言語聴覚士は放課後等デイサービスで何ができる?

放課後等デイサービスで言語聴覚士(ST)としてできること、役割を探っていくブログです

放課後等デイサービスで初心者がつまずきやすいポイント【10個】

放課後等デイサービスの支援でやりがちなこと

放課後等デイサービスは施設数も増え、福祉とかかわりのない人にも知られるようになってきました。通っている子どもの数も増えています。それとともに、働いている人の数も増えています。

簡単なように見えて、意外と難しいこともある放課後等デイサービスでの仕事。もちろん、毎回、上手くいくとは限りません。
わたしは10年以上、言語聴覚士として いくつかの放課後等デイサービスで働いてきました。そこでの失敗を踏まえて、初心者がつまずきやすいポイントを紹介します。

これを知っておけば、放課後等デイサービスで働くとき失敗が減るはずです。「やってしまいがちなこと」を対処法とともに10個あげていきます。

 

 

 

誰もが つまずくこと

失敗をするとつらいです。「自分は向いていないんじゃないか?」そんなふうに思ってしまうかもしれません。しかし、失敗をして悩んでいるのは、あなただけではありません。
「なんでも知ってます」という顔をして働いている先輩だって、初心者の頃は失敗ばかりだったはずです。

 

10のポイント

今回、紹介するのは次の 10 個です。大きく分けて 2つの種類があります。

子どもに関すること
一緒に働くスタッフのこと

そうなんです。放課後等デイサービスで ″ うまくやていく ”には上記の 2 つが欠かせないのです。

障害を持った子供のことを理解(しようと)すること
スタッフ同士うまくやっていくこと

これらに関する「つまずきやすい点」「失敗」等、どのようなものがあるのか?みていきましょう。


① 子どもの障害特性の理解不足
② 支援よりも「管理」になってしまう
③「遊び」と「療育」の境目のあいまいさ
④ 一人で抱え込んでしまう
⑤ 家庭や学校との温度差への対応
⑥「できた/できない」の評価に偏る
⑦ 感情的に対応してしまう
⑧「その子らしさ」を尊重する余裕のなさ
⑨ 保護者対応の難しさ
⑩ 職場内コミュニケーションの不足

 

 

① 子どもの障害特性の理解不足

障害児は まったく言うことを聞いてくれない。いらないことばかりする。
そんなふうに思ってしまい、支援に自信がなくなってしまう。確かに、いたずら好きな子、ワガママな子もいます。しかし、たいていは そうではありません。理由が隠されているのです。

 

ex.
ADHD、自閉スペクトラム症、知的障害など、特性や行動の背景を理解せず「わがまま」「反抗」と捉えてしまう
ex.
重症心身障害児で反応が薄い子・遅い子に対して「主張がない」「聞いていない」と捉えてしまう

 

対応

まずは、目の前にいる子が「どういう捉え方をする子」で、「どのくらいの理解度があるのか?」を考えてみましょう。「理解度」は障害児支援においてキーワードとなることばです。

 

 

② 支援よりも「管理」になってしまう

今より ずっと昔。障害児者との関りや介助のことを「指導」と呼んでいました。いわゆる「問題行動」を注意や強制をして正していこう、という考え方です。
今では、子どもの特性や発達段階に合わせた やり方で関わっていくようになりました。それを「支援」と呼んでいます。

障害児支援というと「指導」のイメージが強いからか、「どうにかキッチリやらせなければ」と新人スタッフが焦ってしまうのです。

 

ex.

お茶は必ず飲みなさい。飲まないと遊びに参加させません。昼食や おやつの時間が終わっても水分摂取を強制する。

なにも考えず、先輩スタッフっから言われた通り子どもに強制してしまう(せざるをえない)。病気で水分摂取の量が決まっていたら 飲んでもらうしかありません。しかし、そうでなかったら、そこまでする必要があるのでしょうか?もしも、自分がそんな支援?を受けたら・・・。

安全確保を優先するあまり、禁止や制止ばかりで、子どもの主体性や楽しさが削がれてしまう。

 

対応

なぜ、そういう支援を行うのか?あらかじめ、先輩から新人に伝えておくことが望ましいです。
「昔から そうだから」「家族が そうしろと言うから」
そんなのは理由になりません。

もし、「なぜ?」を伝えてもらえていなかったら、信用できる先輩に聞いてみてください。

 

 

③ 「遊び」と「療育」の境目のあいまいさ

意外と難しい、この問題。「遊び」と「療育」。ただ遊ばせるだけでなく、発達や生活力につながる活動にどう工夫するか迷いやすい。

 

ex.

