言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

筋力=食べる力ではない!支援者が勘違いしやすいこと

障害児の食事の支援で大人が勘違いしやすいこと

障害や病気などが原因でうまく食べられない子がいます。

そういう子たちに、なんとか食べられるようになってもらいたい。

しかし、どういうふうにすれば上達するのか分からない。

 

「とりあえず力(筋力)をつければいいはず!」

「筋力をつけると硬いものも噛めるんじゃないか?」

 

そう思っていませんか?

 

しかし、それは間違えです。

特に子どもの場合は注意が必要です。

 

では、なぜ筋力アップではダメなのか?

では、どうすればいいのでしょうか?

 

今回は、食べることが苦手な子どもに支援としてできることを説明します。

 

 

 

高齢者と子どもは違う!

障害を持った子のなかには、食べることが苦手な子もたくさんいます。

施設のスタッフも心配だけれど、どうしたらよいのか分からないのだと思います。

 

わたしは言語聴覚士(ST)という「食べること」「喋ること」「聞くこと」が専門の職業をしています。

 

◆言語聴覚士についてはこちらをご覧ください

www.hana-mode.com

 

普段から施設のスタッフから相談を受けることがあります。

 

「口の筋肉がつくような体操(筋トレ)を教えてほしいです」

こういった相談は多いです。

おそらく、高齢者が施設であつまって体操をしているイメージなのだと思います。

 

ex. 高齢者の食べる機能の体操

・首周りのストレッチ
・「ぱ、た、か」と言う
・口を閉じる

確かに有効なものもあります。

しかしそれは高齢者に限ってです。

 

子どもには向きません。

なぜでしょうか?

その理由を説明します。

 

 

筋力がついても食べることが上手にならない理由

たとえば、噛まないで食べる子。

障害を持つ子のなかに、噛まずに食べる、丸飲みする子はたくさんいます。

噛む筋力がつけば上手に食べられるようになるのでしょうか?

答えはNOです。

なぜなら、食べるときに必要なことは「噛む」だけではないからです。

 

 

「噛む」以外にも必要な力がたくさんあるから

人は口に食物が入ると飲み込むために処理をします。

 

・前歯で噛んで口に取り込む
・舌を使って食物を奥歯の上に乗せる
・奥歯で噛む
・食物は細かくなる
・舌で唾液と食物を混ぜる
・塊を作る
・飲み込みやすくなる
・嚥下する

 

ザックリと見ても「処理する」のにこんなにたくさんの工程があるのです。

舌が意外と大活躍するのです!

 

◆舌についてのはなしはこちらをご覧ください。

www.hana-mode.com

 

 

筋力を改善させる療法もある

正しい舌の位置や使い方を覚えて正しい飲み込み方を促す方法もあります。

それが口腔筋機能療法(MFT)です。

 

口腔筋機能療法

指しゃぶりなどにより二次的に生じた舌突出癖や口呼吸により弛緩した口唇を、舌や口唇の訓練によって調和の取れた状態に改善する療法

MFT入門 わかば出版(P.1より引用)

 

勘違いしてほしくないのですが、このMFTも筋力をつけて嚥下力をアップさせるものではないのです。

使い方の改善を促すやり方です。

わたしたちは舌を口の天井(口蓋)にくっつけて食べています。

無意識にやっています。

悪い癖がついている子はわたしたちと違う食べ方になっているのです。

・舌が前歯よりも前に出てしまう
・口が開いたまま食べている


普段から目にするようなことが原因となります。

・指しゃぶり
・口呼吸
・ほおづえをつく


もっとくわしくMFTを知りたい方は本で学んでみるとよいです。

いろんな本が出ています。

 

MFT入門 (Amazon)

 

 

高齢者と子どもの「食べる機能」の違い

高齢者と子どもは根本的に異なります。

大きな違いは次の通りです。

 

正常な食べ方を獲得しているかどうか

一番大きな違いが「食べる機能」を獲得しているかどうか?ということです。

高齢者はすでに獲得していますが、障害児は獲得できていないのです。

 
*高齢者*

高齢者は、かつて正しい食べ方をすでに獲得していた人たちです。

食べることに問題をもつ高齢者は、加齢や病気、疾患によって筋力や機能が低下した状態なのです。

一度、正しい食べ方を身につけた人たちなのです。

 

*子ども*

一方、障害を持った子ども、障害や疾患によって正しい食べ方を獲得できていない状態です。

まだ正しい食べ方が身についていない人たちなのです。

 

 

指示が入るかどうか

指示が入るとは指示を聞いてその通りに動けるか?ということです。

指示が入らないと検査や訓練(練習)を受けることができません。

高齢者は病院で食べるリハビリを受けることがあります。

障害児は基本的には食べるリハビリを受けることは少ないです。

指導を通して正しい食べ方を身につけていきます。

実際に「正しく」食べることが練習となるのです。

 
*高齢者*

認知症などの疾患がなければ、基本的に指示が入ります。

指示とは「○○をしてください」と言われてそれに応じられるかということです。

 

*子ども*

障害を持った子たちは基本的に指示は入りません。

なかには聞いてくれる子もいます。

しかし、知的に障害があったり、身体に重い制限があったりすると指示には応じられません。

 

 

まとめとして

障害を持つ子の「食べること」への支援について説明しました。

筋トレすれば食べることが上手になるわけではないのです。

「筋力=食べる力ではない」

必ずしもそうとは言い切れない。

介助者や支援者、スタッフなどの大人が勘違いしやすいことです。

 

支援や介助には必ず「理由」があります。

何も考えずに行うのはちょっと危険です。

よかったら参考にしてみてくださいね。