放課後等デイサービスでのSTの役割とは?
「言語聴覚士(ST)は、ことばの訓練をする人ですよね?」
障害児の分野で働いていると、現場で このように聞かれることがあります。たしかに、STは「ことば」を見る職業です。しかし実際には、STの役割は「ことば」だけにとどまりません。
言語聴覚士は、放課後等デイサービスにおいて、ことばだけでなくコミュニケーションの土台づくりから支援できる専門職です。
特に、重症心身障害のある子どもたちに対しては、ことば以前のコミュニケーションの土台を支えることが重要になります。
この記事では、
• 放課後等デイサービスで言語聴覚士は何ができるのか
• 話せない子どもに対する支援の具体例
• 実際の療育活動の内容
について、現場の実践をもとに解説します。
この記事を読むことで、「放課後等デイサービスで言語聴覚士がどのように子どもに関わり、どんな価値を提供しているのか」が具体的にイメージできるようになります。
言語聴覚士(ST)は「ことば」だけの専門職ではない
言語聴覚士というと、「発音訓練」や「ことばの遅れへの対応」をイメージされがちです。しかし本来の専門性は、コミュニケーション全体を支えることにあります。
例えば、次のような力も支援対象です。
• 感覚を受け取る力(触覚・聴覚など)
• 自分の身体に気づく力
• 人に注意を向ける力
• 安心して他者と関わる力
これらはすべて、将来的なコミュニケーションの基盤となります。
言語聴覚士は放課後等デイサービスで何をする仕事?
言語聴覚士(ST)はリハビリ職のなかの一つです。しかし、体のリハビリではありません。
・ことば (音声言語+非音声言語)
・きこえ (聴覚障害)
・飲み込み(摂食・嚥下)
+
・発達(考える力や理解の育ち)
これらが言語聴覚士の(代表的な)専門分野です。STの仕事について、こちらの記事で紹介しています。
放課後等デイサービスにおけるSTの専門性
コミュニケーションの支援とは、どのようなものなのでしょうか?
「コミュニケーション」=「ことば」ではないの?
そう思われている人も多いと思います。しかし、そうではありません。
コミュニケーションとは、人と人とのやり取りのことです。そのときに使うものが「ことば」なのです。ことば以外も使うものがあります。それは、次のようなものです。
・身振りやサイン
・視線や表情
・身体の動き
・声の調子やリズム
これらはコミュニケーションで使うためのツールです。子どもは、これらを使って人とやり取りしています。
「ことば(音声言語)」が一番偉い、というものてはありません。どの方法でも、子どもと世界をつなぐために欠かせないものとなるのです。
コミュニケーションを取れない子に対して、ことばだけを教え込んでも、やり取りができるようにはなりません。「相手とやり取りしたい!」と思ってもらえるようにするのが「支援」なのです。
コミュニケーション発達の流れ
コミュニケーションのはじまりは、次のような流れになります。
自分以外の世界に気づく
「人と世界をつなぐ」ために、まずは「外の世界に気づいてもらう」のです。実際に、STがみているのは、次のような箇所です。
これらの活動は一見シンプルですが、STならではの専門的な視点が含まれています。
よくある質問(FAQ)
