べ物の硬さや大きさなど)の決定に不安があるときには、食べる前に先生に助言を求めてよいと思います。

 

後日

当日、見た内容をふまえて先生から「摂食指導報告書」を頂きます。それを支援者間で情報共有して、今後の支援に活かしていきます。

 

 

2)いつまで続くのか?続けていいの?

「STがいる施設だから、歯科医師と対等にうまくやっていけるんでしょ?」

そう思う人もいるかもしれません。

そもそも対等ではありません。

確かに、お互いに臨床的な知識がある分、意志疎通は取りやすいです。

立場を考えると、歯科医師とSTは、指示をする側とされる側です。しかし、STも自分の所見などの意見ははっきりと伝えています。意見のすり合わせ・再確認が大切です。

それは、歯科医師―保育スタッフ、ST-保育スタッフ間でも同じことが言えます。日々の保育で食事の見守りや介助を行うのは保育スタッフです。“子どものこと”をよく知っているのは保育スタッフの方です。それで意固地になることはありませんが、誇りに思ってよいことだと思います。それは忘れないでほしいことです。

 

 

STの役割は?

STの役割としては、

・普段の子どもたちの様子(摂食嚥下)を押さえておく

・保育スタッフからの疑問をあつめる

それを歯科医師に相談する

対応策を保育スタッフへ伝える

 

歯科医師から間接訓練等のオーダーが出ることもあります。その際には、STが中心となって訓練を行い、また、訓練の実施者はどこまで広げるのか?等を考えながら進めていきます。(※基本的に言語聴覚士(ST)が直接訓練・間接訓練を実施するためには、医師もしくは歯科医師の指示が必要です!)

 

 

期間

基本的には、その子が「安全に食べられるまで」もしくは「事業所に通っている間」です。歯科の先生が「もう大丈夫」と判断すれば指導終了となると思います。なかなか「大丈夫」とはならないのが現状ですが・・・。保護者との絡み合いも難しい点で、保護者が「(摂食指導)はもう必要ない」と判断するケースは考えらえます。

 

頻度

子どもや歯科医師によってもその期間や頻度は異なります。摂食指導も、「毎月」行うのか、「年に数回」なのかは、歯科の先生との相談になります。

 

その他

摂食指導をしてくれる先生が福祉園等の成人の施設に出入りしている可能性はあります。卒後、その施設に通う子であれば摂食指導を継続することもできます。

 

 

誰に摂食指導をやってもらえばいいのか?

 

前回は、放課後等デイサービスで摂食指導を行うことのメリットを話しました。今回は、誰に指導してもらうのか?という話しです。

理想を言えば、歯科医師です。それも、普段から障害児者をみている先生です。「医師」という先生に見てもらえれば、やはり安心感が違います。

 

 

どうやって知り合いになればいいの?

 

① 研修で知り合った歯科医師に頼んでみる

学齢期を対象とした摂食嚥下の研修やセミナー、勉強会があります。そこで知り合いになった歯科医師の先生に頼んでみることも手です。講師の先生だけではなく、運営のためにその場に来ていた先生もいるはずです。一緒に研修を受けた人の中にも歯科医師の先生はいると思います。

 
② 口コミで頼んでみる

専門職が働き先を見つける際、求人誌や求人広告を使うことはあまりありません。では、どのように探しているのか、というと、一番多いのは口コミです。同業者や違い職種の人から紹介してもらうケースです。これを利用して、言語聴覚士(ST)などの人に紹介してもらうのも手です。

  

③ 求人広告を出してみる

求人サイトや求人誌に掲載してみる。これは現実的ではありません。事業所のホームページやブログに載せた方がまだ希望があります。

 

 ④ 自分の主治医に頼んでみる

私たちが通っている歯科の先生が、偶然、障害児者もみているのであれば、その先生にお願いしてみるのも手です。しかし、そのような偶然はなかなかありません。

 

  

歯科医師なら誰でもやってくれるの?

 

歯科の先生にも自分の分野があります。先程、書きましたが、普段から障害児者をみている先生ならば引き受けてくれる可能性があります。ただでさえ忙しい先生方が合間をぬって事業所まで来てくれます。

場所は大切です。あまり遠くても失礼です。歯科医院がある市区町村内にある事業所なら、来てくれやすいです。

歯科医師の中にも「放課後等デイサービスで摂食指導をやりたい!」と思ってくれている先生はいます。そういう先生と巡り合うことで、食事に関する安全面も高まり、今まで以上に保育にもを力を入れられるようになるのではないでしょうか。

 

 

 

3)各職種の違い


摂食には様々な職種が関わっています。

それら専門的な知識を持つ職種から「正しい食べ方」「介助の仕方」を学ぶことによって、安全に楽しく食べられるよう支援を行うための「心構え」を得られると思います。

いざとなったら相談できる相手がいるということは心強いです。

放課後等デイサービスでの「摂食指導」に関わるのは下記の職種が多いです。

基本的に各職種間で連携を取って動いています。

 

重なっている領域がある

重なっている領域

 重なる部分が多いです。上記は、明確に決まった分け方はありません。私の印象です。 人によっては全て得意な方もいらっしゃるので、なんとも言えない部分はあるのですが・・・。

 

職種ごとの得意な分野

各職種の役割

 

・ざっくりというと「歯科」と「ST」が分野的には似ていて、「PT」と「OT」が似ている感じです。

「PT」よりも「OT」の方が食事分野に関わることが多いです。

・上記の職種以外にも、栄養士、看護師、歯科衛生士等もチームに入ることがあります。放課後等デイサービスでは少ないと思われます。

・看護師が参加する場合はあります。看護師は「予防」の観点が豊富です。医学的な知識や手技も持っている頼もしい存在です。また、放課後等デイサービスで医療的ケアを行うのは主に看護師です。

 

 

 

4)どんなことを聞けばよいのか?


下記は、実際に私が所属している施設の摂食指導で出た質問です。

 

① 子どもに関すること

⇒どのような食べ方をしているのか?どのような発達段階なのか?

・よくムセるようになった。何が原因か?

・食具はこのスプーンでよいのか?

・学校で箸を使う練習を始めた。まだ早い気がするけれどどうなのか?

・手づかみ食べが気になる。どうすればよい?

・常に丸飲みする・・・

・どのくらいの硬さのものが適切?大きさは?

・最近、筋力低下が気になる。食べる機能も落ちている?

・食事に時間がかかりすぎる。原因がある?

・食事があっというまに終わる。丸飲み?

 

支援者に関すること

⇒食事介助、支援の方法、提供する食物やメニューの設定の仕方

・どのような食事介助が適切か?

・介助は正面から?横から?後ろから?

・声かけってしてもいいの?

・基本的に食事は見守りだけれど、どのくらい手を出していいものなの?

・食事の加工って刻めばOK?

 

環境調整に関すること

⇒食べるための環境づくり

・席順はどうすればよい?

・机や椅子の高さは?

・食事は楽しい時間にしたいから音楽を流してもよい?

 

摂食指導では、どんなことを聞いても大丈夫です。どの先生も「そんなことも知らないの?」とは思いません。「なぜそのやり方がよいのですか?」と聞いてみてください。専門職が行うアプローチは一定の根拠や考えに基づいて行っています。きっとしっかり教えてくれるはずです。