① 自閉スペクトラム症の子へのブロック遊び

【遊び】
⇒ 子どもが好きなキャラクターを作って楽しんでいる。大人は見守るだけ

【療育】
⇒ 大人が「赤いブロックを取って」「高く積もう」と声かけし、指示理解・言語理解・課題遂行力を育てる

ex.

② 肢体不自由児への風船遊び

【遊び】
⇒ 風船を見て笑う・風の動きを目で追うだけでも楽しい体験。

【療育】
⇒ 大人が風船の高さ・位置を調整し、「手を伸ばす」「上肢を動かす」「注視する」などの運動・感覚・認知の発達を促す。

 

対応

「遊び」としては単なる楽しい時間でも、療育や発達の視点があれば「もっと動きを引き出せる」「もっと興味を深められる」という「もっと」を子どもにプレゼントできる可能性があるのです。

「遊び」と「療育」。どちらも「遊び」ですが、目的と大人の関わり方で意味がまったく変わってくることを頭の片隅に置いておきましょう。

 

 

④ 一人で抱え込んでしまう

障害児支援の仕事は失敗がつきものです。わたしも長年、障害児の仕事をしていますが失敗ばかりです。長く働いていても上手くいかないのだから、新人スタッフは もっと上手くいかないのではないでしょうか?

困難な行動に直面しても先輩や管理者に相談できず、自分の責任だと感じて疲弊してしまう。

 

ex.

何回やっても、わたしの持ってきたものに興味を持ってくれない。きっと他のスタッフは、わたしのことセンスがないと思ってるのだろうな・・・

 

対応

⇒「失敗して当たり前」「子どもを危険な目に合わせなければOK」そのくらいの気持ちで臨んでみてください。そこから「今日は、子どもが何を どんな風に見ているのかチェックしてみよう」「前回よりもシンプルな声かけを心がけてみよう」そのくらいで大丈夫です。

 

 

⑤ 家庭や学校との温度差への対応

保護者の期待と学校側の見立ての違いに挟まれ、どちらに寄り添うべきか迷いやすい。

 

ex.

学校が給食を「中期食」に下げたいって言うの。冗談じゃないわ。家では家族と同じものを食べているのよ?

 

対応

あくまで子どもの見方になること。でも、親御さんを否定しない

学校の場合、先生によって「丁寧」「熱心」「横柄」など、様々なタイプの人がいます。子どもの捉え方も違うはずです。あまりにもひどいやり方をしているときは、もっと偉い先生の相談してOKです。

ちなみに、上記の例の場合、学校側は「何らかの理由」があって食形態を下げているはずです。先生に変更の理由が聞けそうなら聞くとよいですし、ダメそうなら言語聴覚士(ST)に相談するのも手です。

 

 

⑥ 「できた/できない」の評価に偏る

支援していて、よく耳にするのが「できること」を増やした方がよい、です。それは、よい支援の考え方なのでしょうか?
確かに「できること」が増えれば親御さんも うれしいと思います。では、危険意識が低い子に対して、親御さんから「ハサミを使えるようにしてほしい」と言われたら どうしますか?

障害を持つ子は、発達段階のどこかしらで「つまずき」があります。そのため、実年齢(生活年齢)の子たちと比べて「できない」ことが目立ってしまうのです。
「なぜ、できたのか?」「なぜ、できなかったのか?」を深く考えていくことで、子どもの本質が見えてくるはずです。

 

ex.

記録を書くときに「できた」「できない」ばかりの文章になってしまう

 

対応

⇒目に見える成果ばかりを気にしてしまい、子どもの小さな変化や努力を見落としがち。前後関係や普段の様子を踏まえて、「なぜ今回は、こういう結果になったのか?」と考えてみるといのです。

わたしたちの仕事は こどもが「できることを増やす」ことではありません。子どもの興味が拡がるように、ひとつでも「気づき」が生まれるようにお手伝いすることが役割なのではないでしょうか?

 

 

⑦ 感情的に対応してしまう

さすがに怒鳴ってしまう人は少ないと思います。しかし、「苦手だな」と感じる子を避けてしまうことはあるはずです。「この子とは相性が合わない」よく聞くセリフです。しかし、実際には、相性の問題ではなく関係ができていないだけというケースの方が断然多いのです。

 

ex.

子どもの癇癪やこだわりに巻き込まれ、つい怒鳴ってしまったり距離をとりすぎてしまったりする

 

対応

⇒障害児支援において、対応する大人をチェンジする、というのは「支援のやり方」として確立しているものです。感情的になりそうなとき便利な方法です。子どもと距離を置けるからです。
「最後まで対応できなかったら負け」そう思っている人もいますが、そんなことを思っている方が負けです。大人が変わることで子どもが落ち着くこともあるのです。
施設の外で、あなたと子どもだけの場合は、どうにか頑張るしかありませんが・・・。

 

 

⑧ 「その子らしさ」を尊重する余裕のなさ

みんなと同じ行動を求めすぎて、その子の得意やペースを活かした支援が難しくなってしまう。大人の方が余裕なない、という現象が起こりがちなのです。

 

ex.

