障害児支援・リハビリにおける「支援目標」の考え方
わたしは言語聴覚士(ST)として、長年、放課後等デイサービスで障害児支援に携わってきました。その中で、ずっと違和感を持ち続けてきたのが、「支援目標の立て方」です。
放課後等デイサービスでは、様々な職種の人が支援目標を立てる機会があります。そこで悩んでいる人は少なくありません。
・はじめて支援目標を立てる人
・誰にも教えてもらえず自己流になっていて悩んでいる人
・何を目標にすればよいのか分からない人
今回は、現場で感じてきたことをもとに、「放課後等デイサービスにおける支援目標とは何か?」について、私なりの考えをまとめたいと思います。
この記事では、肢体不自由児、とくに重症心身障害児(以下、重心児)を対象とした支援について書いています。
- 障害児支援・リハビリにおける「支援目標」の考え方
- 「〇〇ができるようにする」という支援目標が危険な理由
- 【具体例】不適切になりやすい支援目標のケース
- 放課後等デイサービスにおける適切な支援目標の立て方
- 【言語聴覚士の視点】卒後を見据えた支援目標の考え方
- まとめとして
個別支援計画と目標設定の基本
放課後等デイサービスでは、年に2回、個別支援計画を作成します。
これは、子ども一人ひとりについて「どうやって支援をするのか」を示すものです。
・どんな方向性で支援していくのか
・どんな目標を大切にするのか
支援の指標となるので、とても重要な計画書なのです。
基本的には、児童発達支援管理責任者(児発管)が中心となって目標を立てます。施設によっては、スタッフ全員で話し合って決める場合もあります。
児発管による目標設定の現状と課題
ここで一つ、現場でよく感じる課題があります。
「なんとなく」の目標が生まれてしまうのは、どのような理由があるのでしょうか?
児発管は、研修と実習を受ければ取得できる資格です。そのため、療育や発達に関する専門的な知識が十分でないまま、目標設定を任されているケースも少なくありません。
もちろん、子どものことをよく見て、丁寧に目標を立てている児発管もたくさんいます。ただ一方で、現場ではこんな目標を目にすることがあります。
・歩けるようにする
・喋れるようにする
・食べられるようにする
よく見かける表現ですが、これのどこが おかしいのでしょうか?
「〇〇ができるようにする」という支援目標が危険な理由
「〇〇ができるようにする」
一見すると、とても前向きで良い目標に聞こえるかもしれません。しかし、この「〇〇ができるようにする」という目標設定には、落とし穴があります。
例をみていきましょう。
【具体例】不適切になりやすい支援目標のケース
障害を持つということは、発達のどこかの段階で「つまずき」があることが多い、ということです。それは・・・
・身体的な問題
・知的な問題
・感覚の受け取り方の問題
など、さまざまです。
例①:ハサミを使えるようにする
「ハサミを使えるようにする」という目標を立てたとします。
確かに、ハサミで紙を切れるようになった。しかしその結果、人の服やカーテンまで切ってしまうようになったとしたらどうでしょうか。
例②:ひとりで食事ができるようにする
「ひとりで食事ができるようにする」という目標の場合はどうでしょう。
スプーンやコップの操作は上達するかもしれません。しかし・・・
・丸飲み
・早食い
といった問題は改善されず、結果として、喉に詰まらせてしまった。
このように、「できるようにする」だけの目標は、安全や発達段階を置き去りにしてしまう危険があるのです。大切なのは「できる」ために必要な力を見つけることなのです。そう、基礎作りです。
放課後等デイサービスにおける適切な支援目標の立て方
障害児支援で大切なのは「できる・できない」より「発達段階」を見ることです。
もしも「〇〇ができるようにする」という目標を立てたいのであれば、その前に、もっと細かい段階を見る必要があります。例えば、次のような視点です。
【支援目標の例①】他者の存在に注意を向ける支援
発達初期の子どもは、意識が自分の内側だけに向いていることが多くあります。まずは・・・
・近くに人がいる
・誰かが関わってくれている
ということに気づき、「人と関わるって、ちょっと楽しいかも」「大人と関わると楽しいことが待っている」と感じられることが、とても大切な一歩になります。
【支援目標の例②】感覚刺激に気づくことを目的とした支援
私たちは普段から、意識しなくても様々な感覚を受け取っています。
・触る
・見る
・聞く
・身体の動きを感じる
五感を通して、周囲からの情報を受け入れているのです。しかし、障害が重い子どもの中には、刺激をうまく受け取れない子がいます。刺激が足りない状態が続くと、自己刺激的な行為が出やすくなります。
・自分の身体を叩く
・揺れる
・同じ言葉を繰り返し言う
見たことがあるのではないでしょうか?まずは「感覚に気づくこと」そのものを目標にする必要があります。
【支援目標の例③】自分から物に手を伸ばす力を育てる支援
一緒に遊んでいると、物を見せると笑ってくれる。しかし、自分から手を伸ばすことがまったくない。
この場合、「やる気がない」のではなく、「どうすればいいのか分からない」ことが多いのです。自分の身体の使い方が分かっていない子もたくさんいます。
環境や関わり方を工夫し、「こうすればいいんだ」と分かる経験を積めるよう、手が伸びること自体を目標にすることも、とても大切です。
間違えた目標設定
何を目標にすればよいのか分からない。そんな人も多いかと思います。そういったときに建ててしまいがちな目標が、「何でもいいから、できるものを増やす」というものです。
そういった考え方は、「少しでも健常児に近づけることがよい支援だ」という風潮になってしまうのです。
「障害がない子に近づける」という考え方は、一見、よい支援のように見えるかもしれません。
しかし、それでは子どもの「いま」を全否定していることになってしまいます。「いま」を受け入れつつ、「これから」どうしていけばよいのか?という視点が、子どもに寄り添った目標、支援ではないのでしょうか。
さらに、放課後等デイサービスは子どもにとってメインの場所ではありません。
・学校でもない
・医療機関でもない
・家庭でもない
放課後等デイサービスでできることには、限りがあります。
【言語聴覚士の視点】卒後を見据えた支援目標の考え方
わたしが長年STとして現場で感じてきたのは、支援目標とは、できることを無理に増やすことではないということです。
支援の目標とは、子どもが学校を卒業したあと、人生を「楽しめる力」を育てることだと、わたしは考えています。
【事例】喋れない重症心身障害児に対する支援目標
目標:理解できる単語をひとつでも増やす
理由は、とてもシンプルです。
卒業後は、今までのように大人がじっくり関わる時間が減っていきます。
だからこそ、
日常的によく使われる言葉を理解できるようになることで、
周囲の会話が少し分かるようになる。
それが、その子にとって「世界を楽しむきっかけ」になるかもしれません。
まとめとして
「卒後」に必要な力は、子どもによって本当にさまざまです。
だからこそ、一人ひとりをよく見たうえで目標を立てることが何より大切だと感じています。
繰り返しになりますが、わたしたち支援者にできることには限りがあります。放課後等デイサービスの仕事は、教育することでも、矯正することでもありません。
子どもの発達に寄り添いながら、「こうしてみるといいかもね」と遊びや活動を通して、発達をそっと促していくこと。
それは、支援職でも、リハビリ職でも、看護職でも、すべての支援者に共通する大切な視点だと、わたしは思っています。
よかったら参考にしてみてくださいね。



