障害児の食事ではバランスよく「マナー」と「支援」を行おう!
障害を持つ子の食事支援を行うとき、何を大切にしていますか?
もちろん安全が第一です。
ではその次は?
姿勢や機能などの食べる機能の発達?
食べる場所や音などの環境調整?
それともマナー?
マナーと支援の関係は意外とややこしいです。
支援者に「食べる機能の発達」という視点がないと「マナー」にばかり目が向いてしまうのです。
障害児でもマナーって大切でしょ?
そう思っているわれる支援者も多いです。
今回は、食べる機能に何らかの苦手さがある子に対して「マナー」を重視し過ぎた支援をしていては何も変わらないんだよというはなしです。
なぜマナー重視ではいけないのでしょうか?
それはマナー教育だけでは子どもが持つ問題の根本が解決できないからです。
ここでは障害児が通う施設で問題となりやすい3つを紹介します。
(食事介助について)保育スタッフからよく聞かれる質問もあわせて載せています。
「マナー」は障害児の分野では目立たない内容のものが多いのが事実です。
しかし、一度深みにはまるとなかなかなくならない、根強い問題が多いのも事実です。
悩ましい問題です。
なぜマナーにばかり目が向くの?
障害を持つ子への食事介助は、子どものどこを見てどういう方法で支援をすればよいのか分からない。
だからパッと見て分かりやすい「マナー」の問題に目が向いてしまうのです。
障害児、特に肢体不自由の子たちが必要なのはマナーではなく安全に無理なく食べる力のはずです。
支援者もそれは分かっている。
けれど、どうすればよいのか分からないのが現状なのではないでしょうか?
マナーについて
マナーということばをよく聞きます。
では一体「マナー」とはどのような意味なのでしょうか?
つまり、人と人との関わりの中でお互いが嫌な感情にならないための決まりごとのことです。
三角食べはマナーの問題
難しいのが、マナーの問題です。
日本では行儀やマナー、たしなみ等の食事に関する“縛り”がたくさんあります。
障害児施設のスタッフのなかには「うちは“三角食べ”を徹底させているので、摂食(指導)面では問題ありません」と言っている方もいます。
“三角食べ”とは、ご飯→おかず→汁物のループで食事を進めていくもの。
1970年代の学校給食で行われた「マナー」の教育のことです。
確かに“三角食べ”は乾いた口やご飯が入った口の中を汁で湿らせてきれいにするのに一役買っている部分はあります。
しかし、誤嚥防止の支援方法とは言い切れません。
あくまでマナーです。
「手づかみ食べ」を「マナー」の観点からみると、お弁当や給食は「スプーン」、おやつは「手づかみOK」と決めてしまうのも一つの手です。
「施設で食べるときは手づかみでもいいよ。でも、お出かけ先ではスプーンを使いなさい」では子どもが混乱してしまいますよね。
マナーの問題?食べる機能の発達の問題?
子どもが食べる様子をみていると、これは何が原因なのかよく分からないことがあります。
これはマナーなのか?
それとも食べる機能の発達なのか?
たとえば「手づかみ食べ」。
スプーンや箸ではなく手で食物をつかんで食べることです。
これはマナーの問題?発達の問題?
「手づかみ食べ」について
障害児支援のスタッフから食事に関する質問をいただくことがあります。
「手づかみ食べ」への対応に困っている人は意外と多い。
下記は質問の例です。
なぜ手で食べるのか?を考えよう
なぜスプーンではなく手でご飯を食べてしまうのでしょうか?
手がうまく使えていないから
原因として考えらえるのは、手指に不器用さがあって、うまく箸やスプーンを使えていないという問題です。
この場合には、エジソン箸を使ったり、スプーンの握りを太くしたり、フォークを使って刺して食べる等の工夫でうまくいくことがあります。
過敏があるから
もう一つの原因が、食材の味や見た目、手触り、硬さに敏感な場合です。
手づかみ食べをする時、苦手な食材を手で避けたり、食べられるものだけを手で取り分けたりしている可能性があるということです。
そういった子には中に何が入っているか分かりやすい盛り付けで見せてあげます。
食材を混ぜずに、一つ一つの食材がはっきりと分かるようにして、スプーンで取りやすいように盛り付けるとよいです。
「手づかみ食べ」のメリット
「手つかみ食べ」は何歳頃からできるようになるものなのでしょうか?
