重心施設からグレーの未就学児施設に転職したはなし
言語聴覚士(ST)には、専門分野がたくさんあります。すべての分野に精通しているSTは、ほとんどいません。病院ではいる可能性がありますが、施設系では、少ないです。
しかし、その分野で実際に働いてみないと分からないこともあります。
「やっぱりやめたい」
「他の分野も経験したい」
そう考える人もいるはずです。
わたしは、これまで10年以上、重症心身障害児が通う施設で、言語聴覚士(ST)として勤務してきました。今回、別の分野に転職することを決めました。実際に、働き始めて数か月がたちました。
小児のSTで、他の分野の職場に移ったとき、実際に、どんなことを考え、どんなことが起こったのか?を紹介していきます。
今回は、「個別訓練の準備」について書いていきます。
- 重心施設からグレーの未就学児施設に転職したはなし
- 言語聴覚士の専門分野は広い
- これまでの職場
- 新しい職場
- 仕事内容が変わるという恐ろしさ
- 一人で学ぶ3つの方法
- AIと手を組んで訓練を行うために
- 実際どうだったか?
- まとめとして
おどろいたこと
重症心身障害児(重心)の施設に通う子たちは、基本的に会話ができる子はいません。「歩けない」+「喋れない」子が重心の基準だからです。
そんな施設で長年、働いてきました。次の職場は、グレーゾーンの子たちの施設です。
新しい職場で驚いたのが、みんな喋ります。みんな歩きます。
この「当たり前」の状態に戸惑いました。誰も、わたしを待ってくれないのだから・・・。
重心とグレーゾーンの子
重心施設では、子どもたちは自分で移動することができませんでした。訓練も、こちらが環境を整えながら進めます。
しかし、新しい職場では違いました。
説明をしている途中で立ち歩く子もいます。
別のことに興味を持つ子もいます。
質問をすると、すぐに返事が返ってきます。
重心の子どもたちとは全く違う世界でした。
言語聴覚士の専門分野は広い
対象者が子どもの場合でも、次のような専門分野があるのです。
◾️対象者:小児
◾️対象の分野
※運動発達は理学療法士(PT)や作業療法士(OT)がみることがほとんど
これまでの職場
STになってから、ずっと障害を持つ子どもたちと関わってきました。特に、重症心身障害児の施設で働いている時間が長かったです。
そこに通う子たちは、ほぼ喋る子はいませんでした。わたしは、リハビリ専門職として勤務してきました。
専門分野は、【摂食・嚥下】や【認知発達】が中心でした。
新しい職場
新しい職場では、ほとんどグレーゾーンの子たちです。ここでもリハビリ専門職として働いています。
専門分野は【構音障害】【ことば】【認知発達】【摂食・嚥下】です。
仕事内容が変わるという恐ろしさ
他の施設に転職するときに気になるのは、大きく分けて次の3点だと思います。
・給料
・人間関係
・仕事内容
特に、仕事内容の変化は、これまでやってきたことと似たものであれば、そこまで心配はないと思います。しかし、今回、わたしは、ガラッと違う方向の職場を選びました。
メインは「構音訓練」
STとして求められるものは、職場によって異なります。新しい職場では【構音訓練】を一番に求められました。
わたしは、STの国家資格を取りたての頃、就学前の子を対象とした構音訓練を行っていました。しかし、1年半ほどの短い間でした。しかも、15年前の話しです。
はたして、今でも構音訓練をやっていけるのか?
しかも、その職場でSTは、わたし ひとりです。自分で選んだ職場とはいえ、怖かったです。
なぜ怖いのか?
新しいことを学ぶのは楽しい。しかし、怖いです。
これまで「自分が積み重ねてきた知識や経験」を放り投げて、新しい分野に飛び込むのだろう、という思いがあるからです。
STとして経験が長ければ長いほど、その思いは強くなります。「言語聴覚士を15年もやっていて、そんなことも知らないの?」と思われるのは、怖いのです。
一人で学ぶ3つの方法
しかし、怖い怖い言うだけでは先に進めません。やらないと。
では、どのように訓練の準備を行ったのでしょうか?
