見えることだけが答えではない
重症心身障害児の子と関わっていると、こう悩むことはありませんか?
「反応がない」
「笑った理由が分からない」
反応が少ない重症心身障害児の支援では、「見える反応」だけで判断しないことがポイントです。評価をするときには、「見えた反応」ではなく、「なぜそうなったか?」を仮説で考えることが大切なのです。
言語聴覚士(ST)は、子どもの表情・姿勢・呼吸・筋緊張・視線・発声などを手がかりに、「本当は何が起きているのか?」を仮説立てしながら評価していきます。
「喋れるようにする専門家」だけではなく、“伝わらないサインを読み解く専門職”でもあるのです。
今回は、長年重症心身障害児と関わってきた言語聴覚士の視点から、実際の事例を通して「反応の読み取り方」を解説します。
重症心身障害児の反応評価が難しい理由
重心の子は、基本的に「歩けない」+「喋れない」状態の子たちです。ことばを理解していない子も多く、大人からの声かけに対して無反応であったり、反応に乏しかったりする子もいます。
反応が薄いと、その子自身の評価もやりづらくなります。そのため、重心の子たちの評価は、支援者によってバラつきがでやすいのです。支援者自身、そのことに気がついていないケースもあります。
▶ 重心の子へのかかわり方で悩んでいる方はこちらもご覧ください。
⇒ 障害が重い子、喋れない子と関わるときのコツ&ポイント
では、どうやって、子どもの考えを読み取っていけばよいのでしょうか?今回は、2つのケーススタディから、読み取るときのポイントを紹介します。
重症心身障害児とは?
重症心身障害児(じゅうしょう しんしん しょうがいじ)とは、肢体不自由児の中でも、障害が特に重い子たちをさします。重心(じゅうしん)と省略して呼ばれることが多いです。
障害児の世界には、子どもの分類の仕方がたくさんあります。「重心」「重度重複」「重複」などなど。
▶ 分類の違いについて知りたい方はこちらをご覧ください
⇒ 「重症心身障害」と「重複障害」と「重度・重複障害」。違いは何?
嫌がったときの評価は?【STの仮説】
肢体不自由の子。
はじめて「お汁粉」を食べた子がいました。あんこを口に入れる度、身体を突っ張らせていました。泣いたり、笑ったりする様子はみられません。
ちなみに、お汁粉の餅は粥で代用しました。あんこは こしあんをブレンダーで混ぜたものを使用しています。
この子の食が進まなかったのは、なぜだと思いますか?
わたしが立てた仮説は次の通りです。
①あんこの味が嫌いだから
意外と多い「好き嫌い」に結びつけるケース。気持ちは分かりますが、ちょっと待ってください。
いつも、あんこを食べるときに嫌がることが多い。なぜだろう?嫌いなのかな?
見た様子をそのまま捉えると、こう考える人が多いかと思います。しかし、実際は本人の好き嫌いは、見ただけでは よく分かりません。もしかしたら、他の要因で嫌がっているのかもしれません。
②介助の仕方が嫌だったから
たとえば、無理やり押さえつけるような介助をされると、誰でも嫌な気持ちになります。好きな食べ物であっても拒否が出るでしょう。
食事介助中、顔をしっかりと支える介助をしながら、食べてもらった。終始、渋い表情だったな。
姿勢が崩れやすい子の場合、介助で身体を支えることもあります。それも、ポイントをおさえて介助をしないと、たんなる「押さえつけ」になってしまいます。
③食形態が合っていなかったから
普段、食べているもの、食べている様子を思い出してみましょう。
調理活動でつくったポテトサラダは、しっかりと芋感が残るようにこだわった。学校給食では、絹ごし豆腐くらいのものを食べているらしい。でも大丈夫でしょ。・・・食べないな。なぜだろう?
たとえば、この子が、水分をとるのが苦手で、初期食(ペースト食)を食べていたとします。今回のお汁粉がサラサラしていました。液体に近いので口の中で保持することができず、ムセそうになってしまいます。その度に、身体に力が入ったのかもしれません。
▶もっと食事介助について学びたい方はこちらをご覧ください
⇒ 食事介助への拒否について。食が進まないのには原因がある!
