障害の基準(知的障害/精神発達遅滞)
IQということばを耳にしたことがあると思います。クイズ番組でよく出てきます。数値が高ければ、いわゆる「頭が良い」。障害児分野でも、検査結果や申し送り書などでよく使われます。
しかし、実際の現場では数値を見ても「へー、そうなんだ」で終わることが多いです。確かに数値だけで子どもを判断することは危険です。
もったいない!子どもを知るための手がかりとしてのIQを活用しない手はありません。もう一度「IQ」と「知的障害」についておさらいしていきましょう。
「IQ」と「知的障害」
「IQ」と「知的障害」は、どちらも知的能力に関係する用語です。
IQって何?
IQ(知能指数)とは、
・知能検査などの結果を数値で表したもの
・数値は100が基準
100よりも高いほど知能が高い、低いほど知能も低いということができます。一般的なIQは実年齢(生活年齢)が基準となっています。
IQに似たことばで偏差値があります。
これは、50を基準として集団の中で自分の位置がどこなのかを知ることためのものです。皆さんご存知の通り、学校の入試で使われています。
知的障害とは
「障害児」すべてに知的障害があるわけではありません。
アスペルガー症候群や大人の発達障害のような、知的に問題のない(少ない)ケースもあります。障害児=知的障害という捉え方はしない方がよいです。
知的障害(精神遅滞)
知的障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、「知的発達の障害」を表します。すなわち「1. 全般的な知的機能が同年齢の子どもと比べて明らかに遅滞し」「2. 適応機能の明らかな制限が」「3. 18歳未満に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。
有病率は約1%前後とされ、男女比はおよそ1.5:1です。知的機能は知能検査によって測られ、知能指数(IQ)70以下を低下と判断します。IQ値によって、軽度・中等度・重度と分類されることもあります。重い運動障害を伴った重度知的障害を重症心身障害と表記することもあります。
e-ヘルスネット 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
簡単に言うと・・・
18歳までに生じた何らかの原因によって、脳の機能がダメージを受けました。
↓
そのため、思うように発達が進んでいきません。
↓
同年代の子と比べると、生活に明らかな制限が現れます。
分類方法は団体によって多少異なります。 よく目にする分類は下記の通りです。IQの数値がどこにあるかで重症度が決まります。
知的障害の程度・判定基準(厚生労働省)
中度 35~50 重度 21~35 最重度 20以下
|
もう一つの分類として、WHO(世界保健機関)のICD(国際疾患分類)があります。
70~85 ボーダー 50~69 軽度 (精神年齢9歳~12歳未満) 35~49 中等度 (精神年齢6歳~9歳未満) 20~34 重度 (精神年齢3歳~6歳未満) ~20 最重度 (精神年齢3歳未満) ※( )内は成人の場合 |
①知能水準がI~IVのどこに該当するか?
+
②日常生活能力水準が a ~ d のどこに該当するか?
*知能水準の区分
I ・・・ おおむね 20 以下
II ・・・ おおむね 21~35
III ・・・ おおむね 36~50
IV ・・・ おおむね 51~70
*身体障害者福祉法に基づく障害等級が 1 級、2 級又は 3 級に該当する場合は、一次判定を次のとおりに修正する。
最重度 → 最重度重度 → 最重度
中度 → 重度
厚生労働省 程度別判定の導き方
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html
知的障害がある子と関わるために
知的障害には重さによって分類できることが分かりました。では、知的障害のある子(人)と接するときに気を付けることはあるのでしょうか?
どのくらい分かっているのか?
一番大切なのは、ちゃんと理解できているかどうか?ということです。
・声かけは理解できている?
・すべての意味を把握できている?部分的に?
