意外と難しい弁別について
発達領域では当たり前のように使われる弁別(べんべつ)。
何だか分からない。でも大事なんでしょ?今回は弁別のはなしです。
弁別は発達や障害とどんな関係があるのでしょうか?
弁別について
弁別とは「分けること」です。
・三省堂国語辞典
⇒ 違いを認めて区別すること
・ブリタニカ国際大百科事典
⇒ 2つ以上の異なる刺激の間の差異を感知する作用
・goo辞典
⇒ 物事の違いをはっきりと見分けること
どの辞書を調べても、だいたい同じようなことが書かれています。
では、発達の分野で使われる「弁別」はどのような使われ方をしているのでしょうか?
子どもにとっての弁別とは?
先ほども書きましたが、弁別とは「分ける」力です。
しかし、単なる仕分けではありません。
物事を理解するための土台が「弁別」という能力なのです。
見分ける、聞き分けることで「それが何なのか?」という理解が深まっていきます。
まずは同じかどうかを判断できるようになります。
その後、何が違うのか?に着目できるようになります。
違いに気づけばグループ分けもできるようになります。
選び取る力や単語とその意味を結びつける力にもつながります。
① 同じか?同じではないのか?
目の前にある2つのものが同じなのか?
・形は?
・色は?
・大きさ、長さは?
・重さは?
などなど。まずは、同じかどうか?を理解する力を身につけます。
② 何が違うのか?
これまでは、
・丸と丸だから同じ
・赤と青だから同じではない
という判断でした。それが
・丸と三角は形が違う!
・赤と青だから色が違う!
と何が違うのか?にも気づけるようになってきます。
③ グループ分け
グループ分けとは対象を種類ごとに分けることです。
・果物
→リンゴ、みかん、ブドウ・・・
※色や形が違っても同じグループのもの
④ことばの基礎
単語とその意味を結びつける力
ex.
「リンゴ」ということばは「赤くて、甘くて、丸いもの」という意味を表すもの
弁別の種類
ちなみに、感覚器によって「分ける」のことばが異なります。
・見分ける(目)
・聞き分ける(耳)
・弁別する(認知)
弁別の発達段階
いきなり見ただけで違いに気づき、分けられるようになるわけではありません。
「分ける」にも発達的な順序があります。
大きく分けると下記の3つの段階で進んでいきます。
物の違いに気づく段階
まずは「それ」か「それ以外」という捉え方をします。「それ」とは、
・大好きな「それ」
・よく目に入る「それ」
好きなものを見つけるのが得意な子っていますよね?
これは大好きな「それ」に気づいているからなのです。
しかし、注意したいのが「それ」に気づいているからと言って、複数の中から選び取っているわけではないということ。
色と形
◆知的障害、自閉症の子
⇒ 色の方が分かりやすい。知的障害が重い子でも、形の違いは分からなくても色の違いには気づける子は多い。
◆肢体不自由の子
⇒ 形の違いが分かりやすい。形は分かるのに、なかなか色の違いに気づけない子は少なくない。
触って分かる段階
「物には形がある」ことに気づく必要があります。
この段階では、まだ見ただけでは違いに気づけません。
触ってみる必要があります。
型はめ(パズル)やビー玉などを頬に当てている子がいます。
これは感触遊びをしているときもありますが、形を肌で感じ取っていることも考えられます。
繰り返し、触って形の違いを判断していくうちに目の使い方も上手になっていきます。
そして見比べられるようになっていくのです。
目の使い方の変化
① 動くものに目を走らせる
② 数秒間じっと見る
③ 好きな物のゆっくりの動きを目で追う
④ 対象から目を離さず目で追う
⑤ ゆっくりの手の動きを目で追う
目で手の動きを調整する
⑥ 左を見て右を見て、また左に視線が戻る『発達支援と教材教具』P.55より
見て分かる段階
まずは見比べられるようになります。
そのあと見て分かるようになってくるのです。
対象となる物と物の距離が離れていると見比べしにくい場合があります。
その際には距離を知覚してみるとよいです。
おまけ:似たことば
弁別には似たことばがたくさんあります。しかも分かりにくいです。
「弁別」「鑑別」「鑑識」「鑑定」「判別」「識別」
ことばの違いは大枠では同じ意味。
・同じか違うか?
・どのくらい違うのか?
細かな違いは下記の通りです。
弁別(べんべつ)
違いを認めて区別すること
鑑別(かんべつ)
物事を調べたうえで良し悪しなどを見分けること
鑑識(かんべつ)
物事の真偽などを見分けること
鑑定(かんてい)
骨董品や美術品などの真偽を判定すること
主にものに対して行う
判別(はんべつ)
意味の違いを明確に区別すること
識別(しきべつ)
物事の種類や質を見分けること
調べずに直観で見分けることも
◆例えば「音を理解する過程」
聞こえてから理解するまでの過程は
① 音の検出(音がある?ない?)
↓
② 音の弁別(2つの音が同じ?違う?)
↓
③ 音の識別(どんな音?)
↓
④ 音の理解(どんな意味がある音?)
まとめ
今回は「弁別」について紹介しました。
「分ける」ことにも発達的な意味があるのです。
弁別とは対象となるものが何なのか?を理解するために必要な力なのです。
障害児保育や療育の分野でよく使われることばです。
子どもを理解するために役立つ考え方です。
よかったら頭の片隅に置いておいてください。
参考文献