噛まないで食べる子どもへの支援
最終更新:2021.01.02
噛まずにご飯を食べている。そんな子どもを見ていると心配になるのではないでしょうか?食事を噛まない子は、障害の有無にかかわらずたくさんいます。
噛まないと満腹感を得られにくかったり、消化不良を起こしがちだったりします。窒息などの事故のリスクも高まります。デメリットばかりです。
これまで私は言語聴覚士として、様々な子どもの食事の様子をみてきました。よく相談を受けるのは
・噛まない or 丸飲み
・詰め込む
・どんな食材が適切か
というものが多いです。
今回は、今まで私が学んだポイントを紹介します。大人がしてあげられることのポイントをまとめました。
丸飲みのメリットとデメリット
噛まないことのメリットは・・・早く食べ終わる、くらいでしょうか。
一方、デメリットは
・食物がのどに詰まるリスクが上がる
・詰め込み食べにつながりやすい
・満腹感を感じにくく太りやすい
などなど。これ以外にもたくさんあります。
噛んで食べた方がよいのは目に見えています。支援員や教員、親御さんだって、子どもにはしっかり噛んで欲しいと思っているはずです。
丸飲みをする理由
先ほど、丸飲みは障害がある子もない子にもみられるもの、と書きました。
それらに違いはあるのでしょうか?
◆障害がある子
① 食形態が合っていない
⇒ 食べる力を超えたものが出されている
筋力が弱いために噛めないなど
② 咀嚼の力が未獲得
⇒ まだ噛む力を身につけていない
③ 体調、生活の問題
⇒ 体調が優れず、覚醒も低い状態
◆障害がない子
① 食形態が合っていない
⇒ 硬すぎるなど。子どもの処理能力を超えている
② 気持ちの問題
⇒ 無理やり食べさせられることへの拒否
③ 生活が不規則
⇒ まだお腹が空いていない
「噛まない」といっても内容は様々です。
「噛む」とは?
そもそも「噛む」「咀嚼」とはどんな力なのでしょうか?どの辞書をみても次のように書かれています。
噛む(かむ)
⇒ 上下の歯を使って物を挟んだり潰したりすること
咀嚼(そしゃく)
⇒ 食べ物をよく噛んで細かくすること
なんだか当たり前すぎてよく分かりません。では、私たちがご飯を食べるとき、歯の上下運動だけしかしていないでしょうか?
想像してみてください。私たちが普段、食べるときの歯を使い方を。奥歯は上下の動きではなく回転が加わった、ねじった動きをしています。これによって食物をすり潰しています。
すり潰すことで、食塊をつくります。食塊とは喉の奥に送りやすい大きさにしたものです。ひとまとまりにしてから飲み込めば、ムセるリスクも減るのです。
噛むようになるための支援
噛んで食べるためには
・噛む練習
⇒ 噛む動きを身につける
・合った食材
⇒ 子どもの力に合った食材を使う
1 噛む練習
丸飲みを止めさせるには、噛む動きを身につける必要があります。
下記は、
・誤嚥がみられない子
・普段から形のある物を食べている子
を想定して書いています。
①前歯で噛む練習
前歯で噛みちぎる経験を重ねます。前歯と奥歯の動きは関連していて、それが奥歯で噛む動きにも良い影響を与えるといわれるようになってきました。
スティック状の食べ物を用意して、それをかじってもらいます。大人はスティックから手を離さないようにします。手づかみで食べてもらえば一口量の調整の練習にもなります。
もしも、前歯で噛り取ることはできる。しかし、丸飲みになってしまう、という子もいたら、その場合には、大人が奥歯の上に食物を乗せて食べてもらうようにします。
前歯を使う
↓
顎が育つ
↓
噛む力が強くなる
土台を作ったうえで、噛む動きを身につけていきます。
② 奥歯の上に乗せる
奥歯の上に、歯列に沿って食物を乗せます。それを噛むようこれもスティック状のものが乗せやすいです。
野菜でもよいのですが、口の中で溶けるスナック菓子を使うと安全です。
前提条件?
どんな子でもすぐに身につくわけではありません。身につけるための前提となる力があります。それが、舌の左右運動です。
この動きは、口に入ってきたものを舌を使って奥歯の上に乗せるものです。
この動きが出ていないと噛めません。
2 能力に見合った食材の提供
子どもの食べる力に合った食材を、というのは忘れがちな視点です。
下記は、めやすです。
やってしまいがちな支援
噛む力をつけるための支援として間違えやすいことがあります。
やって見せるだけの支援
大人が自分の歯をカチカチさせて子どもにマネするよう促します。
子どももマネをしてカチカチさせます。
よく見る光景です。歯を上下にかみ合わせれば、口の中にある食物は切れます。しかし、ただ歯を鳴らしているだけ、というケースが多いです。
口の中の「出来事」なので、子どもにとって分かりにくいのです。障害を持つ子は、なおさら理解しづらいです!目で見て分かる方法を考えてみるとよいです。
例えば、
パペットを使って噛む様子を見てもらう
などが考えられます。
座る姿勢も関与
椅子に座って食事をするとき、しっかりと座っていますか?両足を床につけて食べる。この姿勢で食べると、身体も安定して噛むときにも力が入りやすくなるといわれています。
実は姿勢も噛むことに影響を与えるのです。これが意外とできていないことが多いのです。
小さすぎると食べにくい
小さくすれば噛みやすい、というのは大人の思い込みです。噛まないからといって、食材を細かくしてしまう人がいます。しかし、これでは丸飲みになってしまいます。しかも、硬くて細かいものだとよけいに丸飲みを助長します。
まとめとして
噛むことは習慣です。小さい頃から気にしていないと、大きくなってからできないまま、というケースがあります。環境の要因も大きいです。子どもは個人差が大きいです。どの子にも使えるテクニックというものはありません。
奥歯の上に乗せてもらう食べ方をずっと続けていると、その食べ方でしか食べられなくなってしまう子もいます。食べる力の練習というのは、多少なりともリスクが付きまといます。
環境調整はどんどんやって欲しいですが、訓練的なことは慎重に行った方がよいです。少しでも不安があれば医者や歯科医、言語聴覚士にご相談ください。
参考資料
◆国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
https://www.ncnp.go.jp/topics/2019/20190613.html
◆乳幼児食事相談の主訴別支援策チャート(第4版)
(公社)奈良県栄養士会 公衆衛生事業部
http://www4.kcn.ne.jp/~n-eiyou/top/sien-chart3.pdf
◆特別支援学校(知的障害)の教員からみた児童・生徒の食べ方の問題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsdh/39/2/39_103/_pdf/-char/en
◆乳幼児の咀嚼機能 発達支援マニュアル
岩田医科大学歯学部小児歯学科講座
社団法人岩手県歯科医師会
岩手県保健福祉部保健衛生課
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/030/masticatory_function_manual.pdf