障害がない子(定型発達)では 1歳ころからみられるようになる食べ方です。
障害を持った子では学齢期でもこの食べ方をしている子がたくさんいます。
1歳頃の食べ方なんだな。
じゃあ「手づかみ食べ」は小さい子の食べ方なのか。
そう感じてしまうかもしれません。
しかし、手づかみ食べをすることで、子どもはたくさんのことを学んでいくのです。
なぜ必要なのか?を詳しく見ていきましょう。
①「一口の量を覚える」ということ
手づかみ食べは、自分で必要な量をかじり取って舌の先に食物を落とします。
スプーンでは山盛りに持ったものを入れがちですが、手づかみでは多い量になりづらいです。(一度に詰め込まない限り)
②「舌や口唇の動きを育てる」ということ
舌というのは、根元が喉につながっています。ということは、舌の先の方がよく動きやすいということです。
私たちは、食べるときに、食物と唾液を混ぜながら一塊にしていきます。
それは、塊にした方が飲みやすいからです。
塊をつくるには、舌で食物を歯の上に乗せます。
この動きが上手でない子は丸飲みしやすい傾向があります。
丸飲みする子には、食物を置く場の上に乗せてあげることで、噛む動きが出るケースがあります。
③ 手と目を一緒に使う
手を使って食べるとき、目を使って食物や手元を確認した方がスムーズに食べられます。
手づかみ食べの練習をしているうちに「手元を見る」練習にもなります。
ただし、周囲に気が向かないような配慮は必要です。
さらに、手を使いながら、目で確認して食べる、ことで手指の操作も上手になってきます。
これが「手と目の協応」です。
これらの一連の流れの後に、箸やスプーンで食べられるようになるのです。
スプーンや箸を使うために必要な力
自分で手づかみ食べができないのに、スプーンや箸を上手に使うのは難しいのです。
手を使って食べることで「目と手と口の協調した使い方を」学んでいき、手指の操作性を高めていくことが期待できます。
その一連の流れの後に、箸やスプーンで食べられるようになるのです。
はんすう(反芻)について
知的障害を持つ子のなかには「はんすう(反芻)」をしている子がいます。
スタッフのなかでも気になっている人はたくさんいます。
反芻ってなに?
いったい「はんすう(反芻)」とは何なのでしょうか?
反芻
明らかな身体的原因がないのに逆流が起こることもあります。このような逆流は反芻と呼ばれます。反芻では、通常食後15~30分で、少量の食べものが胃から逆流します。逆流物はしばしば口にまで到達し、再び咀嚼(そしゃく)され嚥下(えんげ)されます。反芻は通常は不随意のもので、吐き気、痛み、嚥下困難を伴うことなく起こります。反芻は乳児によくみられます。成人では、ほとんどの場合は情緒障害のある人に起こります(特にストレスにさらされているとき)。
知的障害を持つ子の中には、反芻を行う子がいることは昔から知られていました。
反芻とは、一度、飲み込んだものを、げっぷと共に逆流させ、もう一度、咀嚼していることです。
反芻は「自傷行為」のひとつと考えることもできます。原因として考えらるのは
・胃や舌の異常な運動
・心理的な退行現象
の場合があります。反芻の原因は、特定が難しいといわれています。
ここでの【心理的】というのは、
・手持ち無沙汰
・情緒不安定
・ストレス
が原因のものです。感覚刺激の遊びとして習慣化している場合もあります。
介助者が充分に口腔ケアを行っていても、口臭や歯(純粋にエナメル質と象牙質)のすり減りが現れやすいといわれています。
そのため、特別な対応が求められるのです。
はんすうの原因は何か?