「カバンを持ってから、こっちに来て」と指示を出したとします。しかし、大人の指示をすべて理解できておらず「こっちに来て」だけを聞いて、何も持たずに近寄ってくることがあります。
理由はいろいろ考えられます。長い文が理解できなかったり、言われたことを覚えておきながら行動に移すことが苦手だったりすることが原因となりえます。
障害のない子も同じ
まだ小さい子は、理解する力も弱く、大人の指示を100% 把握することは難しいです。そういう子に対して
「なんで言われたことができなにの?」
「この子はわがまま」
と感じて怒り散らす。それが日常化する。そして虐待へとつながっていく。
指示や状況を理解していないだけなのに・・・
大人と一緒に経験を積むことで理解できることも増えるのに・・・
大人よ。なぜ待てない。自分が子どもの頃は何でも自力でできてしまう賢い子だったのか?
3)実際の知的障害ってどんなかんじなの?
数値で言われれば、何となくわかる、でも実際はどんな感じなのでしょうか?
実際に接してみると、重い障害でも結構な数の喋っている人がいます。しかし、会話が噛み合わない、受け答えが曖昧、という印象を受けるケースも多いとです。
下記は、だいたいの目安です。個人差と環境によるものが大きいです。
軽度知的障害
会話も出来ているため、小学校に入るまで気づかれないことも多いです。学校での勉強でつまづくことが多くあります。言語の発達も緩やかです。食事や服の着脱などの生活習慣には問題はありません。
中等度知的障害
言語発達や運動発達の遅れはみられますが、ことばもほとんど習得していてコミュニケーションをとることも出来ます。文字の読み書きはある程度であれば可能なことも多いです。適切な指示があれば、難しくない仕事を行うことができます。入浴時に洗い忘れがある等、身辺自立は部分的で、すべてをこなすことは難しいです。
重度知的障害
言語発達や運動発達の大きな遅れがみられます。平仮名の読み書きがや簡単な受け答えができる人もいます。決まって行動や簡単な繰り返しなどを行うことができます。生活動作もなんとなくできます。身体の汚れや服の乱れなどは気にすることがあまりありません。ひとりで身のまわりのことを行うことは難しく、見守りいといえます。
最重度知的障害
ことばによるコミュニケーションは難しいです。喜怒哀楽の表現や身振りで簡単な意思表示をしようとすることはあります。食事や衣類の脱着などの生活全般に見守りや介助が必要となります。
重い運動障害もあわせ持っている状態を重症心身障害児となります。
何となくの評価は自分の首を絞める
例えば、ことばがあってコミュニケーションが取れる子がいるとします。大人からの質問にも答えてくれます。
・喋ることができる
・受け答えができる
この2点があるだけで「この子は年相応の知的能力があるんだ」と、高過ぎる評価をつけているケースがあります。特に放課後等デイサービスでの保育の評価はその傾向があります。
高過ぎる評価をした場合、
「この子は、知的に遅れがないはずなのに、なんでこれができない?」
という考えになり、
「自信がないからだ」
と評価をして、
「じゃあ、成功体験の場をつくろう!」
という支援目標で終わる、というか堂々巡りになることがあります。
確かに成功体験をつくることは重要です。しかし、そこでの着地点はそこではないはずです。放課後等デイサービスだけでその子の力を探れないのであれば、学校や外部施設からの情報を活用するとよいです。
もしも、知能検査や発達検査を受けているのであれば、それを見せてもらう。学校から教えてもらえることは考えづらいので、保護者から教えてもらえるのが理想です。
知能検査でIQが分かれば、もしくは、発達検査で認知発達の傾向が分かれば、前述したことを踏まえて支援の対策を練ることができます。
療育とは「丁寧な子育て」
通常、障害のない子は様々な能力を自分の力で獲得していきます。しかし、障害を持っている子の場合、それがうまくいかないことが多いのです。そのため、支援というかたちで後押しをして、それらの力がつくよう、もしくはそれに気づくよう学びの手伝いをしていきます。それが療育です。なので、結局、療育とは丁寧な子育てだということができるのです。
参考資料
厚生労働省 知的障害
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html
厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
脳科学辞典:索引 知的障害
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%9F%A5%E7%9A%84%E9%9A%9C%E5%AE%B3