「重症心身障害」と「重複障害」と「重度・重複障害」の違い
今回は、脳性麻痺の分類についてです。
障害児分野でも関わる機会の多い脳性麻痺。全く同じ症状の子は、ほぼいません。脳性麻痺という概念は広すぎるため、様々な子たちが含まれているからです。
身体障害者手帳を見ても「脳性麻痺」と書かれた子もいれば「下肢機能障害」、「(各種)脳症」の子もいます。
実際には、脳の一部がない奇形がある子でも脳性麻痺に分類されているケースもあります。とても曖昧です。
障害の分類をする方法のひとつとして次のような分け方があります。
・「重症心身障害(じゅうしょうしんしんしょうがい)」
・「重複障害(ちょうふくしょうがい)」
・「重度・重複障害(じゅうど・ちょうふくしょうがい)」
実に曖昧です。今回はこれらの違いを説明していきます。
脳性麻痺ってなに?
では、本来の脳性麻痺とはどんなものをさすのでしょうか?
脳性麻痺の定義
『受胎から新生児期(生後4週間以内)までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく永続的な,しかし変化しうる運動および姿勢(posture)の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害,または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅滞は除外する』
日本医事新報社
https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d220707/
と定義されています。
はい、難しい。
簡単にいうと・・・
生後4週間(28日)までの間に、低体重や仮死などによって子どもの脳にダメージを与えることがあります。そのダメージ原因となり、運動や姿勢に悪影響が出るケースがあります。その症状が2歳までに出現する。
これが脳性麻痺です。病気ではなく後遺症です。
筋ジストロフィーのような、進行性の神経筋疾患はこれに含まれません。
脳のダメージによって知的障害が加わることもありますが、全ての脳性麻痺の子に知的障害があるとか限りません。
脳性麻痺って進行するの?
脳のダメージ自体は進行しません。ただし、側弯のような身体の歪み等が強くなることがあります。代表的なものに「側弯」があります。
側弯とは、背骨が左右にズレてしまった状態です。これは、脳性麻痺の直接的な症状ではなく、二次的なものです。この二次障害が進行する可能性はあります。
肢体不自由って何?
肢体不自由とは、身体の動きに関する器官が、病気やけがで損なわれ、歩行や筆記などの日常生活動作が困難な状態をいいます。様々な定義があります。
重心って何?
重心。保育でも毎日のように聞くことばです。では、重心って何なのか説明できますか?
正式名称は「重症心身障害児(者)」です。
これは病名でも障害名でもなく、行政上の分類名です。
「重い歩行障害」と「重い知的障害」が重複した状態の子が重症心身障害児です。
重心に似たことばで「重複障害」「重度・重複障害」があります。これらは、脳性麻痺でなくても当てはまるものです。ややこしい。
重複(ちょうふく)障害って何?
重複障害の定義は2種類あります。「教育」と「行政(厚生労働省)」によるものです。基準を作ることの目的が異なります。そのため統一はしていません。
重複障害とは
・盲
・ろう
・知的障害
・肢体不自由
・病弱上記のうち2つ以上の障害を併せ持っている子
特別支援学校学習指導要領
重複障害とは
視覚障害、聴覚または平衡機能障害、音声・言語または咀嚼機能障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、高次脳機能障害
のうち2つ以上を併せ持つ場合もしくは
内部障害の中の7つの機能障害である、
心臓機能障害、臓器機能障害、呼吸機能障害、膀胱・直腸機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
のうち2つ以上をあわせもつ場合
厚生労働省
重度・重複障害って何?
では「重度・重複障害」とは何でしょうか?
重複障害の条件に加えて、
・「発達の状況(身辺自立、運動機能、社会生活の程度)」
・「行動の状況(破壊的行動や多動傾向、異常な習慣、自傷行為、自閉症、反抗的行動など))」
を総合的に判断したものが重度・重複障害です。これも特別支援学校で使われる分類です。
それぞれの位置関係をみるとこんな感じです
放課後等デイサービスでこの分類を活かすために
気をつけなければいけないこと
普段、障害が重い子と関わっていると、“軽い子”の評価が高くなり過ぎることがあります。
実際には中等度の知的障害があるにもかかわらず「知的には問題はありません」と言い切ってしまうケース。時々、見かけます。ボランティアさんや実習生への引継ぎの際にこれを言われると「おいっ!」と思ってしまいます。
別に、自分の中だけで評価が高いのは構わないのです。ただ、高過ぎる評価は、「この子はこのくらいなら理解できているはず」という声かけや課題の設定につながりかねません。
子どもは能力以上のものを求められると、失敗します。療育や保育でも、あえて失敗させることはあります。しかし、日常的に難しいものばかり求めると、劣等感ばかり育ってしまい、自発的に何かをすることが減っていきます。これは、支援者が原因の二次的障害ということができます。
分類ばかりで困ってしまいます
「脳性麻痺」「重症心身障害」「重複障害」「重度重複障害」
分類がたくさんあります。今後、さらに細分化や統合を繰り返していくのでしょう。
しかし、これらの分類を覚える必要はありません。
大切なことは、目の前にいる子の現状を捉えること。
これまで、保育で大切にしてきた「子どもの気持ちに寄り添って」ということだと思います。
それに加えて
・発達段階はどのくらいなのか?
・理解する力はどのくらいなのか?
を念頭に置いて一緒に過ごすことで、子どもは
「この大人は自分のことを分かってくれている!」
と思ってくれるのではないでしょうか?
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★「医療的ケア児」「超重症心身障害児」についてはこちらから↓
参考文献
◆我が国における「複数の種類の障害を併せ有する子ども」の教育の枠組みと課題
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/5216/seika5_1.pdf
◆文部科学省HP
資料4-1 重複障害者等に関する教育課程の取扱いについて
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/063/siryo/attach/1370130.htm
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 55巻10号 (2018年10月)
◆特集 重複障害とリハビリテーション医療
1 重複障害—定義,現状,リハビリテーション医学・医療の留意点
◆障害者職業総合センター研究部門
重複障害の障害認定に関する現状と法制度
http://www.nivr.jeed.or.jp/download/houkoku/houkoku72_02.pdf
◆日本医事新報社 脳性麻痺
https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d220707/