障害児支援での記録の書き方
障害児支援の施設では、毎日、支援した内容を「記録」として残しています。日々の子どもの様子を書き残すことで、これからの支援や介助に役立てるためです。
記録なので、作文とは違い、あったことを「そのまま」「分かりやすく」書けばよいだけです。しかし、実際に書いてみると難しいのです。
難しさの原因として「こういうふうに書きなさい」という明確なルールがないことがあげられます。国や業界としてのルールもありません。施設内のルールも曖昧なので、上司に聞いても「先輩支援者のように書いて」と言われるだけ。
なかには、感覚的に上手に書ける支援者もいます。しかし、大半は、よく分からないまま書いている状況です。
今回は、障害児施設で書く記録のポイント、「ダメな書き方」「よい書き方」を紹介していきます。
施設の記録とは?
障害児の施設は、放課後等デイサービスや入所施設などたくさんの種類があります。どの施設でも支援内容を記録に残しています。内容は次のようなものです。
・どのような様子だったか?
・変わったことはなかったか?
・トラブルがあったときの状況はどうだったか?
記録は紙やデータというかたちで残ります。
「こうしたら、うまくいった」
「こういうやり方はダメだった」
活動や遊びに「どういう感じで参加したのか?」という記録を読めば、実際に支援に入っていなくても追体験ができる。このような記録は大切な財産となるのです!
ダメな記録
しかし、記録の中には「ダメな記録」「嫌われる記録」というものがあります。どこの施設でも共通して「よろしくない」といわれるのが下記の3つです。
・思いが強すぎる
・偏見が強すぎる
・治療したがる
これらの視点は独りよがりになりがちです。だからこそ気をつける必要があるのです。
思いが強すぎる
障害児分野の対象は子どもです。「こうなってほしい!」「本当はできる子だけれど、今回はできないだけ」という「思い」が先行してしまう人もたくさんいます。子どもの可能性を信じる、という意味では支援者にとって必要なものです。
「書くなら良いことを書きたい」その気持ちも分かります。しかし、支援の記録は「見たまま」「ありのまま」だからこそ貴重な情報となるのです。
⇒ 「タイミングよくうなずいた」=「理解している」と判断してしまう。偶然と実際の力がごっちゃになってしまうケース。
偏見が強すぎる
障害や疾患には「出やすい症状」「こういう子が多い」というものがあります。ただ、全員ではない。すべてイコールでまとめてしまうと、本当の子ども像が見えなくなってしまいます。
↓ こんな記録を見かけます。
声をかけたけれど、かたくなに聞いてくれなかった。やっぱり頑固だ。
ダウン症の子の中には、他者から指示や誘いを受けたときに、固まってなかなか動かなくなるケースがあります。これを「頑固」と表現することもあります。
自分の気持ちを切り替えたり、考え方を変えながら行動したりすることが苦手などの理由があるのですが、もちろん全員ではありません。
ダウン症は頑固な子。そんな偏見だけの評価で記録を書いても、残念ながら何の役にも立ちません。
治療したがる
障害を持つ子に対して「治そう」という意識が強い支援者がいます。リハビリ職だけではありません。支援職・保育職にもいます。
・体重が重い子でも、頑張れば一人介助はできるはず!
・声(音)が出ている。たくさん話しかければ喋れるようになるはず!