まずは、構音に関する訓練方法を学び直す必要がありました。周囲に頼ることができる人はいません。そこで、できそうなことを考えました。
・専門書
・オンラインセミナー
・チャットGPT
ありきたりですが、この3点を試すことにしました。
①専門書
構音訓練に関する本をできるだけ読んでみようと思いました。家にあった本を何度も読もうと思ったのですが、思うように勉強は進みません。
前職をなかなか辞められなかったため、3月末日まで勤務。新しい職場で働き始めるのが4月1日から。いつ勉強するのでしょうか?
②オンラインセミナー
コロナ禍以降、オンラインで受けられる研修や勉強会が増えました。できるだけ、勤務後や仕事がない日に研修を受けました。それでも、タイミングが合わず、結局受けたのは 2~3 個だけした。
③チャットGPT
ChatGPTやGeminiといった、いわゆるAIに助けを求めることにしました。自分で調べて、分からないことだけ質問して、できるだけ「内容に間違えがないか」を調べなおします。それが意外とうまくいきました。
AIと手を組んで訓練を行うために
AIと聞くと「丸投げ」「仕事放棄」のように思われるかもしれません。今回、そのようにならないように注意しながら進めました。AIに教えてもらうのは下記の点です。
・自分が考えた内容がおかしくないか確認する
⇒訓練内容が正しいか?
・訓練内容の広げ方
⇒週に何回も訓練を行う際の注意点は?
・子どもの特徴や捉え方
⇒子どもの評価や見るべき点はズレていないか?
注意したいのが「AIが出す答えが常に正しいとは限らない」という点です。必ず専門書や研修などで確認するようにしました。
子どもの特徴や捉え方
まずは、インテークや構音検査などをしてみて、自分なりに「子どもの所見」を考えます。所見の書き方は、これまで作ってきた「訓練計画書」「個別支援計画」のような書き方にして、言語聴覚士の先輩に相談するように、専門用語なども入れて書きました。
その所見をChatGPTに見てもらいます。もちろん、個人情報が入らないように気をつけます。
今回は、構音訓練なので、構音や喋り方に関することを中心に相談します。
自分が考えた内容がおかしくないか
子どもの所見や、構音の特徴から訓練を組んでみます。専門書や教科書を見ながら、何とか組んでみました。その訓練内容についてチャットGPTに聞いてみます。
・訓練内容が正しいか?
・古いアプローチ方法ではないか?
チャットGPTが出してくれた回答を、本や研修、他のSTのブログなどと比較しながら、実際に行う訓練内容に組み込んでいきます。
訓練内容の広げ方
子どもによっては週に3~4日、施設に通ってくる子もいます。そのため、二日続けて訓練をやらないといけない、そのようなケースが出てきます。
そういうときには、訓練課題をどう変化させればよいのか?というような、教科書になっていないようなことをチャットGPTに相談しました。
明らかにおかしな内容でなければ、実際に取り入れてみて、よければ引き続きやってみることにしました。
実際どうだったか?
もらったアドバイスをもとに、少しずつ訓練を進めていきました。10人以上受け持っています。一日平均5、6人に訓練を行っています。
過去に、わずかながら訓練の経験があったとはいえ、ほぼ、何もない状態からのスタートでした。現在も分からないことばかりです。
それでも、とても助かりました。はじめは「AIに頼るなんて」と思っていました。しかし、AIを使うのは悪いことではないことが分かりました。ようは「どうやって頼るか」なんだろうな、と感じています。
丸投げしない頼り方
将来、リハビリ職もAIに仕事を取られるかも?というニュースが出ていました。
しかし、要は使い方なのだと思います。STが自分の頭を使わずに仕事をAIに丸投げしていては、ST自身が成長しないと思います。
自分で考えて⇒アドバイスしてもらう⇒自分で修正する
その積み重ねが自分の経験にプラスになるはず。そう考えて、毎日、走り抜けています。リハビリ職は、何歳になっても、日々、勉強なのだと改めて痛感しています。
▶AIとのかかわり方をもっと知りたい方はこちらもご覧ください
⇒ AIに「放課後等デイサービスでの言語聴覚士の役割」&今後のことを質問してみた
まとめとして
今回は、小児のSTが他の分野に転職する場合、どのように学ぶことができるのか?ということを、わたしの経験を交えてお話ししました。
頼れるものは頼るとよいです。しかし、丸投げではなく、あくまで自分が訓練を行う、そんな意識を忘れないことが大切なのだと思います。
AIを目の敵にせず、うまく付き合っていければ、もっと上手く仕事がやりやすくなるのではないかと考えています。


