保護者との関係をこじらせない“伝え方のコツ”〜
「そんなつもりじゃなかったのに…」
子どもや保護者と関わる仕事では、何気ない一言がきっかけで、雰囲気がピリッとしてしまうことがあります。特に障害を持つ子が通う施設の場合、親御さんが よりナーバスになっている場合もあります。
放課後等デイサービス(以下、放デイ)は、子どもと家庭、学校をつなぐ大切な場所。だからこそ、「伝え方ひとつ」で関係づくりの方向が変わってしまうこともあるのです。
この記事では、放デイで働く新人スタッフさんに向けて「つい言ってしまいがちな“ことばの地雷”」と「信頼を生む言い換えのコツ」を紹介します。
伝える場面が多い障害児支援
放課後等デイサービスの業務のひとつに「親御さんへの申し送り」と「自宅までの送迎」がある施設があります。その日あったことを親御さんに報告します。伝える内容は次の通り。
・今日の遊びや活動は何だったか
・子どもの様子はどうだったか
・変わったことはなかったか
+その他
・現在の問題や課題に対して言うことはないか
スタッフが申し送りを聞いている親御さんをみていると、反応は様々。
・嬉しそうに聞いてくれている親御さん
・微妙な顔をしている親御さん
・はやく帰りたそうにしている親御さん
嫌な顔をしているとき、その原因としてあげられるのが、スタッフの伝え方や内容です。
「伝え方」で印象は大きく変わる
いったい、どのようなNGワードを言ってしまったのでしょうか?どう言えばよかったのか?紹介していきます。
「できませんね」は禁句!
子どもの様子を伝えるとき、つい言ってしまいがちなのが「○○くん、これが できませんでした」。
現状を説明したいだけでも、保護者には「できない」と言われたように聞こえ、ショックを受けてしまうことがあります。
「まだスプーンをうまく使えませんね」
「お友だちと仲良くできませんでした」
そう言うのではなくて・・・
「スプーンを持とうとする動きが出てきましたね。次はすくう練習をしながら、遊びでも取り入れてみましょう」
「欲しい玩具が友だちとかぶってしまいました。そのとき、取り合いになって ちょっと泣いてしまいました。でも、最後は握手で仲直りできたんですよ」
と伝えると、前向きで希望のある印象になります。
「できない」ではなく、「今ここまでできている」+「次の目標」を伝える。ほんの少し言葉を変えるだけで、子どもの頑張りを一緒に喜べる会話になります。
「お母さんが悪いわけじゃないんですが」は地雷ワード
保護者に気を使って、こんな前置きをつけてしまうことはありませんか?
実はこれも“地雷”になりがちです。
たとえば…
「お母さんが悪いわけじゃないんですが、おうちでの対応がちょっと…」
と切り出すと、防御的に聞こえてしまうことがあります。
代わりに、
「ご家庭とこちらで同じ方向を向けると、○○くんがもっとやりやすくなると思います」
というように、「責任」ではなく「協力」の姿勢で伝えるのがポイント。
実際に施設で「どのように」取り組んでいて、「どのような」変化がみられるか?を伝えるのも相手にとって分かりやすい助言となります。
支援は“誰が悪い”かではなく、“どうすれば良くなるか”を一緒に考えること。その空気を作るのも、日々の言葉づかいから始まります。
否定より提案でつたえる
「それは違います」「そうじゃないんです」と、つい口にしてしまうこともあるかもしれません。
でも否定から始まると、どんなに正しいことを言っても、相手の心は閉じてしまいます。たとえば…
保護者が「家ではこの方法でやってるんです」と話してくれたとき、「でも、それはちょっと違って…」と言うよりも、「それ、いい工夫ですね。こちらでも少し取り入れてみましょうか」
このように返すだけで、会話が前向きになります。正しい情報よりも「相手の気持ちを尊重する姿勢」を優先すること。それが、信頼される支援員への第一歩です。
家での食事では、あきらかに子どもの能力よりも高いものを食べている場合。
⇒「施設スタッフは、全員が食事の介助が上手いわけでありません。わたしたちもお母さんと同じように上手にできないこともあるので、そのときは「安全」なやり方で食べてもらうこともあります。もちろん、介助の練習をしていきます。」
※「あなたは間違っています」と直接的に言ってしまうと、相手は心を閉ざしてしまうことがあるので注意!
支援員は“気持ちの通訳者”
放デイのスタッフは、子どもと保護者、学校をつなぐ“通訳者”のような存在です。子どもがうまく言葉にできない気持ちを汲み取って伝えたり、保護者の不安をチームに伝えたり。
そんな「気持ちを伝える力」こそ、支援員の大事なスキルです。
うまく言葉が出てこないときこそ、丁寧に言葉を選び、「この人になら話してみよう」と思ってもらえるような関わりを目指しましょう。
また、他施設で「難しいこと」を言われたとき、こちらが「こういう意味で言ったのかもしれません」と伝えてみるのもよいです。その際、他施設の肩を持つのではなく、親御さんの心のモヤモヤを軽くするために通訳するのは大切なことです。
注意したいのが、自分とは異なる職種の人が言ったことを通訳しようとしても、余計に こんがらがってしまい、新たなトラブルが生まれることもあります。
学校の言語聴覚士から言われたことを、放デイの支援員が「なんとなく」通訳してしまう。
意外と多いケースです。トラブルや事故につながることがあるので気をつけたいです。
保護者「給食の食形態を下げられた」
支援員「もっと硬いものでも食べられますよね!」
こんなとき、“悪者探し”をするより、「どうしてそうなったのか?」を一緒に考えることが大切です。
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おそらく、この場合、意地悪で食形態を下げたのではなく、「新しい課題が見つかった」「特定の力をつけたい」といった意図があるはずなのです。分からないことは専門職に聞いてみるのが確実です。
まとめとして
今回は、支援の現場で よくあるNGワードと代替表現について説明しました。ポイントは「伝えるより“伝わるか?”を意識しよう」ということです。
放デイでは、1日に何十回も「伝える場面」があります。しかし、大切なのは「伝えた」ことよりも「伝わった」かどうか。相手はどんな気持ちになったか?ということ。
ほんの一言を変えるだけで、いろいろ変わります。
・「責めることば」→「寄り添うことば」
・「報告」→「共感の共有」
ことばは、子どもや家庭との関係を支える“道具”でもあり“絆”でもあります。「伝える力」を育てることは、支援の力を育てることでもあるのです。
「伝える」は技術。「伝わる」は信頼。
放デイの支援は“信頼”の積み重ねでできています。
よかったら参考にしてみてくださいね。