何でも頑張らせようとする。しかし、療育は治療や矯正ではありません。発達がゆっくりだったり、足踏みの状態だったりする子に、発達の底上げをしてあげる。それが療育です。特別なことではなく「より丁寧な 子育て 」だといわれることが多いです。
よく分からない「頑張れば良くなる!」という信条?は、記録ではなくて自分の心の中にとどめておくべきです。
良い記録
では、次に良い記録とは何なのか?を説明します。施設によっても「良い」は変わってきます。ここでは、どんな施設でも共通して言えることをお話しします。
・客観的な文
・「事実」と「考え」が分けられている
・誰が見ても想像できる文
客観的な文
客観的。自分の感想は抜きにして、実際に起こったことだけを書けばよいのです。面白おかしくなんてしなくてよいのです。ありのままを書けばよい。
○ STが名前を呼ぶと、両手を開いて抱っこを要求していた。視線はすぐに逸れてしまう。
☓ STが名前を呼ぶと、「こっちに来てよ!」という表情をして両手を開いた。STが近づくと照れ臭そうにいろんな人を見比べていた。
⭐︎子どもの発達状況を考えると、実際には「出来ないこと」「やらないこと」があります。子どもの様子や状況から「わたし(支援者自身)だったら こう考えて、こうやって動く」と支援者が「自分」を出さなくてもよいのです。
「事実」と「考え」が分けられている
もしも、記録に自分がその場で感じたこと、考えたことを残しておきたいなら、「事実」と「考え」は分けて書くとよいのです。
・感覚遊びのとき、氷に触れてもらうと瞬間的に手を引っ込めた。その後、笑っていたが自分から手を伸ばすことはなかった。(事実)
・本児は普段から興味のあるものに触ろうとすることが多い。今回、笑っていたのは「楽しい」からではなく「困っていて」笑っていたのではないか。(仮説)
段落や箇条書きで分けて書くことで「事実」「考え」の違いが分かりやすくなる。
誰が見ても想像できる文
本来の力よりも高く評価して書いた記録は、読む人を混乱させます。
・喋らない子がいかにも喋ったように書く
・動けない子が自分から動き出したと書く
・「支援を受け入れてくれた」と適当なことを書く
指導する人が陥りやすい罠
支援記録は書くだけではありません。長年、勤めていると、新人への「記録の書き方」を伝授するよう上司から指示を受けることがあります。そんなときに陥りやすい(おちいりやすい)ポイントを説明します。
指導している本人は気がついていないことが多いので気をつけたい部分です。
経験が長い人の場合
施設での勤務年数が長くなってくると、後輩へ記録の書き方を教える機会が増えてきます。このときに「陥り(おちいり)やすい罠」があります。
何となく記録を書いてきた人は、突然、後輩に教えろと言われても困ってしまいます。仮説の立て方や支援の組み立て方がよく分かっていないことも・・・。
こんなとき、このタイプの人は「日本語の誤り」を指摘したがります。内容ではなくて。これで嫌になってしまう新人の人が多いことに気づいていません。
日本語の文法なんて二の次ですよ!そんなことに時間をかけるなら、子どもの支援のことを考えたり話し合ったりする時間に使った方が有意義です!
専門職の人の場合
専門職が支援記録を書く時のポイントは次の2つ。
・職種が違えば考え方も異なる!
・記録で専門用語は極力使わない”
わたしは言語聴覚士(ST)として放課後等デイサービスに勤務しています。長年勤めていると、支援職・保育職の人へ記録の書き方を指導する機会が増えてきます。自分と同じ職種の後輩への指導ならば問題ない。しかし、職種が違う人に記録の書き方を伝えるのときには迷ってしまいます。
うまくいくポイントは すべてのスタッフが専門的に子どものことを学んできたわけではない、ということを知っておくことです。
「発達段階も知らないの?」
「いきなり喋れるようになるわけないでしょ?」
と言ってはいけません。相手の職域や考え方を念頭に置いて やり取りしていかないと失敗します。誰も言うことを聞いてくれなくなります。
さらに、支援記録を書くときは専門用語はNGです。極力、優しいことばをつかうのがベスト。この記録は「誰が読むものなのか?」を考えましょう。支援記録であれば、同じ職場で働く支援者たち、もしくは、開示を求めてきた保護者等ではないでしょうか。
読む人が理解できるように書く。専門用語を使わず、分かりやすく伝えられる専門職がかっこいいのですよ!
まとめとして
今回は支援記録の書き方&ポイントを紹介しました。支援記録は、読むことで次の支援に活かすことができます。そのためには、子どもの正しい姿を捉えることが大切です。高すぎる「評価」「思い」は、子どもの理解の妨げになります。
まずはこれだけ。これを徹底していくと、断然 読みやすくなります。
良かったら参考にしてみてくださいね。