最終更新:2021.01.09
給食の食形態を下げろと言われました
学校給食では、子どもの食べる力によって食形態(初期食、中期食、後期食など)が決められています。
「給食の食形態を下げましょう」と先生から提案されることがあります。
・家では大人と同じものを食べているんです!
・軟らかいものをあげたら噛む力が弱くなるんじゃないの?
そう思われる方も多いはず。
実際に面と向かって「食形態を下げます」と言われたらさらに悔しい。
食形態を下げることにどんな意味があるのでしょうか?
今回のはなしは、
・やわらかいものばかり食べていると噛む力が弱くなるのか?
・子どもに合った食形態とは?
食形態を下げる理由
学校側も思いつきで提案をしているわけではありません。
学校給食の食形態は、
①子どもの現状にあった硬さや大きさに加工してある
②次の段階を意識したものであること
今度、どのような力をつけてもらいたいのかという意味合いも含まれています。
大人と同じものを食べさせてあげたい
保護者だけでなく教員やスタッフも同じことを考えています。
気持ちは分かります
しかし、全員に同じ食形態のものを出すわけにはいきません。
子どもによって食べる力が異なるからです。
そもそも食形態って何なのでしょうか?
お粥ばかり食べていると噛む力が弱くなるのでしょうか?
① 学校給食の食形態
そもそも「食形態」って何なのでしょうか?
学校給食は、どの子も基本的に同じメニューです。
しかし、まったく同じものを提供してしまっては上手く食べることができません。
そのため、子どもの「食べる力」によって食事の形態(硬さ・大きさなど)が決められています。
「初期食」「中期食」「後期食」というような形態食・嚥下食と呼ばれるものです。
この形態食は、歯科医師もしくは栄養士や言語聴覚士などによって決められることが多いです。
私たちが普段食べている食物の硬さ・大きさ(形態)は「普通食」と呼ばれています。
これと比べると形態食は見た目から違っています。
例えば
初期食 ⇒ ヨーグルトくらい
中期食 ⇒ 絹ごし豆腐くらい
後期食 ⇒ バナナくらい
こんなに軟らかいのです。
こんなに軟らかいものばかり食べていたら咀嚼(そしゃく)の力が落ちる。
そう考えてしまうのも無理はありません。
② やわらかいものばかり食べていると噛む力が弱くなるのか?
昔の子どもは硬いものをよく食べていた
今の子どもは軟らかいものばかり食べている
だから噛む力が落ちている
おそらく根底にはこのような情報が頭にあるのだと思います。
しかし、この昔と今の子どもの比較は食べる機能に問題のない子のはなしです。
そのため、自分の力に合っていないものを食べてもメリットは少ないのです。
<現在の“食べる力”にあった食材か?>
食い違う子どもの評価
特別支援学校に通う子のなかには「上手に」食べられない子がいます。
この「上手に」というのが曲者で、学校側と家庭で意見が食い違うことが多いのです。
・口に入れたものがなくなれば「上手」なのか?
・舌を左右に動かしてご飯を噛めれば「上手」なのか?
「上手」にも幅があります。
評価をする大人によって判断が分かれます。
しかし、食形態の変更には理由があります。
変更を決めるときの基準がはっきりとしていないから意見が食い違ってしまうのです。
食形態を決めるときの基準
食形態を決める時の基準がいくつかあります。
ex.
・舌や顎(あご)など口の動きはよいか?
・噛むか?
・ムセることはあるのか?
(どんなとき?何でムセる?)
食べ終わるのに時間がかかり過ぎるようなら、食べづらい状態だと言えます。
すなわち食形態が合っていないということです。
ポイント:舌の動き
私たちが食べるとき、すべてを噛んで処理しているわけではありません。
舌と口の天井(口蓋)で押し潰して食べる
これが意外と抜け落ちがちな視点です。
食べるためには舌の動きが重要です。舌の動きは
① 前後に動いて ⇒ 食物を喉の奥へ送る
② 上下に動いて ⇒ 舌と口の天井(口蓋)で食物を押し潰す
③ 左右に動いて ⇒ 舌を使って食物を歯に乗せる
という順に獲得していきます。
これらができて、はじめて「噛んで食べる」方法を獲得していきます。
いま、どの段階で、次に獲得する力は何か?が大切です。
食形態を下げるのは誰の指示?
学校では子どもの食べる力に合わせて給食の内容を決めています。
思い付きではなくて、歯科医師や言語聴覚士、栄養士などが子どもの様子をみながら決めています。
◆他の子と違うものを食べるのはかわいそう
→基本的にメニューは同じです。違うのは
・食べやすいように軟らかくする
ex.生野菜を温野菜にして食べやすくする
・あらかじめ一口もしくは適切な大きさにカットしてある
ex.ハンバーグのような軟らかいものでも切り分けてあります。
※みじん切りはバラバラするので逆に危険な場合が多いです!
まとめとして
本当に食べられているのか?
噛んで食べていると思っていたけれど、実際には押し潰して処理していた
ということもあります。
この子はどうやって食べ物を処理しているのか?という視点から探っていくとよいです。
もしも見ただけでは分からなければ、一度、専門職に相談してみるのもよいでしょう。
いままで日常的に唐揚げを提供していたけれど、丸飲みしていたのかもしれないのです。
考えただけで恐ろしい・・・。
それでは食べられているとは言えないのです。
今後のことを考えた支援
やわらかいものばかり食べていると噛む力が弱くなるって本当なのか?
先にも書いた通り、答えはNO。
勉強だってスポーツだって同じです。
自分の能力以上の練習を繰り返していると、
・正しい力が身につかない
・オーバーワークで身体を壊す
ということが起こります。
食べる力に合わないものを出されると
・悪い癖がつく
⇒丸飲みしてしまう
ex.硬すぎるので噛めない。口から出せればよいが、たいていの子はそのまま飲み込んでしまうことが多い。
・事故のリスクがあがる
⇒喉に詰まらせる
大きすぎる、量が多すぎるために無理やり飲み込もうとして詰まらせてしまう。
悪癖や事故にならないためにもいま自分の力に合ったものを食べることが大切。
いま行っている支援がこの先のことを左右するのです。
ただ、言い方も大切ですよね。
提案する側は、親御さんの気持ちも汲んで、伝え方を考えてほしいです。
参考資料
◆特別支援学校小学部の食指導環境の調査 中嶋里香
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2019/007804/010/0343-0353.pdf
◆知的障害特別支援学校教員が捉えている食支援への課題-アンケートの記述内容から-
星出てい子、中村 勇
http://www.ipu.ac.jp/image/04_C0B1BDD0A4C6A4A4BBD2BBE1.pdf