反芻には様々な原因があります。
「やめて」と注意すれば止められるものではないのです。
①食材が大き過ぎたり、飲み込む力が弱っかたり、というこの場合
一度飲み込んでも、喉の奥(喉頭蓋谷や梨状窩)に残ったものを口に戻して、再度、食べる。嚥下に障害がなくてもやっている人は多くいます。
⇒対応は、しっかり咀嚼や嚥下をしてもらうという指導
②感覚遊びで行っている場合
喉の奥から食材を戻す時の感覚を、刺激として楽しんでいる。
手持ち無沙汰だったり、他者の注意を引きたいときなどにやっているケースが多い。
⇒行動療法(A,B,C)などで対応します
対応①
療育的なアプローチとしては「反芻以外のものに興味を向ける」という支援が考えられます。
反芻は食事以外の場面でも現れます。
食べ終わっても席から離れられない時やトイレの排便時などです。
こういった場合は、(マナーの問題はありますが)代替えとなる玩具を持たせてそれで遊ばせるようにしてあげる等が対処として考えられます。
ひとつ、注意しなくてはいけないのが、反芻をしている子を見て、それをマネた子が学習してしまうケースというのがあります。
そういった場合は、早めの対応が求められます。
対応②
知的障害を持っている子は、空腹感を満たしたい、目の前のものをなくしたい、という思いから、早食べになりがちです。
ゆっくりと味わいながら食べることで反芻の頻度が減ることが研究の結果から明らかになっています(『反芻を有する障碍者への歯科的対応法の確立』渡部ら 1018)
ゆっくりと食べることで、食後の満足感が変わってくるからです。
普段、5分で食べ終えていたならば15分に延長してみる。
対応③
また、食事の量を多くすると半数が抑制されることも知られています。
しかし、これはもろ刃の剣で、ただでさえ、肥満傾向があるといわれている障害を持つ子。
健康の面から考えても、一般的に推奨されている方法ではありません。
③胃から逆流している場合
胃からの逆流。嚥下後の時間やにおいで判断します。また反芻したものが溶けていると、胃から逆流したと判断することができます。
⇒これは医療的な対応が必要です
・どのような時に
・どのような物を
・どのような状態で
反芻しているか、を観察することが大切です。
食事介助中のスタッフの様子
食事の支援では「子どもに対して」いろいろやることがあります。
逆に支援者自身は何に気をつければよいのでしょうか?
食事の際に、スタッフ同士で子どもと関係ない話で盛り上がっていることがあります。
スタッフ間で話していても、子どもを過度に興奮させなければ、問題は少ないかもしれません。
話しながら食事介助も丁寧にこなすスタッフはたくさんいます。
しかし、そうでない人も多くいます。
私自身も後者で、器用ではないために一つずつにしか集中出ないです。
子どもの安全を保障するために、支援者としてできることを探してみてください。
食事の間、私語厳禁にしてしまっては、雰囲気も暗くなってしまいます。
“食事”という場面で、どうすれば楽しく過ごすことが出来るのか?
食事の時だからこそ出来る話しもたくさんあると思います。ぜひ、考えてみてください。
まとめとして
今回は「マナー」ばかり問題視すると、食べる機能の発達というような本来の問題点が見えにくくなってしまうよというはなしをしました。
子どもの現状を捉えて、楽しく安全に食事ができるといいですよね。
食事の支援でもまずは「子どもが困っていることは何なのか?」を考える。
目標や支援を明確にすることが大切です。
よかったら参考にしてみてくださいね。
食事支援のオススメ本です!
参考文献
■『反芻を有する障碍者への歯科的対応法の確立』
渡部ら 障歯誌 39:96-102,1018
■食事指導ガイドブック (茨城県教育委員会)H26.1
■肢体不自由教育よくある相談
香川県立高松養護学校
■短報『重症心身障害者にみられた反芻・嘔吐に対する選択的セロトニン再取り込み阻害剤の効果』横浜療育園小児科・小児神経科、東京女子医科大学小児科 斎藤義朗ら
■広辞苑 第7版(新村出版)