施設スタッフから、よく聞かれる質問があります。
言葉に関する質問
Q. 話せない子どもに言語聴覚士は必要ですか?
A. 必要です。
⇒ことばの前段階(感覚・注意・関係性)を支えることが、STの重要な役割です。
反応の有無に関する質問
Q. 反応がない場合でも意味はありますか?
A. あります。
⇒外からは分かりにくくても、内的な経験として蓄積されています。
コミュニケーション支援
実践の例を紹介します。障害を持つ子に、どのようなコミュニケーション支援をするのか知ってもらえればと思います。
【実践例①】重症心身障害児への療育プログラム

ここでは、放課後等デイサービスで実際に行える、重症心身障害児向けの療育活動を紹介します。
対象となる子ども
• 発達年齢:0〜1歳半程度
• 発語なし・歩行なし
• 外から見て反応が少ないように見える子
療育のねらい
• 身体への気づきを促す(ボディイメージ)
• 人との関係性の土台をつくる
• 安心できる環境を提供する
活動内容(30分プログラム)
【実践例②】軽度〜中等度の発達の遅れがある子どもへの療育
ここでは、比較的反応が見られる、軽度〜中等度の発達の遅れがある子どもへの支援例を紹介します。※放課後等デイサービスに通う子を想定しています。
重症心身障害児への関わりと同様に、コミュニケーションの土台を大切にしながら、より「やりとり」に焦点を当てることがポイントです。
対象となる子ども
対象は次の通り。
• 発達年齢:1歳半〜3歳程度
• 発語がない、または単語レベル
• 指示理解は一部可能
• 人や物への興味が見られる
療育のねらい
療育の狙いは次のようになっています。
• 意図的な発信(伝えようとする力)を引き出す
• 模倣や共同注意の促進
• 「伝わる」成功体験を積む
活動内容
30分を想定した、活動の案です。
※ 軽度ケースにおけるSTの関わりのポイント
重症心身障害児の支援と異なり、この段階では「やりとりの成立」が重要になります。
ただ活動を「やってもらう」のではありません。「どうやって人や物と関わっているか?」という視点で子どもをみることがポイントです。
「待つ」ことの重要性
⇒大人が先回りせず、子どもの反応を引き出す時間を確保する。
意外と、この「待つ」ができない支援者は多いのです。
成功体験を増やす
小さな反応でも「伝わった」と感じられる関わりを行う。
⇒「上手くできた!」という感情は、「またやってみよう」という気持ちにつながります。
意味づけをする
子どもの行動に対して、ことばを添える。
⇒子どもが大人にボールを渡すとき、大人は「ボールちょうだいだね」と、ことばで行動を表してあげる。ことばと行動を結びつけたいのです。
過剰な指示を避ける
「やらせる」よりも「一緒に楽しむ」関係性を重視する。
⇒指示ばかり出されても、子どもは面白くないはず。一緒に「楽しかったね」の経験を重ねることで、「この人とならやってもいいかな」という思いを引き出したいのです。
重症心身障害児との違いと共通点
重症心身障害児(重心)と、その他の障害児の支援に違いがあるのでしょうか?
◆ 違い
重心の子の場合、発達が初期段階であることが多いです。そのため、自分以外のものに「気づく」ための支援が必要となります。
一方、比較的、障害が重くない子たちの場合、やり取りを学んだり、発信する練習をしたりすることが多いです。
◆ 共通点
共通点もあります。どちらの障害でも、目の前にいる人に意識が向くように、関わりを通して、コミュニケーションの土台を育てていきます。支援者との関係性を深めながら、様々なことを学んでいくのです。
発達段階に応じて「つなぎ方」は変わる
言語聴覚士の役割は、発達段階によってアプローチが変わります。
• 障害が重い子:世界を届ける関わり
• 軽度〜中等度:世界とやりとりする関わり
どちらも共通しているのは、人と世界をつなぐ支援であることです。
放課後等デイサービスにおいて、STは子どもの発達に応じて、その「つなぎ方」を調整する専門職だといえます。
まとめとして
今回は、言語聴覚士は「ことば」を教えるだけの専門職ではない、というお話しをしました。STは「人と世界をつなぐ専門職」です。
・感じること
・気づくこと
・人とつながること
その一つひとつを支えながら、子どもと世界の間に橋をかける専門職です。
放課後等デイサービスにおいて、STの関わりは「できることを増やす」だけでなく、
「世界とのつながりを広げる」支援でもあります。
それは、目に見えにくいけれど、確かに子どもたちの中に積み重なっていく大切な経験です。
繰り返しになりますが、言語聴覚士(ST)は「ことばを教える人」ではなく「人と世界をつなぐ専門職」なのです。放課後等デイサービスで言語聴覚士の配置を検討している方や、STとして働きたい方の参考になれば幸いです。
よかったら参考にしてみてくださいね。
放課後等デイサービスで働く言語聴覚士の役割や仕事内容については、以下の記事で全体像をまとめています。
▶ 放課後等デイサービスで働く言語聴覚士の役割と仕事内容
▶ わたしが考えるSTの可能性





