言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

筋ジストロフィーの子の障害児保育。支援者が保育中に気をつけたいこと

筋ジストロフィーと介助

 

 

障害児と関わっていると、様々な障害や疾患の子たちと会うと思います。例えば、進行性の疾患。特に筋力が低下してくるものの場合、他の障害の子たちと同じ保育目標にしてしまうとうまくいかないことが多いです。障害の質が違うからです。今回は、筋ジストロフィを例に、放課後等デイサービスでどんなことに気をつければよいのかを考えていきます。

 

 

 

ポイント

・失敗体験よりも成功体験を!

・現状維持も考慮

・介助量を調節して「どうすればできるか?」を考えよう

 

 

1)筋ジストロフィーとは


①分類


筋ジストロフィーには「症状の特徴」や「発症年齢」などによって分類されます。私たちが知っている、福山型筋ジストロフィーやデュシェンヌ型筋ジストロフィ以外にも、50以上の種類があります。そのうち、十数個が先天性のものです。再分類する動きはありますが、いまだ古典的病型分類のままです。


②原因


遺伝子の異常などが原因とされています。しかし、詳細な発症メカニズムなど、充分に解明せれていないことも多いです。


③症状


・全身の筋力が低下していきます(どの部位が動かなくなるのかは疾患のタイプによる)
・タイプによって知的障害の有無や程度が異なります


④治療


根本的な治療は見つかっていません。今できる医療は、定期的な機能評価と合併症予防です。ステロイド剤を使うことで呼吸や心臓の機能を維持させたり、身体の中で作ることのできないタンパクをつくるための薬を飲むこともあります。


⑤注意点

 

・疲労や筋肉痛が生じない範囲であれば、原則的に日常生活の制限は行いません

外傷や骨折で動けない時期を作ると廃用による筋萎縮をきたします。転倒しやすい子にはプロテクターや環境整備、介助等により事故を防ぐことが大切です

・筋ジストロフィーの子は咳をする力が弱いため、呼吸器感染をこじらせやすい問題があります。


※筋ジストロフィーには様々なタイプがあります。それぞれに特徴的な症状もあります。特徴もありますが、個人差もあります。

すべてのタイプを覚えるのは大変です。

例えば、喉(咽頭部)の筋肉が障害されるタイプであれば、食べる機能に問題が起こりやすい、というような覚え方をした方が頭に入りやすいと思います。


 

 

2)保育で大切にしたい視点

 

筋ジストロフィーは進行性の疾患です。筋力が減少していくので「できないこと」が増えていきますはじめはそれに抗っていても、あきらめにかわっていきます。

筋ジストロフィに限らずですが、進行性の疾患の子には、失敗体験を重ねないことが大切です。失敗体験によって「自分にはできない」が「やりたくない」となり、「あきらめ」になっていきます。

そのため、最小限の介助で課題に取り組めること、他児と一緒に遊ぶことを目標にします。


例えば、

・一人では玩具の操作ができないけれど、その子の肘を介助すればできることが増える(⇒ 解除によって可動域が広くなる)

・机の上に玩具を置くとき。机と玩具の間に「台」を入れる。
(⇒ 手を動かす距離が縮まるので、労力が減る)

 

少しでも「できた!」を味わうチャンスをつくることを大人が意識する

主体性を高める支援が欠かせないのです。

 

 

3)主体性を高める支援って?


主体性とは、自分で決めて、実際に動いていくことです。子どもの主体性を引き出すために必要なことは下記のとおりです。

① 活動自体が子どもたちにとって楽しみになっているか?
② 子どもたち自身ができそうな活動か?
③ 活動を継続して行っているか?
④ 友達など仲間と一緒に活動できるものか?


「主体的」「主体性」「自主的」などは、個別支援計画をつくるときによく出てきます。「主体性」を引き出すために、具体的にはどのようなことができるのでしょうか。

・子どもが理解できる遊び(玩具やルール)を活用する
・自分のやったことが結果に結びつくこと

・理解できるには、どのくらい介助をつければいいのか?
 →どこを持って、どうやって動かそうか
 →大人のヒントはどのくらい出せばよいのか

その子の、「好きなこと」を基にやりたい気持ちを膨らませて、「自分にもできるかもしれない」「やってみよう」と思えることの繰り返しが、主体性もそうですし、それが成功体験となります。

 

 

 

4)介助や代替えの方法(案)として

介助量を調節することで、他の子と同じ遊びをすることができます。そのためには、あらかじめ「どうすればできるか?」を考えておくことが大切です。それをみんなで組み立てていくのが保育なのかなと思います。

・ハンドベル

→支援者と一緒に振ってもよいが、子どもに棒を持たせて、それで叩いて音を出すようにすると「自分がやった感じ」が出やすくなります。スイッチのハンドベルは一見、やりやすいようにみえますが、実際には、押す力が足りずに音が出ないケースが多いです。


・机の上にあるものが届かない
→ミニ回転テーブルを使ってみる

など。

 

 

まとめとして

 

進行性の疾患の子の場合、筋力低下などにより「できないこと」が増えてきます。他の障害と同じように「○○ができるようになろう」という目標を立てることは少ないです。そのため、保育では下記のようなことに配慮していきます。

失敗体験よりも成功体験を!

現状維持も考慮

介助量を調節して「どうすればできるか?」を考えよう

これらに気をつけて関わっていくことで「私にもできた」「もっとやりたい」という気持ちを持ってもらうことが大切なのです。

 

進行性の疾患の子への保育。まずは、ここからはじめてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

参考文献

◆難病情報センター
筋ジストロフィー(指定難病113)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522

 

◆筋ジストロフィーのリハビリテーション・マニュアル
 平成 23 年3月

厚生労働省精神・神経疾患研究開発費
筋ジストロフィーの集学的治療と均てん化に関する研究

http://www.carecuremd.jp/images/pdf/reha_manual.pdf

 

◆神経・筋疾患の子どもに必要な保育・教育支援に関する研究
─保育内容及び自立活動の視点からの検討─
https://ohka.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=97&file_id=22&file_no=1