一日の流れが決まっている放課後等デイサービスでは、スタッフたちが、なるべく予定通り、ものごとが進んでほしいと願っています。そのため「早くいくよ」「次は この遊びだよ」と、すべての子に押し付けてしまうことがあります。

 

対応

⇒スタッフが早くしたくても「子どもが なにかに集中している」「もうすぐ気持ちを切り替えられそう」というケースもあるはずです。待ってあげたいけど・・・わたしの一存で待ってあげられない・・・。

一番よいのは、「こういう場面では、どのくらい待ってあげてよいのか?」他のスタッフに確認をとっておくことです。スタッフによって子どもとの関係性は異なるので、待ち時間も違ってくるかもしれません。だったら「施設として、どのくらい待つか?」スタッフ間で決めておくのも手です。

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「この障害の子は○○という特徴やパターンがある」というものはあります。しかし、同じ障害だからといっても、すべての子が同じ中身なはずはありません。そこは押さえておきましょう

 

 

⑨ 保護者対応の難しさ

親御さんも いろんな人がいます。スタッフだって もっと いろんな人がいます。関わりが難しいこともあります。代表的な「対応で難しさを感じるの場面」は次のようなものがあります。

・無茶なことをいわれたとき
・言いづらいことの報告をするとき

実例と対応は下記のようなものがあります。

 

ex.1
送迎の順番を変えてほしい。「あの子と一緒の車にはしないで」(特定の子と一緒は嫌だと言う)

一人の要望を聞いていたら、全員の要望を聞かなければならなくなります。送迎時間を伝える際、順番は伝えないのが原則です。

✕「○○君(17:30)⇒△△君(17:40)」
○「本日の送迎は○○君は17:30です」

いろんな原因はあるのかもしれません。しかし、よっぽどのことがない限り、すべて言うことを聞く必要はないのです。

 

ex.2

お子さんが友だちを叩いてしまいました

親御さんに伝えるときの原則は、すぐに名前を出さない、です。

◆ 叩いた子⇒「ちょっとお友だちを叩いてしまいました」
◆ 叩かれた子⇒「お友だちの手が当たってしまいました」

※親御さんに聞かれたら叩いた子の名前をつたえる

特に「○○君に叩かれました」という伝え方をしてしまうと、悪い印象が先行してしまいます。

スタッフが「しっかりと見ていなくて申し訳ない」と必ず伝えること。叩いた子ではなく、あくまでスタッフの落ち度と強調しておきます。

 

注意!

発達障害の子 同士であれば「お互い様だから」で終わることが多いです。(場合にもよりますが)
しかし、発達障害児と肢体不自由児の間のトラブルでは、大事になるケースがあります。というか、なりやすいです。

 

【余談】

・意外と多いのが、自分のうちの子が叩かれたら怒るのに、友だちを叩いたら「お互い様だから」と言う。そりゃないぜ。

・ただ、法律的にはOKなのに、スタッフが知らなくて「違う!」と思っているケースもあるため、勉強や情報の共有は必要かな、と、わたし自身、痛感しています。

 

 

⑩ 職場内コミュニケーションの不足

時々、子どもに対する支援のやり方がスタッフによって違う施設があります。これは、スタッフ間のコミュニケーション不足が原因です。
支援などの情報共有が不十分だと、支援がスタッフごとにバラバラになり、統一感のない対応になってしまうのです。

 

ex.

大人の注意を引きたくて、あちこち唾を吐く子がいた
⇒スタッフAは「ダメだよ」「やめて」と 止めるまで ことばで言い続けた
⇒スタッフBは あえて反応しないようにした

子どもの行為が「反応見」だと仮定できれば

 

「反応見」とは
子どもが自分でしたことで大人が反応するのを面白がること。悪いことをやりながら、チラチラ大人の方を見ていることが多いです

 

 

まとめとして

今回は、放課後等デイサービスで働いているスタッフが失敗しやすいこと、つまずきやすいことを10個お話ししました。

これらは「失敗」ではなく、多くの新人が通るステップです。大切なのは「一人で抱え込まないこと」と「子どもを理解しようとする姿勢」です。

これら10個のポイントを、先輩たちはどのような対応を行っているか?それをよくみておくことが大切です。まずは「すごい」「すてき」と思う先輩のやり方を真似してみましょう。そこから徐々に自分でアレンジしていくと、無理のない素敵な支援になってくるはずです。