「関係性」はスタッフが自分の有能さを示すための道具ではない!
障害を持つ子を支援していると「子どもとの関係性」ということばをよく耳にします。
「関係性」?
子どもと仲良くなるってこと?
大人の言うことを聞いてくれるようになるってこと?
何だかよく分かりません。
あやふやな評価である「関係性」。
先輩スタッフが新人スタッフによく使う単語でもあります。
今回は、障害児支援での「関係性」ということばについてです。
後輩を育成するときに「関係性」ということばで何となく押し切っていませんか?
「関係性」ということばを考える
「関係性」とはどのような意味で使うとよいのでしょうか?
いろんな使われ方をする用語です。
「関係性」とは子どもがものや人とどのように関わっていくのか?ということです。
関わりの中からもので遊べるようになったり、人とやり取りできるようになるのです。
子どもが自分以外のものとどのように折り合いをつけて関わっていくのか?ということをさすのです。
「関係性」神話は正しいのか?
実際の現場ではちょっと違っています。
子どもの評価をするときに、こんな話しを聞くことがあります。
「発達が進んでいないのは、子どもと支援者との関係がつくれていないから」
・子どもとの関係性を築く
・子どもとの関係性を深める
放課後等デイサービスで支援や保育を行っていると、よく耳にすることばです。
子どもに信頼してもらえるという意味で使われています。
確かに、子どもとの「関係」がうまくいくことが、発達促進の潤滑油になりえます。
しかし、「関係性」ということば。曖昧過ぎます。
曖昧過ぎて子どもの評価をするときに支援者によって大きく差が出ます。
では「関係性」を一番に考えておけば子どもの発達は進むのでしょうか?
「関係性」なのか「理解」なのか
子どもと長い時間を一緒に過ごせば「この子は、この場面では怒りやすい」というようなパターンが見えてきます。
パターンが分かれば、大人が先回りして不穏な状況を避けることができます。
それが子どもの「安定・安心」につながることは確かです。
しかし、それは「関係性が築けている」というのはいかがなものか?
これは「関係性」ではなく「子どもを理解している」という意味です。
子どもにとってみれば、自分のことを分かってくれる人がいる、ということ。
そういう経験の積み重ねが「大人と一緒ならば、やれる」という気持ちにつながります。
大切なことです。
しかしこれは「関係性」ではありません。
アタッチメントと関係性
「関係性」と似たことばで「アタッチメント」というものがあります。
広義では「ひっつく」ことをさします。
危険を回避するために、安全に生きるために一緒にいることです。
広義の意味を使うのであれば、障害児保育でも施設スタッフとの愛着形成は充分に可能です。
「気持ちのやり取りができるほど仲が良くなったから、お互いに成長できる」という
「安心して過ごせるから、子どもが自分の力を発揮することができる」
力を発揮するとは、例えば下記のような状況です。
隣に、いつもいるスタッフがいるな。よし。(玩具に)手を伸ばしてみるか。ん?触れたら大人がったぞ?また触ってみよう。
というような「気づき」が生まれ、これを繰り返すことが学習となります。これが結果的に発達が進んでいった、ということになるのではないでしょうか?
子どもとの関係を築くために
支援を考えるときには、どうしてもアプローチなどの「支援者側から」の働きかけにばかり頭がいってしまいます。
しかし、どんな発達段階であっても、子どもには気持ちというものがあります。
・(子ども自身が)認めてもらっていると感じられる
・子どもの意欲をなくさないようにする
支援を行ううえで忘れてはいけないことです。
①子どもが「認めてもらっている」と感じられるために
以前、わたしが参加した勉強会の講師がこんなことを言っていました。
喋らない子に対して、スタッフが事務的に支援をするだけだと、子どもも心を開いてくれません。
大人は質問ばかりしてしまいがちです。
矢継ぎ早に質問をするのではありません。
「きれいだね」
「次はこれをやるよ」
たとえばこのように目の前の状況の説明をしてあげるだけでよいのです。
状況を口に出すことで場を共有することができます。
説明することで難しく考える必要はありません。
②子どもの「意欲」が成長を底上げする
例えば、ことばが出ていても、何を言っているのか聞き取りづらい子(明瞭度が低い子)。
どうやって接していますか?
ポイントはその子の言っていることを「何とか分かってあげたい」という姿勢で接することです。
このスタンスで支援を行っていくと、不思議と子どもが寄ってくることがあります。
子どもの「伝えたい!」という気持ちが強くなるのでしょう。
この思いというのはことばやコミュニケーションを学ぶ上での土台となるものです。
聞き流されてばかりだと、その思いは減っていきます。
聞き返さないと理解できない、という場面もあると思います。
そういうときには「はっきり言ってよ」とイライラしてはいけません。
「言ってくれたのに理解できなくて、ごめんね」くらいの姿勢で接します。
そうすることで、子どもは気持ちよく、もう一度言い直してくれやすくなります。
言うのを諦めることが減るように感じます。
他の職種も活用しよう!
障害児の施設では、支援員・指導員や保育職が中心で働いています。
同じ職種だけだと、子どもをみるときに偏ってしまったり、煮詰まってしまったりすることがあります。
そういうときに別の職種に意見を聞いてみると問題が解決できたり、支援が拡がったりするのことがあります。
子どもをみるとき、どうしても他の視点が必要なのです。
子どもの「何をみるか」が職種で異なる
たとえば、支援には子どもの様子から気持ちや発達を捉える作業があります。
・子どもの動きや表情にはどんな意味があるのだろう?
・何を伝えたかったのだろう
と考えることが大切です。
子どもによっては
・困っているけれど笑っている
・気持ちをどう表現すればよいのか分からない
・楽し過ぎて混乱している
というような「笑っている=楽しいんだ」という見方だけでは正しい理解ができないことがあります。
状況や前後関係から探っていく必要があるのです。
自分一人では考えがまとまらないときには、まわりの人に相談してみましょう。
そのために、放課後等デイサービスをはじめとした障害児施設には複数の保育スタッフ、専門職がいるのです。
まとめとして
今回は子どもとの「関係性」ということばについて話しました。
「関係性」とは支援を行うときに「言うことを聞いてくれる」度合いや指標を表すものではありません。
・子どもが自分を中心として自分以外とどのように関わるのか?ということ
・大人が子どもの特徴を理解すること
支援者が自分の力量を周囲に示すためのことばではないのです!
子どものことを知ったうえで支援を行うためのもの。
自分のことを分かってもらえた子どもは、慣れない課題や遊び、活動などでも「この大人となら」一緒にやってもいいかな?と思ってくれるようになるのではないでしょうか。
よかったら参考にしてみてくださいね。
※ここでの「関係性」は私の解釈です。別の意味で使っている人もいます。
参考資料
アタッチメント(愛着)理論から考える保育所保育のあり方
相愛大学人間発達学研究 2010.3.1-16
https://www.soai.ac.jp/univ/pdf/kenkyu_h1hatuduka.PDF