ST視点のポイント
食事場面では、目に見えることに囚われ過ぎなようにしています。
食べない=嫌い、という仮説の優先順位は低いです。そのかわり、目に見えない「口の中」「食べる力」「前後関係」などを重要視して判断していることが多いです。
笑った反応をどう評価する?【STの仮説】
次に、普段のかかわりの中で起こりやすい疑問です。
ことばや動きで意思表出ができない子のケースです。
施設では「自己決定」を大切にしているところが多いと思います。おやつの際に、数種類のなかから好きなものを選んでもらいます。このお菓子を見て笑ったわ。これが好きなのね。
・・・本当にそうなの?
①目の前に大人が来たから笑っただけ
新しい玩具を持って、子どもの近くに向かった。私が手に持っている玩具を見ているのかな?笑ってるね。よかった。好きなのね。
自分から喋ったりサインを出したりしない子であっても、自分のそばに他者が来れば嬉しくなる子も多くいます。
大人の声かけの「意味」が分からなくても、「そばに来てくれた」で笑っただけ、というケースは意外と多いです。
②「どっちがいい?」という声かけに対して笑っただけ
おやつを選んでもらうとき、お菓子のパッケージを見せてみた。あ、笑った。きっとこれが好きなんじゃない?
本当に「見せられたもの」が食べたいものだったのでしょうか?
。「笑った=好き」と決めつけてしまうと、本人の本当の意思を見落としてしまうことがあります。
もしかしたら、「どっちがいい?」と話しかけられた、ということに対して笑ったという可能性もあるのではないでしょうか。重症心身障害児の場合、この仮説が当てはまるケースも、結構多くあります。注意したいです。
③周囲から聞こえて来る音に対して笑っただけ
にぎやかな部屋で、新しい玩具を見せてみた。なんか笑ってる。きっと、好きなんじゃないかな。
目の前にいる支援者との やり取りではなく、関係のない刺激に対して笑っている可能性もあります。
支援者は「どっちがいいのか」質問したつもりでも、子どもは「窓からのキラキラした光」を見て笑っていたのかもしれません。他の子の声を聴いて笑ったのかもしれません。
支援者の声は ちゃんと子どもに届いていましたか?子どもは質問の意図を理解していましたか?
▶障害児のコミュニケーションをもっと知りたい方はこちらをご覧ください
⇒ 障害児の気持ちを理解するためには、どうすればよいのか?考えてみた
ST視点のポイント
勘違いしてほしくないのは、肢体不自由児にとって「笑う」という行為は立派な反応です。この行為を、子どもの気持ちや意図の手がかりとすることは基本です。
今回、言いたいことは、「笑う」=「好き」という可能性も残しつつ、他の可能性をたくさん掘り出してみてほしい、ということです。
たくさん仮説が立てられれば、本当の子どもの気持ちや意図に近づけるのではないか、と、わたしは考えています。
STは何ができるか?
障害児施設の言語聴覚士(ST)として、できることは、確実にあります。そのなかでも、大切なのが、指導員などの現場のスタッフが思いつかない視点を提案すること、です。
STは、子どもの反応を「見たまま」で終わらせず、姿勢・呼吸・食形態・刺激環境などを含めて仮説を立て、支援方法を調整していきます。
もしかしたら、スタッフに面と向かって助言できないこともあるかもしれません。
「こんな提案したら、スタッフの人たちは嫌がるかな・・・」
「専門職だからって、出しゃばりたくないな・・・」
でも大丈夫です。自分の意見を押し付けずに、意見の一つとして言ってみるくらいでよいのです。もっと、力を抜いて大丈夫。
▶ それでも心配な方は、こちらの記事も読んでみてください。
⇒ 「言いたいことを言う」のは社会人の基本?そんなわけない
まとめとして
今回は、重症心身障害児の「子たちの反応をどうとらえるか?」という話しをしました。
「反応がない」と感じたときこそ、見えていることだけで判断しない。
「なぜそう見えたのか?」と仮説を立てることで、子どもの可能性が見えてくるかもしれません。
子どもは、大人が見たいようにしかみえません。支援で行き詰っている方に知っておいて欲しい考え方です。よかったら参考にしてみてくださいね。
▶ 支援者に知っておいてほしい考え方はこちら
⇒ 第1回:「“それっぽい療育”が生まれる理由」


